現在位置:asahi.com>デジタル>デジタル読書トレンドWatch!> 記事 都会の暮らしに不器用な女性たち 『11センチのピンヒール』2007年12月04日 [評者]落合早苗 女性誌などを眺めながら、時々、こういう絵に描いたような人はほんとうにいるのだろうか?と思うことがある。仕事ができ、家事も完璧。流行のファッションに身を包んで、美容のために夜更かしもせず、肌のお手入れにも余念がない。誰でも1日に与えられているは24時間というのに、どのようにやりくりをしたらこのような理想的なライフスタイルに仕上がるのだろう。それよりはやや旧聞に属するが、ドラマにもなった「ホタルノヒカリ」(ひうらさとる著/講談社)の干物女ぶりの方がよほど共感できる。が、それも長いあいだ仕事をしているうちに枯れてしまったからで、若いうち、特に20代半ばごろまでは、私自身もずいぶん背伸びをしたものだ。 先日、ケータイ向け小説配信サイト「100シーンの恋」で人気だった作品が書籍化された。『11センチのピンヒール』(Lily著/小学館)である。ボルテージ運営によるこのサイトは2001年9月にEZweb公式メニュー内でサービスを開始した、「恋愛」をコンセプトにコラムニストやライター、あるいはブロガーなどを起用して、20代の女性をターゲットにオリジナル作品を配信する老舗のケータイ小説サイトである(iモードは2003年7月、Vodafone live!は2004年7月)。本作品の著者・Lily氏も恋愛コラムや音楽エッセイを中心に活躍するライターで、『おとこの通信簿』(英知出版)、『タバコ片手におとこの話』(講談社)の著書を持つ。本作品は2007年5月から8月まで全60話で配信されたもので、書籍が発売された現在もバックナンバーが読めるようになっている。 主人公の里子(さとこ、しかし周囲には「りこ」と呼ばせている)は、昇進することなくアルバイトのまま、もうすぐ25歳を迎えようとしているアパレル販売員。長くつきあっていた金持ちの彼氏とも別れてしまい、恋愛にも仕事にも、焦りを感じている。おまけに同僚や友人には見栄から小さな嘘を重ねており、本音がいえない。私生活ではキャッシングやローンが100万円にも膨れ上がっている、という設定。タイトルが象徴するように11センチのピンヒールを履いて、自分を必要以上に大きく見せようと背伸びしているが、その愚かさに里子自身も気づきながら、なかなか素直になれない。ある少年との出会いで、里子の気持ちが少しずつほぐされていく過程をていねいに描いた恋愛テイストの作品だが、それ以上に見事なのは、都会で女性がひとりで暮らしていくことの孤独やシンドさの描写であろう。 もちろんそのシンドさは、里子が自分自身のイメージから勝手に作り上げてしまったものだ。自分自身で苦しみ、葛藤しながら、頑ななこころを解いていく、里子の芯の部分が素直であったことに救われるストーリー。ケータイ小説特有の改行の多さも目につかず、働くこと、生活することの大変さを一度でも感じたことのある人には、共感できるものがあるだろう。恋愛小説の体裁を借り、決して仕事そのものをテーマにはしていないものの、これは「お仕事小説」といえるジャンルでもあるのかもしれない。 プロフィール
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