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2012年8月10日10時20分
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【ネット】NHK・堀潤アナウンサーが参加 新たな市民ジャーナリズム「8ビット」

筆者 野々下裕子

写真:8bitNewsのウェブサイト。既存サービスを巧みに組み合わせ、パブリックアクセスを提供する場として、市民ジャーナリストの参加を呼びかけている8bitNewsのウェブサイト。既存サービスを巧みに組み合わせ、パブリックアクセスを提供する場として、市民ジャーナリストの参加を呼びかけている

 ネットを使えば誰でもジャーナリストになれると、これまで何度も言われてきた話を実現できそうな試み「8bitNews」(http://8bitnews.asia/:以下8ビット)が、6月15日に立ち上がった。

 8ビットは、日本でのパブリックアクセス(放送への市民参加)の実現と市民による発信力の強化に貢献することをめざして作られた新しいメディアだ。NHKの「Bizスポ」や「ニッポンのジレンマ」などの司会を担当していた堀潤アナウンサーと批評家の宇野常寛氏が、現在の報道のあり方に疑問を持ち、それを変えていく方法はないかという思いをぶつけあったことから生まれた。

 今までにもPJニュースやJANJAN、オーマイニュースなど、市民ジャーナリズムの確立をめざしたサイトはあったが、これらは既存の報道スタイルのまま、記者をプロから市民に、発信の場を放送からネットに置き換えただけのようなところがあった。それに対し、8ビットは完全に個人が発信する場であり、ニュースサイトというよりも個人がブログやユーチューブで配信しているものを集約する場であることを標榜している。

 本稿執筆の時点では正式オープンから半月足らずだが、投稿数も順調に増え、あるメンバーの動画は投稿から5日間で再生回数が10万回を超えたという(注1)。

●既存のサービスを利用しコストをかけず立ち上げ

 8ビットでは、サイトに用意された「ユーザー登録はこちら」を押すと出てくる「WORD PRESS」のログインメニューから、フェイスブックのアカウントを使って登録が認証されれば、その時点から誰でもニュースを入稿できる仕組みになっている。

 また、報道の経験がない一般の人からもニュース映像を投稿してもらえるよう、既存サービスをうまく組み合わせた仕様となっている。スマホにインストールされている専用アプリを使って、ユーチューブを選択、投稿者が手をかけずに投稿できるようにした。また、運営用にはフェイスブックを採用して実名性を担保し、既存メディアにはない双方向性を持たせた。

 投稿者は8ビットの「記者」という肩書きではなく、個人名で発信することで、責任感や問題意識をより明確にする。そうした当事者意識を持つことが、市民ジャーナリズム育成の第一歩につながるという考えからだ。

 現時点で8ビットはページアクセス数による収入などはめざしておらず、すべてがボランティアで運営されている。無料の既存サービスを一つのウェブサイトに集約し、誰もが使いやすいサイトとして運営するにはウェブ技術者の協力が不可欠だったが、それもツイッターの呼びかけで協力者が現れ、それから数カ月でサイトを公式オープンしている。

●ソーシャルメディア普及でパブリックアクセスが力を

 過去にジャーナリズムの敷居が何度か下がった背景には、いずれも技術革新があった。放送機材のダウンサイジングでNY1やメトロポリタンTVが登場し、阪神淡路大震災の頃から、インターネットに向けて発信するネットジャーナリストが登場した。

 それに加えて今は、東日本大震災の原発事故をきっかけに、マスメディアやジャーナリズムに対する考え方が大きく変わってきた。特に、ソーシャルネットワークの普及で個人が実名で発信する情報に触れる機会が増え、顔の見えないマスメディアが編集したニュースを疑う声は強まっている。

 ニュースも、記者会見のライブストリーミングや生中継など、未編集の一次情報に価値を感じる人が増えている。

 たとえば、8ビットにも投稿された「タクシーで1周しながら撮った首相官邸周辺デモの状況(注2)」は編集なしの映像ながら、8万5000回以上再生され、これこそがネット時代の報道スタイルだという評価が寄せられている。

 もちろん、現実にはネットで数十万の再生回数があったとしても、地上波テレビのニュース番組に比べると視聴者数も影響力もケタ違いに少ない。また、報道経験のない一般市民にどれだけ正確な情報発信ができるのかという疑問も残る。それでも彼らは、一つでも当事者として発信することが、社会を見る目を変える機会になるはずだと考えている。

 東日本大震災をきっかけとして生じた報道への問題意識とソーシャルメディアの浸透、そして、何よりもネットサービスの充実とスマホの急速な普及やインフラ環境、そのどれが欠けてもこれほど早くこうした試みは実現しなかっただろう。

 欧米をはじめ、台湾や韓国では法律で「パブリックアクセス」が保証されているが、日本はまだ遅れている。今回の試みが成功し、本当の意味で草の根的な活動が定着することを期待したい。(「ジャーナリズム」12年8月号掲載)

(注1)8bitNewsメンバーの中田絵美(emi_memumo)氏による総理大臣官邸前の大飯原発再稼働抗議の様子を撮影したニュース。撮影中感激のあまり泣き声が入っている映像が多くの人たちの共感を呼んだ。

(注2)映像を撮影したヒマナイヌの川井拓也氏はネットジャーナリストとして活動を続けている人物。

   ◇

野々下裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランス・ライター。デジタル業界を中心に、国内外のイベント取材やインタビュー記事を雑誌やオンラインメディアに向けて提供する。また、本の企画編集や執筆なども手掛ける。最近の共著に『インターネット白書2011』。編集した本に『IT時代の震災と核被害』(共にインプレスジャパン)がある。

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