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【ネット】SIMロック解除とスマートフォンで揺らぐケータイビジネス

2010年6月10日

  • 筆者 神尾 寿

 大手の携帯キャリア(電話会社)を頂点に、この10年で構築されてきた「日本型ケータイビジネス」の砦が揺れている。それが端的に表れたのが、今年4月に話題になった「SシムIMロック解除」問題だ。

 SIMロックとは、携帯電話の契約情報を記録したSIMカードと携帯電話端末を紐づけて、キャリアが販売した端末で他社のSIMカードが動かないようにするというもの。通信契約と携帯端末をセットで販売するための仕組みとして、国内外で広く利用されている。

 キャリアはSIMロックにより自社用端末が他社に使われることを防ぎ、それを前提に端末の販売価格を安くし、iモードなどキャリア固有のコンテンツサービス開発を進めてきた。

 またユーザーにとっても、端末とキャリアサービスが一体で提供されるがゆえの使いやすさや、キャリアによる端末値引きを始めとし、手厚いサポート環境が整備されているといったメリットがある。

 しかし、その一方で、SIMロックは「キャリアによる垂直統合型のサービスモデルとビジネスモデルを強化する」という弊害もある。

 1999年のiモード登場以降、日本ではキャリアがコンテンツサービスの仕様を策定し、端末メーカーにそれら独自の仕様にあわせた携帯電話の製造を依頼。それをメーカーから調達し、キャリアが販売代理店を通じて販売・サポートを行うというビジネスモデルをとってきた。

 第3世代(3G)携帯電話の普及以降は、技術的には同一の通信規格・周波数帯域を使う携帯電話は、SIMカードを入れ替えれば異なるキャリアでも使えるはずだったが、それもSIMロックで制限した。これはキャリアが、通信契約・端末販売・コンテンツサービス仕様のすべてにおいて一体的な提供を行っており、それを補強するためだった。

 総務省が打ち出した「SIMロック解除」の指針は、この日本型ケータイビジネスモデルに変化を促すものだ。先述のとおり、日本では「キャリア主導」によるサービス・端末仕様策定と販売・サポート拠点網の整備、通信と端末のセット販売モデルが定着して機能している。

 また、同一通信規格・周波数帯域を使っているのはドコモとソフトバンクモバイルぐらいで、KDDI(au)やイー・モバイルは通信規格や使用周波数帯域が異なり、他社と互換性をとるには端末側の追加対応が必要だ。このようにSIMロック解除の直接的なメリットは、ユーザー・業界ともに少ない。

 それでもなお、総務省や一部のキャリアがSIMロック解除に前向きなのは、それがキャリアが端末とコンテンツサービスの仕様とプラットフォームの両方を支配する「かすがい」を取り払うことにつながるからだ。

◆スマートフォン台頭で揺らぐ垂直統合

 SIMロック解除の動きに加えて、日本型の垂直統合モデルに揺さぶりをかけるのが、アップルの「iPhone」をはじめとするスマートフォンの台頭だ。

 これらのスマートフォンは、インターネットで標準的な最新技術やサービスに対応し、グローバルなコンテンツ流通プラットフォームや認証課金システムを構築している。

 例えば、アップルのiPhoneやiPadでは、コンテンツやアプリケーションは同社が構築したiTunes Storeで流通し、ユーザーの認証課金もアップルが決済システムを用意している。

 一方で、電話やメール(SMS/MMS)は3Gの標準仕様に準拠し、最新標準仕様に対応するウェブブラウザーを搭載しているため、通信方式さえ合えば世界中どこのキャリアでも同じように動作する。

 このようにキャリアを問わず、標準的な3Gおよびウェブの技術とグローバルなコンテンツサービスのプラットフォームを構築する動きは、グーグルの「Android」やマイクロソフトの「Windows Phone」などのスマートフォンも同様である。

◆次の10年の試行錯誤は続く

 総務省は、現行世代の端末ではコンテンツサービス面でキャリアに依存しないスマートフォンから、また次世代(LTE)以降はすべての端末でSIMロックを解除する方向で検討を進めている。

 SIMロック解除は直接的にユーザーに大きなメリットをもたらすものではないが、キャリアによる市場のコントロール力を弱めることで、現在は国内キャリアごとの縦割り・垂直統合になっているコンテンツサービス市場と端末市場の開放をしていくのが狙いだ。

 むろん、その影響は、メリットとデメリットのどちらも大きい。メリットはコンテンツサービス事業者と端末メーカーのビジネスの自由度が増すことだが、これまでのキャリア主導による護送船団方式が崩れることで、力のない企業は淘汰されることになるだろう。とりわけ国内市場に依存し、海外市場の開拓やスマートフォンへの移行で出遅れた日本の端末メーカーは熾烈な生き残り競争になるだろう。

 また、キャリアも、SIMロック解除によって端末ラインアップによる囲い込みが難しくなると、通信料金や通信インフラ部分で競争することになる。

例えば、海外ではSIMロック解除で発売されたiPadにインフラの充実で定評があるドコモが秋波を送り、ソフトバンクモバイルが独占販売権の獲得とSIMロック設定に躍起になったのはこのためだ。

 SIMロック解除が、今後どのようなペースで進むのか。それはまだ不透明だが、それがスマートフォンの普及とあわさると、ケータイビジネスを揺るがすのは間違いない。そこで起きる業界構造の変化は、コンテンツビジネスにも大きく影響するだろう。(「ジャーナリズム」10年6月号掲載)

   ◇

神尾 寿(かみお・ひさし)

ITジャーナリスト。1977年東京都生まれ。IT専門誌や大手携帯電話会社を経て、1999年に独立。専門分野はモバイルITビジネス、自動車/交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを務める。著書に『次世代モバイルストラテジー』(ソフトバンククリエイティブ)など。

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