現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. デジタル
  4. メディアリポート
  5. 記事

【新聞】労を惜しんではいけない記者会見の開放

2010年1月12日

  • 筆者 美浦克教

 「閉鎖的」「権力との癒着の温床」などと批判を浴びてきた記者クラブ制度が、政権交代後の記者会見開放問題を契機に再び注目されている。所属記者たちの自主的な運営に委ねられている記者クラブにとって、政権の側から出てきた会見開放要請は正直に言ってやっかいな問題だ。だが記者たちがどう対処するのかは、たとえ新聞や放送メディアが自ら報じなくても、実は社会から見られている。手をこまねいているわけにはいかない。

 発端は、鳩山由紀夫首相が野党時代に「首相になったら記者会見を開放する」と明言したことにさかのぼる。9月16日の首相就任会見にインターネットメディアなどが出席できなかったことから、ネットや雑誌で「公約破り」の批判が渦巻いた。その後、岡田克也外相が自身の会見の開放に踏み切って以降、他の省庁にも様々な動きが広がった(この間の経緯は本誌09年11月号の森暢平氏の論考を参照されたい)。

 わたしは「会見の開放」と「クラブのメンバーシップの開放」とは切り分けるべきだと考えている。これまでも記者クラブをめぐる議論にはしばしば論点の混同がみられた。組織としてのクラブとスペースとしての記者室の違いを理解していないままの批判などは典型だ。記者クラブ所属の記者たちの間に会見の開放に消極的な意見があるとすれば、まずは論点の混同を避けるために、「記者クラブのメンバー資格」と「記者会見の参加資格」を分けて考えてみることを提案したい。

 新聞界の一応の指針である「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」も、そういう風に読めばいい。「記者会見参加者をクラブの構成員に一律に限定するのは適当ではありません」とし、「より開かれた会見を、それぞれの記者クラブの実情に合わせて追求していくべきです」と言い切っている。メンバー資格は現状のままでも、会見の参加資格の拡大は対応可能だ。

 参加者の基準をどう判断するのかは悩ましいが、要は「報道目的かどうか」ということに尽きるのではないか。参加希望者がどんな媒体にどんな記事、作品を発表しているのかを個別具体的に見ながら判断すればいい。実践の積み重ねの上にしか客観的な基準は見出せない。また「会見参加者をだれが選別するのか」は「会見の主催はだれか」の問題にも直結する。参加資格を判断する手間をいとわないことは、クラブが記者会見を主催することを実質的に担保することにもなる。実例を積み重ねていく中で、メンバー資格を始めとして、記者クラブ制度のよりよいありように向けた議論が始まることも期待できるだろう。

 こう書くと現場の記者からは「ただでさえ忙しいのに、取材と関係がないことで負担が増すのは勘弁してほしい」との声が出てきそうだ。規約の改正が必要になり、何度もクラブ総会を開くこともありうるだろう。同僚や後輩とこの話題になると、わたしは「その負担は社会に多様な情報が存在するためのコストだし、その負担を引き受けることは、表現の自由を守る立場にいるぼくたちの責任じゃないか」と話している。

◆新聞が書かないことでも、読者は知っている

 もう一つ、わたしが思うのは、今や新聞が書かないことでも読者は知っている、ということだ。さらに言えば、読者が知っていることを書かない新聞を、読者はどう思うだろうか、ということだ。

 鳩山首相の就任会見前後、ネット上では、首相会見が開放されなかったとして、民主党や首相への批判が高まっていた。開放を阻んだのは記者クラブだとする、多分に誤解を含んだ批判も目についた。対して新聞は、新政権が官僚の記者会見禁止を打ち出した問題を大きく報道したが、会見の開放問題はほとんど取り上げなかった。

 続いて、政権の側による直接、間接のマスメディア批判が社会にダイレクトに発せられる事態になる。岡田外相がネットメディアなどの出席を認めた初回の会見当日の9月29日、外務省はホームページに「大臣会見等の開放とその基本的な方針について」との文書をアップし、記者クラブから開放を留保するよう申し入れがあり実施を見合わせていたものの、その後クラブから明確な見解が示されなかったことを明らかにした。

 より直接的に記者クラブを批判したのは、クラブ非加盟メディア向けにも別に会見を続けている亀井静香金融担当大臣だ。クラブが開放要請への対応を協議していたさなかの9月29日の会見で「総会で承認しないと、といって、結構、封建的なことをやっているのだね、あなたたちは。もう、全部オープンにいかないとだめだよ」と言っている。クラブ非加盟メディアへの最初の会見では、記者クラブと加盟メディアを指して「彼らは頭が古いですね。大丈夫かな。どうしてもだめだというのです」とまで述べた。これらは金融庁ホームページの「記者会見の概要」に掲載されている。

 10月に入り新聞紙面にも記者会見の開放問題の特集記事が掲載されるようになったが、既にネットで一部始終を知っていた読者の目には、どんな風に映っただろうか。

 新聞界では「ネットで流れている一次情報は新聞が提供している」と強調する人を今も時折見かけるが、もはや新聞が提供しているのはネットで流れている情報の一部でしかない。ましてや現政権は、予算編成の過程で「事業仕分け」を完全公開したように、自ら社会にダイレクトに情報を発信することに熱心だ。そこではメディアも社会から見られる対象になってしまう。

 かつて新聞は取材して分かったことを報じていればよかった。今は取材それ自体、メディアとしての立ち振る舞いも社会にとってニュースだ。記者会見の開放問題はやっかいだからといって手をこまねいているわけにはいかない。(「ジャーナリズム」10年1月号掲載)

   ◇

美浦克教(みうら・かつのり)

共同通信社社会部副部長。1960年福岡県生まれ。東京大学文学部卒。83年共同通信社入社。社会部、横浜支局次長、社会部次長などを経て09年7月から現職。

・「ジャーナリズム」最新号の目次はこちら

掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内