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2012年8月9日10時39分
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電子書籍サービスは「クラウド書庫型」に注目!

図:画像1:「クラウド書庫」のイメージ図。購入履歴がネットに蓄積され、それが「ネット内の本棚」のような働きをする(制作:澤田朋宏)拡大画像1:「クラウド書庫」のイメージ図。購入履歴がネットに蓄積され、それが「ネット内の本棚」のような働きをする(制作:澤田朋宏)

写真:画像2:日本でクラウド書庫を早期に導入したサービスの一つである「紀伊國屋書店BookWeb Plus」。様々な端末で読めることを強くアピールしている拡大画像2:日本でクラウド書庫を早期に導入したサービスの一つである「紀伊國屋書店BookWeb Plus」。様々な端末で読めることを強くアピールしている

写真:画像3:「紀伊國屋書店BookWeb Plus」の利用例。グレーになっているのが「クラウド書庫」にある本。ダウンロードして読めるようになったものは、はっきりした色に変わる拡大画像3:「紀伊國屋書店BookWeb Plus」の利用例。グレーになっているのが「クラウド書庫」にある本。ダウンロードして読めるようになったものは、はっきりした色に変わる

写真:画像4:シャープの「GALAPAGOS Store」iOS版。Androidで読んでいた本もそのままiOSで読める。アプリのダウンロードと利用は無料拡大画像4:シャープの「GALAPAGOS Store」iOS版。Androidで読んでいた本もそのままiOSで読める。アプリのダウンロードと利用は無料

写真:画像5:ハリー・ポッター電子書籍版を販売している「ポッターモア」日本語版。DRMを撤廃し、自由に使えるサービスを狙っている拡大画像5:ハリー・ポッター電子書籍版を販売している「ポッターモア」日本語版。DRMを撤廃し、自由に使えるサービスを狙っている

 先日楽天が、電子書籍ストア「楽天Kobo」をスタートさせました。専用端末「Kobo Touch」が7980円と安価なことから注目されました。また今年中には、アメリカでもっとも大きなシェアを持つ電子書籍サービス「Amazon Kindle」が、日本でもサービスを開始する予定です。

 そんな電子書籍サービスの中で大切になっているのが、「クラウド書庫型」という考え方です。これは、新規参入組の楽天やアマゾンだけでなく、すでに日本でサービスを行っている既存事業者も相次いで採用するもので、電子書籍を安心して買うためには必須の機能です。クラウド書庫型でなにができるのか、そしてそれが我々にどうプラスとなるかを学んでいきましょう。(西田宗千佳)

「購入履歴」が本棚に変わる!

 電子書籍に興味はあるけれど、なんとなく怖くて手を出せない、という人はけっこういるのではないでしょうか。買いたい本が見つからない、ということが一番のバリアーであることは間違いないのですが、「買った本が無駄になるのが怖い」という意識もあるでしょう。現在の電子書籍では、買った書籍に「著作権保護」(DRM)がかけられ、コピーができなくなっています。そのため、自分がもっている端末で読む分にはいいのですが、その端末を使わなくなった時にどうなるのか、と不安に感じられるのも当然といえます。確かに昔の電子書籍端末はそうだったのです。

 ですが、最新のサービスでは、方向性がかなりかわってきています。コピーができないことに違いはないのですが、より安心して使えるようになっています。それが「クラウド書庫」です。

 どんな考え方のものかは、図を見ていただくのが一番良いでしょう(画像1)。電子書籍を買った履歴は、電子書籍ストアにきちんと保存されています。それがサービス内では「本棚」のような役割を果たします。本を様々な端末で読む場合には、その「クラウド書庫」からダウンロードして読む形になるのです。

 従来の電子書籍サービスでは「端末の中に入っている本のデータ」こそが、自分の買った書籍の本質でした。しかし「クラウド書庫」を導入した現在の電子書籍サービスでは、ちょっとニュアンスが変わっています。「本を買ったという履歴」そのものが本質で、端末の中にダウンロードされているデータは「一時的に使っている情報」的な扱いなのです。以前はデータが消えてしまうと本が読めなくなりましたが、今はデータがなくても、もう一度ダウンロードしてくればよいため、端末からは消えてしまっても問題はありません。

 クラウド書庫型電子書籍サービスの利点は、端末の種類にあまりこだわらなくて良い、ということです。移動時にはスマートフォンで、自宅でゆっくり読むときにタブレットで、旅行時には電子書籍専用端末で……といった使い分けもできますし、逆に、一つの端末で複数の電子書籍ストアを利用することもできます。一つのサービスで全ての本が買えるのなら良いのですが、現状そうではありません。また、値段や使いやすさ、読みやすさなどは、サービスによってそれぞれ違っています。ごひいきの電子書籍ストアは決めておき、別途端末にあったストアを使い分ける、といったこともできるでしょう。専用端末では、通常、1つの電子書籍ストアしか使えませんが、スマートフォンやタブレットなどでは複数のストアを使うことができます。また、一つのストアで複数の専用端末を使い分けることもいまは難しいですが、専用端末とスマートフォン、タブレットを使い分けることはできるようになっています。

ハードメーカーも「他社端末利用OK」に舵を

 クラウド書庫型と言っても、電子書籍ストアにより、どのような形で使えるかには違いがあります。

 まず最初に注意すべきは、どの端末で使えるか、ということです。一番わかりやすいのが、iOS、Android、専用端末など、全てで使えるサービスです。例えば紀伊国屋書店の「紀伊国屋書店BookWeb Plus」(http://bookwebplus.jp/)は、書店がやっているサービスだけに、とにかく様々な端末で使えるのが特徴です(画像2、3)。イーブックイニシアティブジャパンがコミックを中心に展開する老舗「eBookJapan」(http://www.ebookjapan.jp/)や、凸版印刷系でパソコンにプレインストールされていることも多いBookLiveの「BookLive!」(http://booklive.jp/)も、様々な端末の対応に積極的なサービスの一つです。出版社主導のサービスとしては、角川書店グループの「BOOK☆WALKER」(http://bookwalker.jp/)が、マルチ端末型です。

 ちょっと意外に思われるかもしれませんが、「ハードウエアメーカー」のサービスも、クラウド書庫型で広い端末に対応した方向へ移りつつあります。シャープの総合電子書籍ストア「GALAPAGOS Store」(http://galapagosstore.com/)は、Androidに加え、8月8日よりiPad・iPhoneなどのiOS機器に対応したアプリ「電子書籍 GALAPAGOS」(http://itunes.apple.com/jp/app/dian-zi-shu-ji-galapagos/id538345738?mt=8)をリリースしました(画像4)。シャープは2年前にサービスをスタートした時には、自社の専用端末でビジネスをしていましたが、昨年よりAndroid端末向けのサービスへと舵を切っていました。Android上ではシャープ製端末の他、他社の端末にも対応していたのですが、この夏、ついにまったくの他社向けであるiOS端末にも対応しました。iOSに対応する理由をシャープ側は、「ユーザーからの要望が大きいから」と話します。タブレット端末のシェアではiPadが圧倒的に大きく、スマートフォンでも一大勢力です。自分の持っている端末で「自分が買った本を読みたい」と思うのは当然のこと。ですから、シャープはそれに応える形でサービスを拡充したことになります。

 ソニーは、現状自社の専用端末・スマートフォン・タブレットでのみ、自社のストア「Sony Reader Store」(http://ebookstore.sony.jp/)を展開していますが、この秋には他社のAndroid端末へとサービスを広げます。発想はシャープと同じで、利用者の要望に応える、ということです。iOS向けについても対応の意向はあるようですが、現状ではいくつかの理由があり(その点は後述します)、まだ確定ではないようです。そして楽天Koboも、現状は専用端末でのみ読めるサービスなのですが、年末までには、AndroidやiOSへの対応を進める予定となっています。参入が噂されるAmazonも、米国のサービスでは、専用端末からAndroid、iOS、パソコンまで、広く使えるクラウド書庫型のサービスを展開しています。といいますか、実は、Amazonがクラウド書庫型サービスを展開し、それが使い勝手の面で強く支持された結果、日本のサービスもクラウド書庫型へ変わっていった……という経緯があるのです。

 また特に、日本でiOS対応が望まれる背景に、Androidの利用者よりもiOSの利用者の方が「電子書籍の購入数」が多く、顧客としての価値が高い、という分析が存在することがあります。実際、前述の紀伊國屋書店BookWeb Plusでは、圧倒的にiOSの利用者が多く、差をどうやって埋めるかが、一つの課題となっているほどです。

クラウド書庫もまだ制限あり、究極は「DRMのない世界」

 ただしクラウド書庫型も万能ではなく、注意すべき点が2つあります。

 それは「同時に使える端末数」です。無限にコピーされるのを防ぐため、クラウド書庫から同じ書籍をいくつの端末へダウンロードできるのか、という点には、それぞれのサービスで違いがあります。一般的には、サービスに利用する端末を登録する形になっていて、登録できる端末の数に制限をかけることで、同時にダウンロードできる数に抑制をかける、という方式です。頻繁に端末を切り替えるような人でなければそうそう問題は生まれないでしょうが、やはり注意は必要でしょう。

 例えば、GALAPAGOS StoreやBook Live!など、多くのストアは同時利用端末数を「3」にしていますし、eBookJapanはより厳しく「1」にしています。そのためeBookJapanの場合、読み終わるたびにクラウド書庫に「データを戻す」処理が必要になります。他方、紀伊國屋書店BookWeb Plusは、特定のコンテンツを除き、端末数を意識する必然性はないように配慮されています。

 もう一つの注意点は、様々な事情で「すべての端末で同じコンテンツが読めるわけではない」ということです。例えばGALAPAGOS Storeの場合、現状では、集英社のコミックの一部(具体的には、OMFというフォーマットの書籍)がまだ読めませんし、辞書も読めません。「あくまで開発スケジュールの問題」ということなので、すぐに解消されるとは思いますが、ちょっとだけガマンが必要です。また他のストアでも、閲覧機能やDRM、配信許諾などの問題から、読めないコンテンツがあります。これらの問題はごく少数のもので、しかも時間が経つと解決される場合が多いので、そんなに深刻なわけではないのですが、どちらにしろ「どの端末で読めるか」は、書籍購入時に表示がありますので、注意しておいてください。

 他方、同時利用可能な端末数や閲覧の問題については、もっと根本的な解決方法があります。DRMを止める、もしくは大胆に「軽いもの」に変えることです。

 7月31日、ハリー・ポッターシリーズの作者であるJ・K・ローリングは、ハリー・ポッターシリーズの電子書籍を配信するサービス「ポッターモア」の日本語版(http://shop.pottermore.com/ja_JP)をスタートさせました(画像5)。ここでは電子書籍版ハリー・ポッターが購入できるのですが、驚くべきことに、電子書籍版ハリー・ポッターにはDRMがかかっていません。正確には、書籍の中に購入者情報を埋め込む「電子透かし」という仕組みが取られており、海賊版などに使うことを防止する策は採られているのですが、個人が利用する限りにおいて、コピーを阻害する仕組みはありません。しかも書庫はクラウド型になっていて、8回まで再ダウンロードできる他、他の電子書籍サービスのクラウド書庫へ「買ったハリー・ポッターを転送する」機能すらあります。

 音楽配信では、強固なDRMを廃止し、安心して買えるサービスへの移行が進んでいます。電子書籍でもそうなるべきでしょう。みんなが安心して買えるようになるには、そもそもDRMが「じゃまにならないもの」になることが必要です。クラウド書庫は一つの解決策ですが、究極の策はやはり、ポッターモアの採ったような「DRMのない世界」のはずです。

プロフィール

斎藤幾郎(さいとう・いくお)

1969年東京都生まれ。主に初心者向けのデジタル記事を執筆。朝日新聞土曜版beの「てくの生活入門」に寄稿する傍ら、日経BP社のウェブサイト日経PC Onlineにて「サイトーの[独断]場」を連載中。近著に「パソコンで困ったときに開く本」(朝日新聞出版)、「すごく使える!超グーグル術」(ソフトバンククリエイティブ)などがある。

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電」(朝日新書)がある。

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