2008年6月30日
テレビを視聴・録画できる、いわゆるテレビパソコンは、アナログ放送時代に一大ブームを巻き起こしました。手持ちのパソコンに後から増設・接続してテレビ機能を付け加えられる製品もよく売れました。地上デジタル放送でも最近ようやくそうした増設用製品が登場しました。これで自宅のパソコンも地デジ対応、と喜びたいところですが、そんなに簡単ではないようです。(ライター 猪狩友則)
■高性能マシンでないと厳しい
地上デジタル放送は、アナログ放送と比較にならない高画質なため、著作権保護が格段に厳しくなっています。このことから、パソコンで地デジを見たり録画したりするのは、最初からチューナーが搭載されたメーカー製パソコンに限られました。しかし、ハイビジョンをパソコンで見たいという要望が増えたことで少し制限が緩和され、増設用製品もOKになりました。
地デジをパソコンで扱う場合、著作権保護のため様々な暗号化が施されるので、アナログ放送と違い、自由な編集や変換は現状では困難です。ハードディスク(HDD)に録画した番組はそのパソコンでしか視聴できず、DVDやブルーレイディスクへはムーブ(移動)しかできないので、HDDの録画データは消えます。購入当初はムーブできない製品もあります(将来の対応は予定しているようです)。
利用できるパソコンはかなり限定されます。パソコン用地デジチューナーのメーカーの中には、利用者が使っているパソコンで視聴可能かどうかを判別するツールを用意しているので、関心のある人は購入前に確認するとよいでしょう。おそらくほとんどのパソコンで利用できないのではないでしょうか。
その理由は、特定のハードウエアがなければ暗号化に対応できないためです。
地デジ放送はMULTI2といわれる方式で暗号化されています。この読み取り(復号化)に必要なのがB―CASカードで、ハイビジョンテレビや対応レコーダーなどに付属しています。パソコン用地デジチューナーも同じです。
■複雑な暗号化で負荷増大
パソコン用では、これがさらに複雑になります。まず、録画データをHDDに保存したり、再生ソフトに送ったりする段階で各メーカー独自の暗号化が施されます。
再生ソフトは独自方式暗号を復号しつつ、次にCOPPという方法で暗号化して、グラフィックカードにデータを送ります。COPPはウィンドウズXP SP2かビスタでないと使えず、さらに同カードを動かすドライバーソフトが対応している必要があります。古いカードでは使えないでしょう。
グラフィックカードはCOPPを復号し、今度はHDCPという方法で暗号化してディスプレーに送ります。HDCPは同カードとディスプレーをデジタル接続(DVI―D方式)する際に使われます。同カードとディスプレーの双方がHDCP対応でなければいけません。
いかに大変な処理が内部で行われているかがわかるでしょう。これらの処理の多くが、パソコンに地デジチューナーを導入する際の制約になります。
最大の関門がHDCPで、手元のディスプレーがこれに対応していないと、ハイビジョン映像を見ることはできません。メーカー製パソコンに付属するディスプレーの多くはHDCPに対応しておらず、単体で売っているディスプレーでも非対応の製品は少なくありません。
ただし、USBタイプの地デジチューナーをノートパソコンに外付けする場合はややハードルが低くなっており、ノートパソコンがCOPPに対応していれば視聴できます。
元々の画像データが巨大なのに加え、録画や再生の際に常に暗号化・復号化が行われることから、高いCPU能力が必要になります。最近3年くらいに販売されたパソコンでないと利用は難しいのが現実です。
このように「パソコンでテレビを」といっても、アナログとデジタルでは手軽さが全く違います。導入する場合は、自分のパソコンで使えるかどうか、十分に確認しましょう。