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コラム「デジタル読書トレンドWatch!」

祝! 直木賞受賞 桜庭一樹氏自身による朗読をどうぞ 『1、2、3、悠久!』

2008年01月22日

[評者]落合早苗

 1月16日、第138回芥川・直木両賞が発表された。もともと文芸書は作り部数が少なく重版も慎重に検討されるケースが多いが、受賞作品は数日のうちに増刷され、おもに芥川賞に見られる単行本化されていない作品は書籍として発行されて、帯が巻かれた姿で書店店頭に新たに配本されることになる。

 電子書籍の方はといえば、まだまだ同時発売や発表直後に配信される作品は少ない。過去の例を見ると、第129回芥川賞受賞作『ハリガネムシ』(吉村萬壱著/文藝春秋)、第130回芥川賞受賞作『蹴りたい背中』(綿矢りさ著/河出書房新社)(本作品は受賞時にすでにPC・PDA向けにデジタルファイルとして発行されていた)、第132回直木賞受賞作『対岸の彼女』(角田光代著/文藝春秋)、第136回芥川賞受賞作『ひとり日和』(青山七恵著/河出書房新社)と片手で足りるくらいである。ただし過去の受賞作品はそれなりのボリュームが電子書籍化されており、また受賞作でなくとも受賞作家たちの作品で読めるものも多い。

 今回の受賞でいうなら、直木賞受賞の桜庭一樹氏の作品はいくつかヒットする。氏の名前を広めることになった人気シリーズ「GOSICK」シリーズ(富士見書房)が3までと、13人の作家によるアンソロジー「午前零時」(新潮社)収録の『1、2、3、悠久!』、そしてその著者朗読版である。

 『1、2、3、悠久!』は、パブリッシングリンク運営のサイト・タイムブックタウンでオリジナル書き下ろし作品として配信されたもの。午前零時をテーマに2006年5月より、鈴木光司氏や今回候補に挙っていた馳星周氏などの作品が順次配信された短編のひとつ。シリーズ最終話に該当し、2007年4月に発表された。

 登場人物は、母と4人の姉妹、それに姉妹が成長したあとに突然現れた弟の6人。母親の最期や末娘が弟との関係など、閉じた独特の世界観が展開されており、シュールで余韻の残る一編である。モチーフだけを切り取るならば、今回の受賞作の萌芽がすでにこの作品にあったように思えるのだが、それは深読みしすぎか。エンタテインメントというよりは、手ごわい文学という作品。

 朗読版(テキスト付き)は、中性的で低めの声、トーンもテンポも抑え気味で、より深くこの世界観が味わえる、ような気がする、電子書籍ならではの作品。「一樹」というペンネームから男性と思っていた人も多いかもしれないが、まだ露出の少ない著者の、肉声を聴くことができる、オトク感の高いコンテンツでもある。

プロフィール

落合早苗(おちあい・さなえ)
株式会社hon.jp代表取締役社長
学習院大学文学部卒。出版社・IT関連サービス会社等を経て2004年3月インプレス(現・インプレスホールディングス)入社。同月設立の100%子会社リーディングスタイル(現・hon.jp)に出向。丸善丸の内本店の電子書籍体験コーナーの運営や表参道のカフェを使ったケータイ読書プロモーションを企画実施。2006年10月より現職。日本ペンクラブ会員。日本出版学会会員。

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