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西田宗千佳のクラウド入門

第5回:Gmailはなぜ「クラウド的」と言われるのか

2009年12月8日

写真拡大グーグル社のメールサービス「Gmail」のログイン画面。左下の「大容量」という項目で一人あたりの容量が確認できる。数字は増え続けていて、日々増えているのもわかる

 ここまで本連載では、どちらかといえば「企業内でのITシステム」のためのクラウドを紹介してきた。だが、クラウドの価値はそれだけではない。企業内の人々も含めた、より広い人々の能力を高めるためにも、クラウドは活用される。今回は、そんなクラウドのあり方を見てみよう。

■「楽だから」支持されるGmail

 最近、パソコンやiPhoneのような「スマートフォン」で、グーグル社のメールサービス「Gmail(Gメール)」を使う人が増えている。Gmailは「クラウドの象徴」的な扱われ方をすることも少なくない。

 では、Gmailはなぜそんなに注目されるのだろうか?

 理由は「楽」だからだ。

 ところでみなさんは「パソコンが得意」だろうか? おそらくほとんどの人は、「そうでもない」と答えるだろう。メールをしたり、仕事のために文書作成をしたりすることはできるけれど、なにかトラブルが起きたらどうしたらいいかよく分からない……という人も少なくないはずだ。

 パソコンがトラブルに陥る原因はいくつもある。コンピュータ・ウィルスのように悪意ある攻撃に遭うこともあれば、間違った設定をして、それが誤動作の原因になることもある。そしてもちろん、ハードウエアやソフトウエアの不具合が原因になることもある。

 そういったトラブルの最悪の結果は、大切なデータの消失だ。特に現在は、文書ファイルや写真だけでなく、電子メールも「消えては困る情報」の筆頭といえる。消えては困る情報があるなら、それらは定期的にバックアップし、仮にトラブルが起きても問題に直結しないようにする必要がある。

 だが、メールデータをきちんとバックアップしている人はどのくらいいるだろうか? ほとんどの人はなにもしていないだろう。

 企業では、社内にあるメールサーバーと連携し、自動的にバックアップする仕組みが整えられていることが多い。

 しかし、個人はそうはいかない。

 そこで登場するのがGmailだ。

■サーバーに蓄積することで「メールが便利」に

 Gmailは、グーグル社の持つ巨大なクラウド向けサーバー群を活用し、現在は一人あたり7.3GBを超える容量のメールを「ネットの向こう」に保存しておける。04年4月、1GBの容量でスタートしたGmailだが登場する前は、個人向けのメールサービスの「容量」といえば、数十「MB」がせいぜいで、数日分のメールを一時的に蓄積しておくのがせいぜいだった。だから、パソコンで多くの人が利用するメールサービスでは、「毎回メールをパソコンへダウンロードして読む」形だった。だから、パソコン内のデータが消えると、大切なメールが消えてしまう。

 しかしGmailは、数年にわたってメールを一切消さずに使っても、簡単にはいっぱいにならないほどの空き容量がある。だから、メールをいちいちダウンロードして読まない。ウェブブラウザー上で読み書きする形態を採る。パソコンにダウンロードしないから、自分のパソコンが壊れても、大切なメールのデータは消えない。本当のデータは「クラウド」の中にあるからだ。

 こうすれば、バックアップのことを気にしなくて良くなるため、非常に使うのが「楽」になるわけだ。

 データが「クラウド」の側にある、ということは、データの安全性だけがメリットではない。それ以上のメリットがあるから、多くの人が使い始めているのである。

 そのメリットとは、「どんな端末からも、同じメールのデータが読める」ということである。

 通常、パソコンで受信したメールは、受信したパソコンがなければ読むことはできない。そこで書いた返事の内容も、そのパソコンがないとわからない。携帯電話も同様だ。

 だが、冷静に考えるとそれはかなり不便なことである。本当ならば、外では携帯電話でメールを見て返事をし、デスクで仕事をしているときはパソコンでメールを扱い……といった風に、その時に合わせた端末で、「同じメール」が使えるのが理想的だ。

 Gmailはそれを実現している。メールのデータがネットの先である「クラウド」にあると、利用者はいつでもネットにアクセスできれば、同じメールデータが使える。携帯電話でもパソコンでも、ネットにつながっていれば、それでOKなのだ。

 メールという、個人にとってもっとも巨大なデータの固まりが「ネットの向こう」に置かれることは、人の活動範囲をより広くしてくれる。メールは、人にとって「活動履歴」の固まりのようなものだ。それにいつでもアクセスできる、様々な情報を取り出しつつ、人々とコミュニケーションがとれるようになると、仕事の効率は大きく上がる。

 現在、Gmailに刺激を受け、各社は様々な「クラウド」を活用したメールサービスを運営している。各企業でも、メールシステムをクラウド的なものへと刷新する動きが出始めている。

 データがネットの向こうに移るだけに見えるが、クラウドが変えるのはそれだけではない。メールの「自由度」が高まることで、多くの新しい価値が生まれる。それが、「Gmail」が高く評価される理由なのである。

プロフィール

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」(朝日新書)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)がある。

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