現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. ライフ
  3. デジタル
  4. メディアリポート
  5. 記事
2012年7月10日
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

メディアリポート

【新聞】神戸新聞の子ども向け紙面 「まなびー」から見えた新聞の未来

筆者 田中伸明

 新聞社にとって現在、子ども向けの新聞・紙面をどう展開するかは最重要課題の一つだ。背景には若年層の新聞離れがある。ケータイサイトの急速な浸透と相まっていわゆる「無読家庭」も増え、取材に訪れた小中学校で「新聞を1紙も取っていない家庭が半数を超えた」と聞くことも珍しくなくなった。

 一方、1985年に「NIE」(教育に新聞を)が提唱されて以来、新聞各社は教材としての普及を図ってきたが、あまねく浸透したとは言いがたい。無読家庭増加で新聞を使った家庭学習が困難になり、教員にも購読していない層が増えていることも、広がりを妨げている。

 そんな中、2011年度に小学校、12年度には中学校の学習指導要領が改訂され、新聞を使った学習が大幅に取り入れられたことは新聞界にとって朗報だった。新聞各社はこれを奇貨として、子ども向け新聞・紙面の積極展開に踏み切った。

 新聞本紙とは別に発行される「子ども新聞」では、11年に読売新聞や中日新聞が有料で創刊、本紙の別刷りとして発行する地方紙なども相次いだ。

 また、本紙に子ども向け紙面を新設・拡充する動きも広がった。神戸新聞では08年、「週刊こども新聞」と題する紙面を毎週日曜、見開きで新設していたが、11年2月には3〜4ページに拡充して「週刊まなびー」と改称、取材体制も強化した。

●啓蒙路線を続けるか エンタメを重視するか

 筆者は10年10月に週刊まなびー編集長に任じられ、新紙面の準備を始めた。これまで記者やデスクとして事件・事故などに関わる中、「教育」も興味のあるテーマの一つだったが、「子ども向け」となると勝手が違った。最初は戸惑ったが、小学1年の娘が読んでくれると考え、気持ちを切り替えた。

 新紙面の立案段階で頭を悩ませたのは路線問題である。

 旧来のNIEはいわば啓蒙的で、子どもたちに新聞の使命や学習にも役立つことを理解させるというスタンスだった。あくまで本紙を読ませることが主眼で、漢字にルビも不要という考え方が主流だった。

 一方、最近の子ども向け新聞・紙面は、子どもに興味を持ってもらうことに重きを置く傾向がある。グラフィックやルビを多用したニュース解説から、子ども向けエンターテインメント情報まで、新機軸が次々と打ち出されている。

 週刊まなびーはどちらかといえば「NIE路線」を取った。新聞の良さを伝えたいという気負いもあった。一方で、小学生向けページ、中学・高校生向けページでルビの振り方を変えるなど、読みやすさに配慮した。

 目玉の一つは、取材して伝えることの楽しさを中学生に体験してもらう月1回の「こちらこども特報隊」。「宇宙人はいるか」「イノシシはなぜ人を襲うか」など子どもにも興味深いテーマを探求してもらったり、1997年の神戸連続児童殺傷事件で長女を亡くした山下京子さんや、阪神・淡路大震災、神戸大空襲の被災者へのインタビューを企画したりした。

 また、自分の住む地域に目を向けてもらおうと、小学生がさまざまな地域資源を掘り起こす「わがまちの宝さがし」を月2回掲載。学校の総合学習とタイアップするなど、NIEの教材として使えるよう心がけた。

 親子で一緒に読む「ファミリーフォーカス」の効果も意識し、保護者向けページも併設した。力を入れたのは月1回の「討論」。「PTAに求めるものは?」「中学校の給食、いる?いらない?」「荒れる学校をどうする?」など、保護者の関心が高いテーマについて意見を募り、専門家の所見も交えて紙上討論を展開、反響を呼んだ。教員や保護者のコラム「きょういくなう!」、大手進学塾の塾長が中学受験の心得を説く「学園長が斬る!」も一定のファンをつかんだ。

 ただ、子ども向けのページについては、楽しみにしてもらえる読み物が少ないのでは、という懸念を当初から抱いていた。子どものファンを増やす試みとして、2011年10月から月1回、特集「ホンネ」を始めた。

 「人生最大の失敗」「恋愛の経験」「大人の嫌なところ」などを学校、塾の協力を得て子どもたちにアンケートし、「傑作」回答は神戸市出身の漫画家ナカタニD.さんに作品化してもらって掲載。身近で関心の高そうなテーマを選ぶことで、日ごろの取材では「よそ行き」で応じがちな子どもたちが、ノリノリで本音を披露してくれた。

 漫画も「カワイイ」絵にはせず、子どもの意地悪さなどもにじませ、ほかにもできるだけ多くの生の声を掲載した。「まなびーのカラーを壊すのではないか」という懸念が社内にはあったが、「子どもが楽しみにしている」といううれしい反響も相次いだ。

●子ども向け紙面を通じてジャーナリズムを問う

 子ども向け紙面の取材・編集に1年半余り携わってきて、未来志向の重要な仕事だとつくづく感じている。メディアを取り巻く環境の変化に対応して、新聞もある程度変わらざるを得ないと思うが、ジャーナリズムが何を守り、伝えるべきか、子ども向け紙面に携わることで大いに意識させられた。

 また、取材のためさまざまな学校現場を訪れたが、貧困の実情や発達障害への無理解など、新聞記者として向き合わなければならない課題に直面することが多かった。ある小学校長の「学校は社会の縮図なんです」というつぶやきが忘れられない。ある事件で両親を失った少女が、取材体験の際に見せた笑顔は大きな励みとなった。

 子ども向け紙面はどうあるべきか。試行錯誤を重ねてきたが、正解は五里霧中としか言いようがない。しかし、それを探す地道な取り組みの中から、未来の新聞の姿が見えてくるという手応えを感じている。(「ジャーナリズム」12年7月号掲載)

   ◇

田中伸明(たなか・のぶあき)

神戸新聞社会部デスク。1965年兵庫県生まれ。上智大学文学部卒。92年神戸新聞社入社。「週刊まなびー」の初代編集長、現在は社会部で教育分野を担当。

・「ジャーナリズム」最新号の目次はこちら

掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介