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【新聞】ジャーナリズムを担うのは誰か 新たな段階の記者会見開放

2010年6月10日

  • 筆者 美浦克教

 政権交代を機に進んできた記者会見開放の動きが、新たな段階に入っている。問われつつあるのは「報道とは何か」「ジャーナリズムを担うのは誰か」だ。

 最近の主な動きを振り返っておきたい。3月26日に開かれた鳩山由紀夫首相の会見にインターネットメディアやフリーランスの記者が初参加。やり取りは首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/)に掲載されている。首相は、閣僚によって会見オープン化にばらつきがあることを認め、「すべての大臣に対して、私は開きましたよということは申し上げて、閣内不一致と言われないように、統一を目指して、私の方から申してまいりたい」と、内閣として引き続きオープン化に努めていくことを強調した。

 3月30日には原口一博総務相が各省庁ごとにオープン化の状況を4ランクに分けた調査結果を公表した。記者クラブ加盟記者に参加が限定されている「最低ランク」に、官房長官、宮内庁と並んで位置づけられた検察庁では、最高検が4月22日、全国の地検に定例会見の開催を求める通知を出した。東京地検は翌23日、ホームページで参加者の事前登録の受付を開始することを告知。ほかの地域でも地検と地元記者クラブとの協議が進んだ。

 昨年の政権交代後、記者会見の開放は岡田克也外相を皮切りに閣僚が主導する形で始まった経緯があり、協議の相手は省庁の記者クラブだった。主に全国紙やNHK、民放キー局などの本社の記者たちだ。

 検察庁の会見オープン化方針によって、地方紙や全国紙の支社・支局の記者らも協議の当事者となり、記者会見の開放論議は全国的な広がりを持つに至った。小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体をめぐる東京地検特捜部の捜査が批判を浴びたり、足利事件や布川事件の..罪が明らかになって取り調べの可視化の必要性が指摘されたりする中での、検察の情報公開の変化という意味でもオープン化は大きな節目だ。

 記者クラブ主催の会見とは別に亀井静香金融担当相が始めた閣僚主催のオープン会見も、枝野幸男行政刷新担当相や小沢鋭仁環境相が後に続いている。

 記者クラブの外から、政府・与党による働きかけとは別の動きも出てきた。新聞労連新聞研究部は3月4日、「記者会見の全面開放宣言〜記者クラブ改革へ踏み出そう〜」を公表。「本来ならば記者クラブ側が主体的に会見のオープン化を実現すべきでしたが、公権力が主導する形で開放されたのは、残念であると言わざるをえません」とした上で、記者クラブ改革を見据えた取り組みを記者たちに呼び掛けた。4月25日には、記者クラブ問題について積極的な発言を続けているビデオジャーナリスト神保哲生氏や、鈴木寛文部科学副大臣らを招き、シンポジウムを開催した。

 4月19日には「記者会見・記者室の完全開放を求める会」(http://kaikennow.blog110.fc2.com/)がアピールを公表した。ジャーナリストの野中章弘氏(アジアプレス・インターナショナル代表)を代表世話人とする任意団体で、呼び掛け人にはフリーランス・ジャーナリストやメディア研究者、弁護士、NPOの市民メディア代表、新聞記者OBら71人が名を連ねた。アピールでは記者会見と記者室の開放、レクや懇談など記者クラブと同等の取材機会の提供といった要求を掲げ、賛同を求めて全国の新聞社・放送局に申し入れも行った。

◆今後の焦点は非営利メディアの参加

 本誌1月号の本欄拙稿でわたしは「記者会見の参加資格」と「記者クラブのメンバー資格」を切り分けて考えることを提案した上で「(会見の)参加者の基準をどう判断するのかは悩ましいが、要は『報道目的かどうか』ということに尽きるのではないか」と書いた。記者クラブ自らが会見の参加者の範囲を決めることを想定してのことだったが、現実には、公権力が主導して決める流れが定着しつつある。

 オープン会見を実施している省庁が公表している「参加基準」はどれも似ている。新聞協会、民放連のほか日本雑誌協会、日本インターネット報道協会など6団体に加盟するメディアと日本外国特派員協会加盟メディアの記者、外国記者登録証保持者を具体的に挙げ、加えて「これらのメディアが発行する媒体に定期的に記事を提供する者」などの定義でフリーランス記者を挙げているのが一般的だ。総じて「商業メディア」「職業的(プロ)ジャーナリスト」というくくりになっている。

 これが参加基準の最終形になるとは思えない。「記者会見・記者室の完全開放を求める会」のアピールは、記者会見の参加者として外国メディア、雑誌社、ネットメディア、フリーランス記者とともに、省庁主導の参加基準にはない「非営利で情報発信を行っている団体・個人」を明記している。「ジャーナリズム」を担うのは誰か、という論点が今後、報道の現場で否応なく明確化することを予感させる指摘として、わたしは注目している。ネットの普及でだれもが情報発信できる社会になって、新しい形のメディアが生まれており、それは今後も続くことは間違いないからだ。

 会見開放をめぐるクラブ総会の議論では「各社持ち帰り。社としての見解を」となることがままある。あるいは総論は「開放」でも各論でまとまらない。そんなことが続くうちに、会見の参加資格の判断を公権力の側が主導するようになった。この上「ジャーナリズム」や「報道」の“再定義”まで委ねていいわけがない。ともにジャーナリズムを担うのは誰かを、新聞メディアが主体的に見いだしていくことは、変化するメディア環境の中で新聞の役割を再確認することにもつながる。記者たちと議論を重ねながら、この課題に取り組んでいきたい。(「ジャーナリズム」10年6月号掲載)

   ◇

美浦克教(みうら・かつのり)

共同通信社社会部副部長。1960年福岡県生まれ。東京大学文学部卒。83年共同通信社入社。社会部、横浜支局次長、社会部次長などを経て2009年7月から現職。

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