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西田宗千佳のクラウド入門

第9回:クラウドを支える「仮想化」という技術<上>

2009年12月17日

 クラウドは、「サーバーの一部を貸し出す」ことを基本としている。では、なぜそのようなことができるようになったのだろうか? サーバーを1台づつ貸し出すのとは、どこが違うのだろうか?

 そのカギを握っているのが「仮想化」という技術である。クラウドを支える「仮想化」のことを知ると、クラウドの「コスト」「スピード」「自由度」の秘密が見えてくる。

■「他の利用者の影響」を受けやすい共有型ホスティング

 本連載で述べてきたように、クラウドでは「巨大なサーバー群の一部を、サービスとして利用者に貸し出す」ことが行われている。

 ここで疑問が出る。「一部を貸し出す」とは、どのような形で行われているのだろうか?

 実は、サーバーの一部を貸し出す、という形態は、「クラウド」という言葉が生まれるはるか前、1990年代末から行われてきた。俗に「ホスティング」と呼ばれるサービスがそれだ。現在も広く使われており、インターネット・ビジネスを支える存在でもある。

 ホスティングとは、主にウェブサーバーやメールサーバーなどを運営する際に、自社内にサーバーを持たず、他社から借り受けるものである。クラウド同様、メリットは「ハードを買わないのでコストが安く済む」ことにある。

 一見両者は似ているが、特に、古典的なホスティングサービスとクラウドサービスとでは、性質が大きく異なる場合が多い。

 その理由とは「提供形態」だ。

 ホスティングには、主に「共有型」と「占有型」の2つに分けられる。前者は1台のサーバーを複数人で共有して利用する方法、後者は1台のサーバーを1契約者で占有する形である。

 特に特徴的なのは前者だ。共有型のホスティングでは、機械としての「サーバー」だけでなく、ソフトウエアの面でも共有をしている。例えば、「共有型」ホスティングサービスでウェブサーバーを借りる場合、各人のデータは、簡単に言えば「同じウェブサーバーの中の別々のフォルダー」に収納される。1つのテーブルで複数の人が食事をするイメージと考えるとわかりやすいだろうか。

 この方式は、設定もハード導入も楽なので、コストが低いことが最大の特徴だ。だが、安定度の点では問題が起きやすい。例えば、同じサーバーに収容されているある利用者のウェブサイトのアクセスが極端に増えたとしよう。すると、同じハード・ソフトを共有する別の契約者のウェブサイトの「処理速度」も落ちてしまう。テーブルの例で言えば、一人がたくさんの皿を並べて食事を始めた結果、他の人が使える面積が狭くなってしまった、という感じだろうか。

 そのため、比較的規模の大きいウェブサービスの構築を検討している企業は、「共有型」でなく「占有型」を選択する場合が多かった。

■「仮想化」で他の利用者の影響を受けづらいクラウド

 では、同じ「共有型」サービスであるクラウドは、どこが違うのだろうか?

 クラウドも同じサーバーを複数人で共有するが、「同じソフト」を共有するわけではない。そこで使われることが多いのが「仮想化」という技術である。

 仮想化とは、ソフトの力を借りて「仮想的なコンピューター」を作り出す技術だ。例えば、1台のパソコンの中に「別のパソコン」を仮想的に作り「複数のパソコン」があるように動作させる、といったことが可能になる。個々の仮想的なコンピューターは独立して動作するので、「同じ機器内の、別の仮想コンピューター」の動作負荷が大きくなっても、他の仮想コンピューターに与える影響は小さくできる。テーブルの例で言えば、一人ひとりの領域に「仕切り」があって、他人の影響を受けづらい、と思えばいいだろう。

 クラウドのサーバーで使われているのも、同じような考え方だ。サーバー群を仮想化技術で「複数のサーバー」に分け、これをそれぞれ貸し出す、という形を採るのだ。これは、利用者側から見える動作イメージとしては、「占有型」の方に近い。仮想コンピューターを「丸ごと借りる」ようなイメージとなるからだ。

 もちろん、利用するクラウド・サービスの内容により、提供される形は異なる。だが、その裏ではほぼ例外なく仮想化技術が使われており、ハードウエア資産をより効率的に利用するようになっている。

 また、最新のホスティングサービスでも、仮想化を使い、低価格に「占有型ホスティングサービス」を提供する、という例が増えている。「ホスティングとクラウドは違う」と書いたが、それはあくまで「古典的なサービス」の場合であり、現在は、両者を構成する要素はかなり近くなっている。違いは、上に載っている「サービス」の側にある、という形になっている。ホスティングが主に「ウェブサーバーやメールサーバー向け」といった、特定用途向けに提供されることが多いのに対し、クラウドは用途を限定しない、という形が多いのだ。

 では、なぜ仮想化技術を使うと、よりハードウエアを効率的に使えるのだろうか? また、なぜ「用途を限定しない」形でサービスを提供しやすいのだろうか? 次回はその点を解説してみよう。

プロフィール

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」(朝日新書)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)がある。

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