現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. デジタル
  4. 斎藤・西田のデジタルトレンド・チェック
  5. 記事

電子書籍の「黒船」 キンドルって何だ?(3/3ページ)

2009年11月12日

  • 筆者:斎藤幾郎・西田宗千佳

写真拡大画像1:キンドル国際版。価格は259ドル。大きさはA5判程度で、意外と小型。左右のボタンでページ送りを行う

写真拡大画像2:今は日本のアマゾンからリンクで飛び、米アマゾンで購入するようになっている

写真拡大画像3:(上)キンドルの包み。この箱のまま国際宅配便で送られてくる。非常にシンプルで「エコ」な感じのするパッケージだ。(下)キンドルの箱を開ける際の「タブ」に書かれた文字。「これから本を読むんですよ」という演出なのだろう

写真拡大画像4:初期出荷状態のキンドルには、このように「説明表示」が出ている。シールなどではなく、れっきとした「電子ペーパー」の表示。キンドルの特質を理解させる、面白い方法だ

写真拡大画像5:キンドルの文字を大きく表示。ドットなどが目立つことはなく、かなりなめらかな印象だ。標準の文字サイズは、ペーパーバックなどより少し小さめ、といったところだろうか

写真拡大画像6:キンドルで「ページ移動」をすると、画面全体が一瞬反転表示になり、それから次の画面に書き換わる。電子ペーパーの仕組みから来る制限だ。このため、動画表示のような「高速切り替え」は難しい

写真拡大画像7:キンドル向けに毎日新聞が提供している日刊英字新聞「The Mainichi Daily News」。月額13.99ドル

肝は「通信機能」と「通信費アマゾン払い」のビジネスモデルにあり

 実のところ、電子ペーパーを使った電子書籍端末は、なにもキンドルが最初ではありませんでした。日本では2004年ごろにソニーが製品化していますし、現在もいくつかのメーカーが開発を表明しています。

 それらとキンドルとの最大の違いは、「通信」を使ったビジネスモデルにあります。

 キンドル国際版には、携帯電話と同じ日本でも使える「3G通信モジュール」が内蔵されています。要は、これ自身が無線でインターネットにつながる端末なのです。しかし、携帯電話と大きく違うことが2つ。それは、「通信料」を自分で払うことも、通信会社と自分で契約することもない、という点です。

 キンドルは「ウィスパーネット」と呼ばれる通信機能を内蔵していますが、「通信料」という名目でのお金は一切かかりません。キンドルの中から、アマゾンで販売されている書籍(英語版)をダウンロード購入したり、新聞や雑誌の定期購読を申し込んだりできます。日本の媒体では、毎日新聞が英語版をキンドル向けに提供しています(画像7)。しかも、価格は紙より安い。中心価格帯は、書籍の場合12ドル弱、新聞の場合月10ドル〜22ドルといったところです。

 これらは、パソコン上で探して「購入」することもできます。購入すると、キンドルの通信機能を使い、キンドル内に「自動ダウンロード」されます。また、新聞などの定期刊行物ならば、新しい号が出ると、それが自動的にダウンロードされるようになっています。

 それまでの電子書籍は、必ずパソコンなどと接続し、書籍の転送処理を行う必要がありました。キンドルでもそれは可能ですが、別に必須のものではなく、内蔵通信機能で用が足りてしまうのです。「携帯電話の電波が入るところなら、いつでも好きな本が買えて、いつでも最新の雑誌・新聞が手に入る」これが、キンドル最大の魅力です。

 先ほど触れたように、キンドルを使っても通信費は請求されません。しかし、それはあくまで「ユーザーが直接払わない」だけです。この通信費は、実はすべてアマゾンが負担しています。本や定期刊行物の購読費に通信料が含まれており、それでカバーする仕組みなのです。

 「通信内蔵型電子書籍端末」は、多くのメーカーが検討していました。しかし、携帯電話事業者との契約などが面倒で、ユーザーに負担を強いるのが難点と言われ続けていたのです。しかしアマゾンは、そこで発想を逆転し、「自らがリスクをとる」ことで、ユーザーに通信費負担を強いないビジネスモデルを見つけ出しました。

 筆者も、実際にキンドル上で新聞を購読して読んでみましたが、なかなか快適な体験です。いままでの新聞とは「違うもの」ですが、紙資源も使わず、内蔵の辞書を使って簡単に単語の意味も探せる。しかも、気になる部分は「クリップ」してとっておくこともできます。

 キンドル国際版は2GBのフラッシュメモリーを搭載しており、その中に書籍を蓄積していきます。アマゾン側は「1500冊以上」の本が蓄積できる、としていますが、実際にはそれより多くのものを扱えます。実のところ「無限」なのです。

 理由は、ネットにつながっているから。いったんアマゾンで購入した電子書籍は、いつでも無料でキンドルに「再ダウンロード」できます。すべての本をアマゾンで買ったとすれば、キンドルが通信でつながっている限り、「自分の書庫すべて」の本を取り出して読めるわけです。

 この発想は、筆者のような根っからの「本読み」にはたまらないものです。文庫本・単行本だけで、毎月20冊以上のペースで増えていく筆者にとって、本の整理は切実な問題。本の量に多寡あれ、多くの本好きに共通の悩みではないでしょうか。特にアメリカの場合、そんな人々の多くはアマゾンを日常的に利用しています。「楽に便利に本を買える」環境を与えられれば、もっと本を買うようになるはず……。アマゾンが狙ったのはそんな作戦だったのです。

 現在アメリカでは、キンドルに刺激を受けたのか、様々なメーカーが「電子書籍端末」でしのぎを削っています。ソニーやバーンズ・アンド・ノーブル(アメリカの大手書籍販売チェーンで、アマゾンのライバルと言われる)なども、「キンドル型ビジネスモデル」の端末を用意し、本格的な「電子書籍時代」の到来を待っている状況です。

 すでに述べたように、キンドル国際版は「英語のみ」の端末ですから、多くの人にお勧めできるわけではありません。逆にいえば、英語が苦にならない人、もしくは英語を積極的に読んで勉強したい人には、非常に魅力的な商品といえます。

 アマゾン側は「いつ」「どのような形で」という点を明言していないものの、日本市場への進出を前向きに検討しています。マンガや細かな漢字表示への対応など、日本で求められるレベルを満たすにはさらなる改良が必要になりそうですが、「通信機能内蔵・通信費事業者払い」のビジネスモデルを使った端末は、必ずや日本にもやってくるでしょう。

 紙の本はいとおしく、便利なものです。しかし、その一部を電子書籍が代替するようになるのは、意外と近いのかも知れません。キンドル国際版を実際に使ってみると、そう思わざるを得ないのです。

   ◇

電子書籍端末「キンドル国際版」(米・アマゾンドットコム)製品情報 http://www.amazon.com/dp/B0015T963C

前ページ

  1. 1
  2. 2
  3. 3

次ページ

プロフィール

斎藤幾郎(さいとう・いくお)

1969年東京都生まれ。主に初心者向けのデジタル記事を執筆。朝日新聞土曜版beで「デジタル若葉マーク」を連載中。近著に「パソコンで困ったときに開く本」(朝日新聞出版)、「グーグル100%利用術」(同)、「てくの生活入門」(講談社、一部を担当)がある。新刊「すごく使える!超グーグル術」(ソフトバンククリエーティブ)が3月19日に発売!

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」(朝日新書)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)がある。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内