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2012年11月9日11時30分
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【ネット】オープンデータを使った市民ジャーナリズムの可能性

筆者 野々下裕子

写真:図 ソースマップ(http://sourcemap.com/)では家電や食料品、衣料品など様々な製品のサプライチェーンを可視化したデータが公開されている拡大図 ソースマップ(http://sourcemap.com/)では家電や食料品、衣料品など様々な製品のサプライチェーンを可視化したデータが公開されている

 大手メディアと市民ジャーナリズムの大きな違いの一つは、取材の基礎となる信頼性の高い情報へアクセスできるかどうかだろう。しかし、そうした状況も「オープンデータ」が一気に変えてしまうかもしれない。

 オープンデータとは、自由に使えて再利用もでき、かつ誰でも再配布できるデータを指している。公開する側は、引用元のクレジットを明示するといった程度であまり細かい制約をせず、加工も再配布も前提として公式情報というのがポイントだ。グーグル・マップと組み合わせて見せたり、インフォグラフィックスに加工したりして利用される場合が多く、そうすることで、情報の重要性と信頼性をよりアピールできる。

●トレーサビリティーから放射線量マップまで

 米ボストンのMIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボのプロジェクトから生まれたソースマップ(Source Map)がめざしているのは、サプライチェーンの可視化による、ユーザーの教育である(図)。

 たとえば「iPhone」などの製品の名前を入れて検索すると、その原材料がどこで手に入り、どこの工場で加工され、どこで販売されているかという一連の流れを地図情報と一緒にたどることができる。場所の情報だけでなく、作業環境を動画で見られるものもあり、現地がいかに劣悪な環境であるかなども知ることができる。

 対象は家電製品以外に食料品、家具、衣料品などがあり、企業名では、IKEA、MUJI(良品計画)、マクドナルドなどがヒットする。最近では、リサイクルや廃棄処分のトレーサビリティーを確保し、企業が責任を持って最終処分しているかを確認するという使い方もされ、環境への取り組みからも注目度が高まっている。無料で提供されているツールを使えば、自分で新たなマップを作成することも可能で、同社CEOのレオナルド・ボニャーニ氏は、「学校教育や市民ジャーナリズムのツールとしても使ってほしい」と言っている。

 セーフキャスト(Safecast)は、3・11以降世界から注目を集めている日本国内の空間放射線量を独自に観測し、ウェブ上の地図に公開するという活動を続けるプロジェクトである。

 福島第一原子力発電所の爆発事故直後に、メディアラボで所長を務める伊藤穣一氏を中心に設立され、主要メンバーには、放射能測定機器を開発する企業や専門家をはじめ、オープンデータの取り扱いに詳しいスタッフも参加している。

 事故直後に国内でガイガーカウンターが品薄になった際は、市販されている道具を組み合わせて作る方法を紹介し、現在は独自のガイガーカウンターの製作、販売も行っている。そうした機器を使って、モニタリングポストからの定点情報に加え、ボランティアが車で計測したデータなど広範囲な情報を収集し、すべてオープンデータで公開している。もちろん、パブリック・アクセスでの資料として個人が利用することも可能だ。政府が公開するデータへの不信感が高まる中で活動が注目されており、現在では一部のデータが、福島県が運用する「県放射能測定マップ」にも採用されている。

●情報をマッシュアップしてデータを活用する試みも

 ユニークな試みとしては、収入に対して税金がどれぐらいどのように使われているかがわかる「税金はどこへいった?(Where Does My Money Go?)」がある。サイト中にあるレバーで年収額を指定すると、それと連動して関連する税金額も変化する。仕組みはイギリスに拠点があるOpen Knowledge Foundation(OKF)という団体が公開しているもので、データは横浜市などのオープンデータが使われている。ウェブアプリケーションを利用した、新しいパブリック・アクセスの仕組みだと言える。

 誰でも使用できる形で公開されているウェブアプリケーションを組み合わせて、新しいものを作り出す手法を「マッシュアップ」と呼ぶが、そうした手法はジャーナリズムにもどんどん取り入れられようとしている。海外ではこうした活動はもっと盛んで、前述のOKFから、オープンデータを公開し、見つけやすくし、活用を効率化するためのツールを無料で提供する団体(CKAN)も誕生している。

 これ以外でも、オープンデータはネットを検索すればあちこちで見つけられる。政府や自治体が持っている公共データについても、内閣が設置する「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」が、公共データの活用を促進するための基本戦略「電子行政オープンデータ戦略」を7月4日に発表しており、さらに多くのデータが公開される可能性が出てきた。それらが利用できるようになれば、ジャーナリストも調査の時間が短縮できるだけでなく、本来の取材の質を高められるようになるだろう。(「ジャーナリズム」12年11月号掲載)

   ◇

野々下裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランス・ライター。デジタル業界を中心に、国内外のイベント取材やインタビュー記事を雑誌やオンラインメディアに向けて提供する。また、本の企画編集や執筆なども手掛ける。最近の共著に『インターネット白書2011』。編集した本に『IT時代の震災と核被害』(共にインプレスジャパン)がある。

・「ジャーナリズム」最新号の目次はこちら

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