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【出版】不況の大手出版社を支える注目の収益源「その他」部門とは何か

2009年10月10日

  • 筆者 星野 渉

 講談社、小学館、集英社の前年度決算は、講談社と小学館は税引き前利益で赤字、集英社も最終利益は確保したものの、営業損益の段階では損失を計上した。これまで日本の出版業界を牽引してきた大手出版社3社が、いずれも利益を確保できないという事態は、出版産業の従来型事業モデルが収益力を失っていることを如実に表している。

 いずれの出版社も書籍、雑誌(コミックも含む)、広告の各部門で減収となったが、特に広告収入の低下が顕著だ。講談社の広告売上高は前期比10.2%減、小学館は13.9%減、集英社は16.7%減といずれも2桁の減収だ。

 大手出版社は、雑誌に掲載する広告、そして、マンガ雑誌の連載から生み出されるマンガ単行本が大きな収益源だった。なかでも女性誌などの広告料金は、1ページ数百万円と高額で、コストパフォーマンスが高かった。これが、昨年からの世界不況の直撃を受け、国内企業の広告だけではなく、海外の高級ブランドの広告も減少したのだ。

 また、この広告収入を支えてきた雑誌の販売市場も、ここ10年余、急速に縮小しており、媒体としての力が低下している。しかも、インターネット広告が2007年には雑誌広告の金額を超えるまでに成長しており、仮に今後景気がよくなったとしても、かつてのような雑誌の黄金時代は望むべくもない。まさに、昨日までの高収益源が、過去のものとなろうとしている。

◆集英社では17.8%増 年150億円の売上げ

 その一方で、各社とも売上げを伸ばしている部門がある。それは、「その他」である。

 「その他」とは、出版社によって多少の違いはあるが、マンガなどの映像化権や海外版の出版権、キャラクターを使った商品化権などの権利ビジネスと、マンガのケータイ配信などデジタルビジネス、またはインターネットでの通信販売を入れている社もある。要は書籍、雑誌の販売・広告以外の収入だ。

 大手3社の前期決算で「その他」をみると、講談社は6.2%増、小学館は3.9%増、集英社は17.8%増。

 分母となる売上げ自体が全体から見ると小さいということもあるが、講談社は全売上げ1350億5800万円のうち「その他」は81億8900万円で約6%、小学館は1275億4100万円のうち124億8800万円で約10%、集英社は1332億9800万円のうち150億4000万円で約11%に達している。

 各社ともこの部門はここ数年で3〜5割と大きく伸びている。なかでも集英社は、広告収入の金額(158億7800万円)に迫っており、今も同様の傾向が続いていることを考えると、今期は広告と「その他」の売上高が逆転する可能性も高い。

◆「その他」部門を育てた小学生誌やマンガの伝統

 ちなみに、俗に「一橋グループ」と呼ばれる小学館、集英社(集英社は小学館の関連会社で、両社とも“一ツ橋”と呼ばれる東京・千代田区の神保町界隈に隣接して本社を置いている)の「その他」収入が大きいのは、小学館は小学生向け学年誌の伝統があり、集英社はコミック界のトップブランドである「ジャンプ」を擁する出版社なので、キャラクターを生み出しやすく、権利ビジネスの経験も豊富だという背景がある。

 海外への展開でも、小学館は20年以上前の86年に、サンフランシスコに「VIZ」というマンガ専門出版社を設立した。

 今でこそ“マンガ”は世界中に広がっているが、当時のアメリカでは一部マニアの市場だった。しかし、VIZはその後、集英社などの出資も受け、「一橋グループ」のコンテンツを扱う会社として、「ポケットモンスター」や「遊戯王」などのヒットもあり、全米最大のマンガ出版社に成長。さらに、上海やヨーロッパにも進出している。

 一方、講談社の海外展開はさらに早く、63年に講談社インターナショナルを設立して英語出版に着手した。その目的は「日本文化を正しい英語で海外へ」という、どちらかというと文化発信を目的にしてきた。しかし、今春、アメリカに新会社を設立し、マンガをはじめとしたコンテンツビジネスの展開を本格化させるようだ。

 かつて、日本の出版物を海外に輸出することについて、出版業界の中にも「日本語の壁があって難しい」という否定的な見方が多かった。文化は海外(欧米)から入ってくるものという固定観念と、国内市場で十分に食える環境にあったためだろう。ところが、出版社の受け身の姿勢にもかかわらず、マンガなどを面白いと感じた海外の人々の需要によって、日本コンテンツの市場は拡大してきた。

 しかし、十分に食えてきたはずの環境が変化したことによって、出版社も悠長なことを言っていられなくなった。まさに、雑誌の市場縮小と急激な広告収入の減少は、いままでそれほど重視してこなかった海外やデジタルといった「その他」部門に、本気で取り組まざるを得ない状況を作ったのである。

 デジタル展開においても、ここ数年、マンガの携帯配信市場は拡大しており、集英社の携帯配信「マンガカプセル」は前期、初めて営業損益が黒字化した。

 これらのことは、国内外での権利ビジネス、契約、デジタル技術といった、従来の出版活動(特に編集)にはあまり必要とされてこなかったノウハウやスキルを要求されることを意味する。しかも、そうしたスキルを持っている異業種や海外勢との競争にさらされることにもなる。

 大手出版社が今後も企業として生き残っていくためには、どれだけこのような部門を拡大できるかにかかっているし、逆にこうしたビジネスが得意な参入者が、出版産業の次の時代を切り拓いていくのかもしれない。(「ジャーナリズム」09年10月号掲載)

   ◇

星野 渉(ほしの・わたる)

文化通信社取締役編集長、東洋大学非常勤講師。

1964年東京都生まれ。國學院大学卒。共著に『オンライン書店の可能性を探る

.書籍流通はどう変わるか』(日本エディタースクール出版部)、『出版メディア入門』(日本評論社)など。

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