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【ネット】日経電子版は成功するのか? ネットでも活発な論議

2010年4月10日

  • 筆者 藤代裕之

 日本経済新聞は2月24日、電子版(Web刊)の創刊を発表し、ネット上では賛否を交えた反応が広がった。日経は喜多恒雄社長らによる記者会見に加えて、ブロガーなどを対象にした「ネット時代のメディアとジャーナリズム」と題するフォーラムも開催し、動画中継サイト「Ustream(ユーストリーム)」を利用して生中継するなど、従来にない取り組みも行った。

 日経電子版の最大のポイントは有料化に踏み切ったことだ。

 従来からのサイト「NIKKEI NET」を全面改装し、(1)無料、(2)無料の登録会員、(3)有料会員の3段階に分ける。(1)では、特ダネの閲覧や携帯から利用できないなどの制限が設けられ、登録や有料へ誘導する。

 (2)では(3)の有料会員向けの記事を月20本まで読むことができる。有料会員になれば、閲覧履歴を参考にユーザーの関心がありそうな記事を自動的にランキング形式で薦めてくれる「My日経」、キーワードを登録しておくと関係記事を自動的に収集してくれる「クリッピング」、記事を保存できる「スクラップブック」、さらにデータサービス「日経テレコン21」の記事検索(本文を月25件、過去5年分)など、多彩な機能も利用できる。

 無料会員を50万から100万人、有料会員は30万人の獲得を目指している。30万人は日経本紙の発行部数の約1割で、現在日経が運営している無料会員制サイト「日経ネットPLUS」と同規模だ。料金は、本紙の部数に影響を与えないよう本紙を購読していれば月額プラス1000円、電子版のみは月額4000円。喜多社長は「今スタートさせないと、10年後の成功はない」と会見で危機感を見せた。

◆ブロガーたちも意見表明

 電子版の創刊にブロガーらも意見を表明した。

 時事通信を退社してブログメディア「TechWave」の編集長に就いた湯川鶴章氏は、「My 日経」などの機能を評価しながらも、「決定的に欠けているのがソーシャルな機能である。ネットは既にソーシャルメディアの時代へ移行した。にもかかわらず、日経の電子新聞はいまだデジタルメディアの領域から抜け出ていない。これが日経電子新聞事業のこれからの最大の課題だと思う」と指摘した。

 ブログ「A Successful Failure」は、電子版の価格設定を昨年のベストセラー本『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』の事例を引きながら分析。紙+電子版がお得に見えるとして、「本命は1番目の選択肢を選択させて宅配の日経新聞の購読者数を増やすあるいは維持する事にある」と分析。確かに電子版は目標の30万人に達しても会員からの収入は3億円にしかならない。

 早稲田大学大学院商学研究科の根来龍之教授は、ツイッターで「典型的なイノベーションのジレンマに日経は陥っているように思える」とつぶやいた。

 イノベーションのジレンマとは、ハーバード大学のクリステンセン教授が提唱した、高品質な製品やサービスを提供する企業が、破壊的技術によって登場した質が低く、小さな市場に対処できず、パラダイムシフトを乗り切れないという考えだ。無料情報が溢れ、収益モデルやコスト構造も異なるネットに苦戦し、電子版で紙の読者を増やそうとする姿がジレンマに陥っているように見えたのだろう。

◆ネットと向き合う姿勢を評価

 会見で喜多社長が「良質なコンテンツはタダではない」といったことへの反応もある。ブログ「Modern Syntax」は、良質なコンテンツにコストがかかるという考えには賛同するものの、現状の新聞に良質な記事は少なく、「『紙の新聞で培ってきた正しい報道や価値のある言論、ジャーナリズム』というのが非常に疑わしくなってきている」と辛口のコメントを寄せている。

 ブログアグリゲーションサイトのライブドア「BLOGOS」も特集で取り上げ、「電子版は成功するか?」というニュース読者アンケートも実施しており、3500以上のユーザーの約8割が思わないと回答している。

 このように、既存マスメディアとは違った軸で、さまざまな分析を読むことができるのがネットの魅力のひとつだ。普段は既存マスメディアへの感情的な批判も多いネットユーザーだが、日経の取り組みを評価する声も見られた。これには会見後に行われたフォーラムで日経側がネットと正面から向き合う姿勢を見せたことが影響している。

 フォーラムは、動画での生中継に加え、会場のスクリーンでツイッターでの書き込みも表示され、それらにパネリストが回答するインタラクティブなイベントとなった(ハッシュタグ#mf224も主催者側から告知された)。パネリストも新聞に登場する「識者」ではなく、ソーシャルメディアの最前線で活動しているジャーナリスト、マーケターだった(筆者も参加)。

 ユーストリームの視聴は数百人だったものの、200人が詰め掛けて立ち見も出た会場からアイフォーンやパソコンを片手に参加者がツイッターに打ち込み意見したこともあり、ハッシュタグ付きの投稿は1000件を超え、パネル終了後もツイッター上では活発な議論が続いた。ビジネスモデルや電子版の機能について厳しい意見もあったが、登壇した電子版担当の野村裕知編成局長が難しい質問も逃げずに受け止める姿勢を見せたため、ネットにありがちな既存マスメディアバッシングに向かうことはなかった。ツイッターには「予定調和を選ばなかった日経の心意気を買いたい」という書き込みもあった。

 これらの厳しいネットユーザーの「声」にはヒントも多い。日経が、ユーザーの声にどれくらい向き合い、サービスを改善していくことができるかが問われることになる。(「ジャーナリズム」10年4月号掲載)

【記事に関連するサイト】

日本経済新聞電子版 http://www.nikkei.com/

動画中継サイト「Ustream(ユーストリーム)」 http://www.ustream.tv/

ブログメディア「TechWave」 http://techwave.jp/

ブログ「A Successful Failure」 http://d.hatena.ne.jp/LM-7/

ブログ「Modern Syntax」 http://www.aivy.co.jp/BLOG_TEST/nagasawa/

ブログアグリゲーションサイト「BLOGOS」 http://blogos.livedoor.com/

   ◇

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)

NTTレゾナント・gooニュースデスク。北海道大学CoSTEP非常勤教員。1973年徳島県生まれ。広島大学卒。立教大学21世紀社会デザイン 研究科修士課程修了。徳島新聞記者を経て、現職。

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