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2012年7月10日
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メディアリポート

【出版】世界中の中小書店よ、立ち上がれ! NYブック・エキスポで聞いた話

筆者 星野 渉

 6月4日からニューヨークで開かれたブックエキスポ(BookExpo America)の会場で、アメリカ書店組合(ABA 注1)のオーレン・タイシャーCEOから、書店組合の世界組織が活動を始めているという話を聞いた。

 その組織は国際書店連盟(IBF 注2)といって、ベルギーのブリュッセルに本部があるという。

 タイシャーCEOによると、IBFはヨーロッパを中心に5、6年前に活動を始め、ABAも最近参加するようになったという。日本の書店組合も生き残るアイデアを共有できるのではないかと参加を勧められた。

 ホームページをみると、イギリス、ドイツ、オランダといったヨーロッパ主要国と、チェコ、ブルガリア、ルクセンブルク、デンマークなどの国々が加盟している。ヨーロッパ以外では、アメリカ、カナダ、南アフリカ、そして中国の名前もある。どちらかというと地域に根ざして活動している小売書店が、このような世界組織をつくっているとは驚きだった。

 国や地域によって環境も違うし、経済制度も違うため、同じ書店だからといって、必ずしも共通の課題を抱えているわけではないと思うが、そんな中でこうした組織が拡大しているのは、やはり出版物の電子化が進み、どうやって生き残っていけばよいのかと、各国の書店が同様の危機感を持っていることの表れではないかと思わされた。

 日本の書店の全国組織である日本書店商業組合連合会(日書連)の組合員数は、今年4月1日現在で4718となった。昨年1年間で269が脱退し、加入が41で、差し引き228の減少である。私がこの業界に入った20年ほど前は1万2000以上だったので、その減少幅の大きさがわかる。

 それでも、ABAの会員は約1600といい、おそらく国際的にみても日本の組合員書店数はまだ多い方だと思う。そもそも分母となる書店数自体が、今年5月1日時点で1万4696店(書店調査会社アルメディア調べ)と、主要先進国では極めて多い(ピーク時は2万3000店余あった)のである。

 日書連は必ずしも小規模書店だけの団体ではなく、紀伊國屋書店など全国チェーンも加入している。しかし、理事会のメンバーはほとんどが地域中小書店の経営者で占められているから、やはり中小書店の利益代表という側面が強い。

●柔軟な発想でしぶとく生き残る

 かつて、勢いが盛んだった頃、日書連の活動の柱は「出店問題」「再販問題」「取引問題」であった。「出店問題」は大手書店などが新規店を出店しようとすると、団体で圧力をかけて阻止、ないしは地元書店に利益還元するよう促す活動のことだ。しかし、2000年に大規模小売店舗法が廃止されて以来、こうした活動は難しくなった。

 「再販問題」は、書籍・雑誌の小売価格を拘束している「再販制度」(著作物再販適用除外制度)を維持するよう、政府などに働きかける活動だ。小売価格が同じであれば、資本力の大きな書店が価格競争で市場を席巻することを防ぐことができる。ただ、「再販制度」は維持されていても、書店の苦境が深まっているのが現状だ。

 「取引問題」は、組合として出版社や取次会社に掛け合って、出版物の卸値を下げてもらったりする活動で、70年代には岩波書店など卸値が高い出版社の本の不買運動「ブック戦争」を起こすなど過激であったが、独占禁止法では事業者団体が取引条件について交渉することは禁止されていて、いまはそんな活動はできない。

 いわば、かつて日書連の存在理由であった活動の多くが、時代とともに意味を失ってきてしまったといえる。組合員が減少している背景には、単に書店自体が減っているだけではなく、組合への加盟メリットがみえにくくなっているという現実もあるだろう。

 一方、ABAは、いわゆるチェーン書店は加盟しておらず、中小書店(独立系書店)の組織として徹底している。かつては大手書店も加盟していたのだが、そうした大手書店に有利な取引条件を出していた大手出版社を訴えたりしたために、大手は脱退してしまった。というより、中小書店の利益代表であるという存在理由を明確にしているといえる。

 そんなアメリカでは、一般書の17%が電子書籍で読まれ、ベストセラーに限ると40%に及ぶといわれる。紙の本についても、アマゾンをはじめとしたオンライン販売とウォールマートなど量販店がそれぞれ市場の3割ずつを占め、ABAの組合員である独立系書店は8%のシェアしかないという。

 それでも、今回訪ねたニューヨークの書店の中には、地域コミュニティーに支えられ、開業以来3年間成長を続けているグリーンライツ・ブックストア(Greenlight Bookstore)という書店があるなど、決して負けてはいない。減り続けていたABA会員も、ここ3年は微増だという。

 むしろ、昨年春に業界2位の大手書店ボーダーズが倒産したことで、「これからは大きな書店はダメになり、むしろ地域に密着した独立系書店の時代だ」という声すらある。

 国内だけをみていると、書店の数は減り続け、オンライン書店のシェアが拡大し、電子書籍が本格的な市場形成期を迎えようとするなど、書店にとって明るい話題は極めて少ない。

 しかし、海外に目を転じると、日本と同様に、いやそれ以上に厳しい環境にある書店のなかでも前向きにあがいている人々がいることがわかる。そうした世界の動きとも呼応して、日本の書店が柔軟な発想で、しぶとく時代に挑んでいくことを期待したい。(「ジャーナリズム」12年7月号掲載)

(注1)American Booksellers Association

(注2)International Booksellers Federation

   ◇

星野 渉(ほしの・わたる)

文化通信社取締役編集長。東洋大学非常勤講師。1964年生まれ。國學院大學卒。共著に『オンライン書店の可能性を探る』(日本エディタースクール)、『出版メディア入門』(日本評論社)など。

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