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【放送】バラエティー化する民放の夕方2時間ニュース

2009年8月10日

  • 筆者 本橋春紀

 かつて夕方のテレビニュースは、その日に起きた世界の出来事から、人々が知るべきことを簡潔に伝えるためのものだった。しかし、今の民放の編成は、ニュースを知りたいという人々の欲求にコンパクトに応えることをあきらめているように見える。テレビの前で2時間もニュースを見続ける視聴者を想像することは難しいからだ。

 民放の夕方ニュースは80年代半ば以降、時間拡大を続けており、現在、日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日には16時53分から、約2時間のニュース枠がある。TBSは4月の番組編成でニュース枠を移動し、17時50分〜19時50分の「総力報道!THE NEWS」を新設した。

 時間をもたせるためにこれらの番組では、娯楽的な情報が相当量放送されている。

 まず、番組の構成について確認しておこう。民放の夕方ニュースは全国ネット部分とローカル放送が組み合わされてできている。各系列20〜25分程度の全国ネットのニュース枠(TBSは約80分)があり、これ以外の時間は各局が、独自にローカルニュースなどを制作するか、キー局からの番組を受けるかを選んでいる。歴史的に見ると、80年代半ばまでは全国ニュース枠とローカルニュース枠は完全に別番組であった。

 さて、例として6月23日の夕方ニュースの内容を見てみよう。この日、最もニュースらしくない項目を長時間伝えていたのは日本テレビの「NEWSリアルタイム」だ。女優川島なお美の結婚式の話題が、約2時間(CMを除けば約100分)中、約30分もあてられていた(しかも、日本テレビは19時からの別番組でこの結婚式の独占生中継を予定しており、番組宣伝を兼ねていた)。「川島なお美の結婚」はTBSとフジテレビでも伝えられており、ほかにも「市川海老蔵の新作歌舞伎」(TBS、フジ)「人工的に作られた無重力空間での結婚式」(日本テレビ、TBS、フジ)など娯楽的な情報が、多数扱われていた。

 一方、この日の朝日新聞の夕刊で大きな記事として扱われているのは、「足利事件 再審決定」「常磐道 トラック事故で4人死亡」「沖縄 戦後64年目の慰霊の日」など。翌日の朝刊から、夕方ニュースに間に合ったと思われるものを拾うと、「自民党、東国原知事に出馬要請」「骨太の方針09閣議決定」「セブンイレブン 値引き販売容認へ」といったところだ。新聞のニュース価値判断とテレビのそれが異なるのは当然だが、一つの目安にはなる。

 実は、先述した全国ニュース枠だと、娯楽的な情報はそれほど放送されておらず、新聞やNHKニュースとの差は大きくはない。日本テレビも川島なお美の結婚式を全国ニュース枠では扱っていない。全局で大きく扱ったのは、東国原知事への自民党の出馬要請。このほか、「骨太の方針09閣議決定」や「沖縄慰霊の日」のニュースも複数局で伝えられている。「必要なニュースはきちんと伝えている」と制作者は主張するだろう。

 全国枠以外の部分でも、テレビ朝日が地方議員に対する費用弁償について、事実上の報酬上乗せとなっていることを問題だとして特集したなど、娯楽的な情報で埋め尽くされているわけではない。しかし、同じテレビ朝日がお笑いタレントによる動物園のライオン移送のてん末を面白おかしく放送してもいる。

◆今こそ示したい制作者の価値判断

 要するに、これらの番組は、ジャーナリズムとして評価できる硬派の報道と、娯楽的な情報とが同居する一種のニュースバラエティーになってしまっている。しかも、ニュース部分と娯楽的な情報を伝える部分が明確に区切られていない。その日の娯楽的情報の内容の予告がニュース部分に挟み込まれることも多い。

 米CBSニュース社長だったディック・サラントは76年4月14日に同社の報道基準の前文として、「放送ジャーナリズムに特有なことであるが、事実を扱っているわれわれの放送業務と、エンターテインメント(娯楽番組)に携わっている同僚たちの放送業務、つまりフィクションやドラマを扱っている放送業務のあいだに、常軌を逸する程度までの、できる限りはっきりした線を引くことが、非常に重要である」と書いている。サラントはさらに、「CBSニュース部で働くわれわれの主要な責任は、あらゆる重要な事実、あらゆる重要な見解を提示」し、「市民個々人が十分な情報を得た状態で、それにもとづいて自分なりの決定をくだす」という民主主義のあるべき姿のためにあるとも言っている(山田健太訳、『資料にみる放送倫理の構造と特質』96年)。

 日本の民放も「民間放送の報道活動は、民主主義社会の健全な発展のため、公共性、公益性の観点に立って、事実と真実を伝えることを目指す」(民放連報道指針)ことをうたっており、本来的に差はないはずだ。

 こうした指針や目的に照らした時、ニュースバラエティー化した夕方ニュースの現状は是認できるものなのだろうか。人々を引きつけるためにはやむを得ない。夕方の忙しい時間帯にじっくりニュースを見てくれる視聴者はいない……などという反論が聞こえてきそうだが、ジャンルの混交による弊害のほうが大きいのではないか。 視聴者からすれば、制作者が何を大切なニュースと考えているかが見えなくなっているからだ。

 サラントの言葉にあるように、人々にとって(より厳密に言えば、民主主義にとって)重要な事実、重要な見解を伝えることにニュースの本質がある。川島なお美の結婚やライオンの移送は、「重要」とは言えないだろう。

 インターネットと競争する時代のテレビにとって大切な役割は、情報に序列をつけ、価値判断を加えて伝えることだ。20年以上に及ぶ「ニュース」のワイド化の流れを反省してみるべき時が来ている。(「ジャーナリズム」09年8月号掲載)

   ◇

本橋春紀 もとはし・はるき

放送倫理団体勤務。

1962年東京生まれ。成蹊大学卒。日本大学芸術学部放送学科非常勤講師も務める。共著に『メディアリテラシーの道具箱』(東京大学出版会)、『包囲されたメディア――表現・報道の自由と規制三法』(現代書館)。

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