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西田宗千佳のクラウド入門

第6回:クラウドが「ブラウザー」だけで使える理由とは?

2009年12月8日

写真拡大2010年、マイクロソフトが次期マイクロソフト・オフィス「オフィス2010」にて提供を予定している「無料版MSオフィス」。画面は、技術者向けに公開した開発途上版。アップルが提供するブラウザー「サファリ」でも問題なく動く

 クラウド的サービスの多くは、ウェブブラウザーだけで動作することが多い。クラウド的ウェブサービスとして名高いGmailも、ウェブブラウザー上で動作するのに、まるで普通のアプリケーション・ソフトのように動作する。

 クラウド的アプリケーションの多くは、なぜウェブブラウザーだけで動作するのだろうか? また、その仕組みはどういったものなのだろうか?

■マイクロソフト・オフィスもウェブブラウザーで使えるように

 2010年、マイクロソフトは、次期マイクロソフト・オフィス「オフィス2010」にて、「ウェブブラウザーだけで動く、無料版MSオフィス」を提供する。

 ウェブブラウザーで動作するといっても、その中身は決して、通常のアプリケーション版に劣るものではない。機能制限はあるが、見た目もファイル形式も、そして操作性も、まったくMSオフィスそのものである。

 しかもこのサービス、ウィンドウズ・パソコンだけのものではない。マイクロソフトのウェブブラウザーである「インターネット・エクスプローラー」はもちろん、FirefoxやOperaなどの他社ブラウザー、Macやリナックスなどの別のOSの上でも動く。それどころか、iPhoneやWindows Phoneなどの携帯電話でもOKだ。インターネットにつながっていて、最新のウェブブラウザーさえあればどんな機器でもOKなのである。

 クラウド・サービスは、こういった特質を持つものが非常に多い。理由は、処理のほとんどを「ネットの向こう」で行うためだ。

 一般的なアプリケーション・ソフトは、処理の大半を「パソコンや携帯電話の持つCPU」で行う。そのため、動作の即応性が高く、処理が迅速に行える。だがそのためには、「アプリケーション・ソフト」が動作する機器のCPUやOSに合わせて作られたソフトが必要になる。だからこそ、「ウィンドウズ用に作られたソフト」は「ウィンドウズでしか動かない」のである。

 だが、クラウド・サービスではちょっと異なる。ソフトの大部分は、サービスを利用するパソコンの側でなく、クラウドの「サーバー群」の中にある。データがサーバー群に保存され、サーバー群の中で動くソフトが、それを処理する。パソコンの側が行うのは、画面表示と、入力された文字などをクラウド・サーバー側に伝える作業となる。ウェブブラウザーには、高度な画面表示機能と、入力された文字などをネットへ受け渡す機能がある。そもそもウェブブラウザーは、ネットへの一番身近な「窓」。だからこそ、ほとんどのクラウド・サービスは、ウェブブラウザーだけで使えるようになっているのである。

■ソフトの力でクラウドが強くなり、クラウドの力でソフトが便利になる

 ただし、ウェブブラウザーで動作するものだけが「クラウド」というわけではない。

 ウェブブラウザーでできることは限られており、動作速度などの点でも問題が出ることがある。また、ネットワークにつながっていない場所では、ほとんどのウェブアプリケーションは動作しない。そこで最近は、一部の仕事を専用のアプリケーション・ソフトに、データのやりとりや多くの処理はクラウドに、という形を採る「ハイブリッド型」も登場している。

 例えば、アイデアメモを蓄積するネットサービス「Evernote」は、ウェブだけでも利用できるが、別途専用ソフトウエアも用意されており、そちらでメモを作って管理することもできる。専用ソフトだけを使う分には、まるでネットサービスではないかのように感じるほどだ。しかし、データの「原本」はクラウド上に保管し、画像内に含まれる英語や数字に関してはサーバー上で「文字認識」を行って、それを生かして検索を行う、という機能を持っている。クラウドサービスとしてのうまみも十分出ているわけだ。

 マイクロソフトも同様の戦略だ。オフィス2010ではウェブ版も用意するが、ウェブ版だけでなく、従来通り「アプリケーション・ソフト」も用意する。普段、しっかりとしたビジネス文書を作成するなら、やはりアプリケーション・ソフトの方が分がある。そこで、ほとんどの作業はアプリケーション・ソフトで行い、アプリケーション版がインストールされていない環境や、携帯電話などのモバイル環境で文書のチェックをしたい時などは、ウェブ版を活用する、という形を考えているのだ。

 マイクロソフトはこういった形式を、「サービス+ソフトウエア」と呼び、アプリケーション・ソフトに強い自社の強みを生かす戦略と位置づけている。

 クラウドが進展すると、よりアプリケーション・ソフトへの依存度は減っていくだろう。だが、アプリケーション・ソフトがまったくなくなってしまうわけではなく、クラウドと組み合わせられる形で使われていくことだろう。クラウドがアプリケーション・ソフトにできない強みを発揮し、アプリケーション・ソフトが、クラウドの弱みを補完するのである。

プロフィール

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」(朝日新書)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)がある。

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