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西田宗千佳のクラウド入門

第7回:プライベートクラウドとパブリッククラウド<上>

2009年12月11日

 クラウドに種類がある、というと驚かれる方もいるのではないだろうか。最近、特に企業向けクラウドの分野で、「プライベートクラウド」という言葉が注目されている。プライベートクラウドという言葉の意味と、「そういう言葉が指すものが必要である」ということを認識することは、クラウドが抱える現在の限界と、難しさが見えてくる。

■「自社のためだけにハードを用意する」クラウドってなんだ?

 企業向けのクラウドをビジネスとして手がける企業の中で、最近キーワードとなっているのが「プライベートクラウド」である。言葉通りにとれば、「プライベートに使うクラウドサービス」といったイメージになるだろうか。

 だがこの言葉、クラウドの成り立ちを考えると、どうにも落ち着きの悪いものがある。

 本連載で述べてきたように、クラウドとは、「ネットワークの向こうにある巨大なサーバー群を、数多くの顧客で共有し、一部を借りて効率的にIT資産を使う」形態のことを指す。そもそも「たくさんの人と共有する」ことが前提のものをプライベートに使う、とはどういうことなのだろうか?

 実は、言葉の通りなのである。

 プライベートクラウドとは、クラウドで使われる巨大なサーバー資産と同じシステムを「複数の顧客で共有する」ことをせず、「特定の1社のため」だけに構築したもののことを指す。

 クラウドの定義が「共有すること」だとすれば、なんとも矛盾した存在に見える。1社でシステムを占有するため、クラウドの価値としてこれまで挙げてきたもののうち、「低コストで済む」「短時間で構築できる」という利点は失われてしまうことになるから、クラウドビジネスを手がける一部の事業者は、「プライベートクラウドなどクラウドではない」と言い放つほどである。

 だが、筆者の定義でいえば、プライベートクラウドもやっぱり「クラウド」なのである。

 その理由はなにか? それは、「クラウド」の利点を生む「枠」のサイズが、一般的なクラウドとプライベートクラウドでは異なるためである。

■「ネットにつながず」クラウドの価値だけを得る

 プライベートクラウドは、1社が占有するサーバー設備のことを指す。だが、ここで視点を、「複数の会社が存在する世界」から、「大企業の中」に移して考えてみてほしい。

 クラウドが「コスト的にメリット」があったのは、複数の顧客で共有したからである。では、大企業の中の「一部門」や「一個人」はどうだろう? 大企業という大きな組織の中でも、一部門・一個人となると、利用できる予算や設備には限りがある。中小企業がなかなか大規模なITシステムを使えないのと同じように、大企業も一部門で見れば、ITシステムに潤沢な投資が行えるわけではないのだ。例えば、「新規ビジネスのためにサーバーを用意したい」「新しいソフト開発を行うためにサーバーを用意したい」と思っても、一部門単位ではなかなか実現できない、ということも少なくない。

 ここで、クラウドと同じ考え方を持ちこむとしよう。

 クラウドでは、ネットワーク上でサーバーを貸し出す企業から、必要になった演算能力やファイルを保管しておく「能力」を、コストに応じて安価に借りることができる。例えば、アマゾン・コムが提供する「アマゾンEC2」などを使えば、ウェブ上で契約し、設定ボタンをクリックするだけで、自社が使える「演算能力」が手に入る。

 これをプライベートクラウドで実現すると、以下のようになる。

 まず大企業は、プライベートクラウドで使う「クラウドサーバー」を用意する。クラウドとはいうが、あくまで「プライベート」なものなので、インターネットの向こうに置く必要はない。むしろ、差別化のために公衆インターネットを介しての接続はしないのが一般的だ。だが、仕組みとしては、社内から「ワンクリックで演算能力を、一部門のためのすぐに用意する」仕組みを持っている。

 こういったサーバーを持っていると、クラウドのもつ「必要な時に、柔軟に演算能力が用意できる」という要素を、大企業の部門・個人レベルに提供する、という形が実現する。「ネットを介してつなぐ」という意味では、クラウドと全く異なる形だが、「必要に応じて能力を提供する」という意味では、クラウド的だ、といえる。

 プライベートクラウドが「クラウド」の一つ、と言われるのは、この要素があるがゆえである。

 では、大企業はなぜ、そこまでして「ネットの向こうにあるわけではないクラウド」を求めるのだろうか? それについては、次回解説することとしよう。

プロフィール

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」(朝日新書)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)がある。

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