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【ネット】2008年メディア状況を象徴 オーマイニュース失敗の「意義」

2009年2月10日

  • 筆者 藤代裕之

 「You.」―2006年にアメリカの雑誌「TIME」はPerson of the Year(今年の人)に、インターネットが可能にした「あなた(情報発信する人)」を選んだ。それから2年が経過し、メディアとジャーナリズムの変化は日本でも徐々に表面化している。市民メディア「オーマイニュース」日本版の失敗はその象徴的な出来事と言える。

 「市民みんなが記者だ」を合言葉にしたオーマイニュース日本版が08年9月、ニュースの看板を外し「オーマイライフ」となった。06年2月にソフトバンクから韓国版への増資も含め13億円の出資を受け、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏が編集長に就任する手厚い体制で創刊したが、結局失敗に終わった。

 要因はいくつもあるが、市民メディアを標榜しながらフリーライターの記事を多数掲載するなど体質が既存メディアそのものだったこと、この時期にメディアを持つことの意味を理解できていなかったことの二つに集約される。

 オーマイニュースの韓国における成功は、ネットの普及期と民主化運動のシンクロにある。朝鮮日報などの3大紙は政府寄りで国民からの信頼を失っていたため、市民メディア登場自体にインパクトがあった。しかし、日本は状況が異なっていた。

 創刊前に代表の呉オ連ヨン鎬ホ氏に会った際に、私は「多くのネットユーザーが既にブログなどで情報発信しており、皆が記者というコンセプトに新しさはない」と説明したが、06年9月に開かれたシンポジウムで編集部員からは「ブログの世界がこんなに広がっていたとは知らなかった」「(先行する市民メディアである)JanJanもライブドアニュースも見たことがない」との発言が繰り返された。

 新聞記者で固められた編集部には、メディアを提供すれば市民記者は集まり、喜んで記事を書く、といった考えが根強かった。確かに既存メディアでは、書く立場を維持することに熾烈な競争があるが、一歩外に出れば既にブログやSNSの登場によって「市民みんなが記者」になっていた。オーマイニュースは、そこで書くことのメリットを最後まで人々に提示することができなかった。

 08年には、他にもいくつかのエポックメーキングな出来事があった。

 毎日新聞社の英文サイト「毎日デイリーニューズ」内のコラム「WaiWai」で低俗な記事が掲載・配信されていたことがネットユーザーによって批判され、同社は同コラムの閉鎖、関係者の処分に追い込まれたこともそのひとつだろう。

 ユーザーはwikiと呼ばれる誰もが書き込めるネットツールを使って活動状況を共有。紙面3ページを使った毎日新聞社の調査報告が出た後に、ネットユーザーが協力して図書館のマイクロフィルムから報告書に書かれていない過去の問題記事を掘り起こしたのは、まるで調査報道のようだった。

 ネットでの出来事が、新聞やテレビなど既存メディアで取り上げられることも多くなっている。時には、ニュースメディアの記事や掲示板での議論が、ほぼ同じ内容で報じられることすらある。ブログ黎明期には「ネット上の情報は新聞やテレビのコピーばかりでオリジナルなものはない」と批判があったが、いまや記者がネットをコピーする時代となった。

◆ジャーナリズムも変化を求められる

 これまでは多くの人々に何かを伝えるためには、マスメディアを通さなければならなかったが、「TIME」誌が指摘したように誰もが情報発信できるようになり、メディアの優位性は失われた。このパラダイムシフトを理解しなかったことがオーマイニュースの失敗の最大要因だ。

 オーマイニュース日本版の創刊宣言は「ニュースが生み出される方法、消費される過程を含めて、ニュースの仕組みが根底から変わります。これまで傍観者、あるいは情報提供者にとどまっていた人々がニュースづくりの主役になるのです」という言葉から始まり、ニュースを通じた市民参加のプラットフォームを目指すことが記されている。

 残念ながらオーマイニュースの編集部自体がそれを理解していなかったが、仕組みは根底から変わった。プラットフォーム競争は世界的なものとなっている。ウェブはグローバルなため、日本でもグーグルやアマゾンが大きな位置を占めている。

 グローバルなメディアプラットフォームの上で人々が情報発信している状況をアメリカのビジネスライターのニコラス・G・カーは、その著書『クラウド化する世界』で「YouTube経済」と名付け「生産手段は大衆の手に渡しておきながら、その共同作業の産物に対する所有権を大衆に与えないことで、ワールドワイドコンピュータは多くの人々の労働の経済的な価値を獲得して、それを少数の人々の手に集約するためのきわめて効率的なメカニズムを提供している」と指摘している。

 オーマイニュースの社長を務めた元木昌彦氏は「情報がタダはおかしい」(「日経ビジネス」08年10月20日号「敗軍の将、兵を語る」)と述べているが、もはや時計の針は戻らない。

 競争は「メディアを持つ」ことから「ユーザーの時間を獲得する」ことにシフトした。メディアが増え続けても、1日は24時間しかない。既存メディアも、次々と生活の中に入り込むブログやSNSといったソーシャルメディア、携帯、ゲームとの競合に巻き込まれている。何のために、誰のために存在するのか、常に考える必要に迫られている。

 この変化は、表現者、ジャーナリストにとっても、本来は望ましいはずだ。伝える手段が増え、表現活動に多くの人が参加して底辺が拡大したことは、ジャーナリズムの質を高める好機だ。メディアを持つことに安住していた既存メディアも、これまで以上にコンテンツの質と価値が問われることになる。(「ジャーナリズム」09年1月号掲載)

【記事に関連するサイト】

オーマイライフ

http://www.ohmylife.jp/life/

JanJan

http://www.janjan.jp/

    ◇

藤代裕之 ふじしろ・ひろゆき

NTTレゾナント・gooニュースデスク。北海道大学CoSTEP非常勤教員。 1973年徳島県生まれ。広島大学卒。立教大学21世紀社会デザイン 研究科修士課程修了。

徳島新聞記者を経て、現職。

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