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西田宗千佳のクラウド入門

第8回:プライベートクラウドとパブリッククラウド<下>

2009年12月11日

 大企業向けのクラウドとして「プライベートクラウド」が注目されている。だが、その特質は一般的なクラウドサービス(対比する意味で「パブリッククラウド」と呼ばれる)を運営する事業者からは、「プライベートクラウドはクラウドではない」と指弾されることもあるほど、その内実は異なる。なぜ大企業は「プライベートクラウド」を求めるのだろうか。

■パブリッククラウドを避ける大企業

 前回の連載で解説したように、プライベートクラウドは、一般的なクラウドである「パブリッククラウド」と大きく異なる。なにしろ、「ネットの向こうにない」のだから。

 パブリッククラウドを利用する場合、サーバー群は当然、インターネット上に構築される。利用する企業は、インターネットを介してクラウドを構成するサーバーにアクセスすることになるからだ。

 だが、プライベートクラウドの場合には、必ずしもインターネットに接続している必要はない。プライベートクラウドは、特定の企業の「専有物」だ。仮に企業の建物の中になかったとしても、インターネットではなく、専用回線を使い、インターネットとは切り離した存在として作られる。

「プライベートクラウドはクラウドではない」と言われることがあるのはこのためだ。企業が「占有する」サーバーならば、それはクラウド以前のサーバーとどこが違うのだ? という疑問が出るのも理解できる。

 だが、プライベートクラウドを利用する企業の側から見れば、プライベートクラウドも「クラウド」の要素を持っている。各部門単位・個人単位で、自由に利用可能な「演算能力」に他ならないからである。

 では、なぜ大企業は、パブリッククラウドでなくプライベートクラウドを利用したい、と考えるのだろうか? 理由は「クラウドがネットの向こうにある」からだ。

■法制度などの制約が「プライベートクラウド」の存在意義

 ネットの向こうにサーバーがあり、そこにデータを蓄積して利用するというクラウドの形態は、「ネットの向こうにデータを保存する」という形態そのものに対する「信頼」が前提になっている。当然、クラウドを運営する企業の多くは、サービスの永続性はもちろん、セキュリティ対策にも最大限の配慮をしている。しかし、利用する企業の側がそれを信頼できないとしたら、話はまた別である。

 大企業の多くは保守的な発想をする。インターネットという公衆回線を利用し、複数の企業でサーバーを共有するというクラウドのあり方に不安を感じる企業がいても無理からぬ部分がある。

 また、企業側だけでは避けられない「法制度」の問題も、プライベートクラウドの存在を後押しする。

 例えば、国によっては、公的なサービスに関わるデータは、その国の外に保管してはならない、という決まりが存在する場合がある。また個人情報保護に関する法的なルールが国によって異なる結果、「ある国のルールには適応しているが、別の国のルールには適応しておらず、特定の国の国民の個人情報が預かれない」といったことも想定できる。

 そういったリスクを最大限に配慮する企業の場合、自国以外にデータが置かれる可能性もある、インターネットの向こうにあるサーバーを使うのは避けたい、と考えるのは理解できる。その上で、クラウドの持つ柔軟性とスピードは享受したい、と考える企業が、プライベートクラウドの導入を検討する、ということなのである。

 だが、大企業におけるプライベートクラウドの存在は、本当にいつまでも続くものなのだろうか? クラウドの価値を最大に生かすには、やはりパブリッククラウドでないといけない部分も多い。例えば、利用効率を上げるには「占有」は不利だし、携帯電話やモバイル機器を使い、モバイル環境でも自由に使える形にするには、プライベートクラウドでは作りにくい。

 少なくとも、単純な「インターネット経由は信頼ならない」という評価は間違っている。すでに数多くの企業がクラウド上でビジネスを行っているのが、その理由である。「大企業だからプライベートクラウド」ではなく、「どうしてもプライベートでなくてはいけないからプライベートクラウドを使う」という形へと、認識は変化していくはずだ。法的な理由や技術的な理由から、どうしてもパブリッククラウドが使えない部分に、プライベートクラウドを使っていく、というのが理想的な形だろう。

 そうなるとやはり、クラウドの主軸は「パブリッククラウド」であり、プライベートクラウドは補完的な役割、と考えるのが良さそうだ。

プロフィール

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」(朝日新書)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)がある。

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