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2012年6月8日
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メディアリポート

【ネット】ビッグデータ大統領誕生なるか? オバマが進める新しい選挙手法

筆者 小林啓倫

図:図  プロパブリカが行った「ジャネット」という女性を登場させて献金を訴えるメールの分析図  プロパブリカが行った「ジャネット」という女性を登場させて献金を訴えるメールの分析

 2008年の米大統領選。劣勢だと思われていたバラク・オバマ氏が勢いに乗り、大統領の座を獲得するまでに至った一因となったのが、ソーシャルメディアの活用だと言われている。彼はフェイスブックやユーチューブなど、現在では利用して当たり前となったサービスを駆使し、一般市民の力を大きなうねりへと変えた。あれから4年、2期目を狙うオバマ氏が今回目を向けたテクノロジーが、いま産業界からも注目を集めている「ビッグデータ」である。

 ビッグデータとは文字通り「大きなデータ」という意味だが、従来は処理するのが難しかった非常に大容量のデータ、あるいはブログやツイート、映像など多種多様なデータを分析することで、隠れた事実を明らかにするアプローチのことを指す。近年の情報処理技術の向上、またソーシャルメディアやセンサー類などの新しい媒体がもたらす情報量の増加により、ビッグデータの実用性と重要性は急速に増している。

 例えば米小売りチェーンのターゲットは、ポイントカードを通じて得られた購買データを分析し、妊娠している女性客をいち早く発見、ベビー用品のクーポン券を配るという販促活動を行っていた。

 妊娠から出産直後の女性は、買い物を1つの店舗で済ます傾向があるため、ベビー用品を格安で提供しても元が取れるという判断である。出産予定日まで予測可能というこのシステムについては、米ニューヨーク・タイムズ紙が取り上げたことで注目を集め、プライバシーなど倫理面の問題と合わせて物議を醸している。

●マーケティング手法を選挙戦にも応用

 そんなビッグデータにオバマ氏が注目する理由は、もちろん選挙活動への応用である。米大統領選挙は膨大なコストと長い時間をかけて行われるキャンペーンであり、些細なミスが大きな負担となって表れかねない。しかしデータを分析して活動状況を把握できれば、効果のある施策に資源を集中させることができるだろう。またターゲットとなる顧客=有権者の行動パターンを把握することで、資金集めに有効なPR手段を見出すこともできる。支出と収入の両面で、効率的な選挙戦略を実施できるようになるわけだ。

 実際にオバマ陣営は、有権者に対して支持を訴えるメールに複数の表現を用意し、彼らの属性に応じて文面を使い分けるという試みを行っている。NPO報道団体プロパブリカがメールを収集・分析した結果によると(図)、「ジャネット」という女性を登場させて献金を訴えるメールには、少なくとも6つのバージョンが存在している。

 誰にどのバージョンを送ったのかを把握しておけば、ある属性の人にはどのような訴え方が効果的なのかを確認することができるわけだ。あるいはこうした文面の違いが、既に受信者の属性に応じて調整された結果という可能性もあるが、オバマ陣営はその詳細を明らかにしていない。

●有権者のプライバシーをどう保護するのか?

 しかしこうした選挙戦略に対しては、懸念の声も少なくない。最大の問題は、ターゲットの例が明確に示しているように、些細なデータからプライバシーが暴かれてしまうリスクがあるという点だ。

 あるデータからどこまでの情報を引き出すことができるかは、技術の進歩によって変化する。従って規制されるべき行為を線引きすることは難しいが、少なくとも選挙対策チームは、「どんなデータを収集しているのか」「そこから何を把握しているのか」といった疑問に答える必要があるだろう。しかし現時点では、十分な説明責任が果たされているとは言えない。また蓄積されたデータや、データから情報を引き出すアルゴリズムが選挙戦後にどのような扱いを受けるのかも不透明だ。

 一方で大統領選とは別に、選挙におけるデータ活用が、組織力や資金力で劣る候補にもチャンスを与えるというプラス面を評価する声もある。現状の選挙戦は、ネガティブキャンペーンに大量の資金が投入されるなど、有権者のために最適化されているとは言い難いが、データ分析を通じて、有権者の思考や行動に合わせた選挙戦が行われるようになる可能性もある。

 今から半世紀前、1960年に行われた大統領選挙では、テレビという新しいテクノロジーを舞台にした討論会がケネディとニクソンの勝敗を分けたと言われている。その後テレビは米国の選挙活動において当たり前の存在になっていったわけだが、同じようにビッグデータも、これから候補者にとってなくてはならないテクノロジーになるだろう。それが歪んだ形で根付いてしまうことのないよう、社会全体でルールを話し合うことが求められている。(「ジャーナリズム」12年6月号掲載)

   ◇

小林啓倫(こばやし・あきひと)

日立コンサルティングシニアコンサルタント。1973年東京都生まれ。筑波大学大学院地域研究研究科修了。国内SI企業、外資系コンサルティング会社等を経て、2005年より現職。著書に『リアルタイムウェブ ー「なう」の時代』『災害とソーシャルメディア』(マイコミ新書)など。

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