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西田宗千佳のクラウド入門

第10回:クラウドを支える「仮想化」という技術<下>

2009年12月17日

 前回解説したように、クラウドでは「仮想化」という技術が使われている。仮想化技術は主にハードウエアの運用効率を上げ、低コストにサービスを提供するために使われているのだが、そうなるのはなぜだろうか?  また、クラウドのもう一つの特徴である「スピード」も、仮想化が生み出すものである。

 今回は、なぜ仮想化がそのような特質を生み出すのかを解説してみよう。

■「物理的でない」から柔軟な構築が可能

 クラウドのサーバーは、たくさんのサーバー機器をつないで組み合わせて運用されている。しかもそれは、多くの場合、「仮想化技術」を使い、無数の「仮想的なコンピューター」に分割して利用される。

 ここで、ちょっと考えてもらいたい。100人の顧客にサーバーを提供したい、とする。クラウドでは、サーバーを仮想化技術で分割し、「仮想的なサーバー」として提供する。これを、とても安いコンピューターを100台調達し、それを1台づつ提供する、という形ではダメなのだろうか? 後者の方がシンプルで、管理は楽なようにも思える。

 だが現実には、そうではない。仮想化を使った方が、ずっと管理も設備コストも安くなるのである。

 仮想化技術で作るコンピューターは、「物理的なコンピューターの性能の範囲内」である限り、自由に性能を調整できる。

 それに対し物理的なコンピューターは、当然コストや製造技術により、「1台あたりの性能」が決まる。ちょうどいい性能のコンピューターがあればそれを買ってもいいが、それほどうまくいくことはない。どこかで性能が足りなくなったり、余分になったりしやすい。

 また、100台のコンピューターには「100台の電源」と「100台の冷却機構」が必要だが、1台のコンピューターをソフト的に分割するなら、「1台の大きな電源」と「1台の冷却機構」で済む。一般に、後者の方がコストも省エネ性能も高くしやすい。クラウドを運営する企業にとっては、巨大サーバー群の消費する電力の削減は大きなテーマ。そのためには、仮想化を使って効率的な運用をすることが必須なのである。

■仮想化で「ソフト開発以外」の手間を減らす

 ここまでの理由は、「サービスを運営する側」のメリットである。だが、仮想化技術は「利用する側」にも大きな価値を持っている。

 中でももっとも大きいのが、開発やテストなどに費やされる時間の短さ、コンピューターがちゃんと使えるようになるまでの「スピード」である。

 コンピューターが動くには、OSやアプリケーションなどの「ソフト」が必要だ。パソコンで経験のある方も多いだろうが、OSなどのインストールには意外と時間がかかる。作業時間がかかるだけで生産性の薄い作業であるため、特にエンジニアにとっては苦痛であるようだ。

 実は仮想化技術を使うと、この時間が大幅に短縮できる。

 仮想化技術では、「動いているコンピューターの状況」を、OSからソフトまで、すべてまとめて保存することができる。まずは、サービスやソフトを開発し、「完成」した時点で、この手法を使って環境を「保存」しておく。そして、その後、同じ環境を別の仮想コンピューターに再現する場合には、「保存」しておいた環境をコピーしてやれば終了である。

 重要なのは、「別の環境に変える」のも一瞬だ、ということだ。ソフトの開発を行う場合などでは、OSの設定やソフトを切り換えてテストを行う、というシーンが多い。仮想コンピューターなら、それぞれのシーンの仮想環境を用意しておき、場合に応じて切り換えるだけで、簡単に入れ替えができる。物理的なコンピューターの場合には、ハードディスクの入れ替えやOSの再インストールを伴う場合も多く、クラウドのように「瞬時に」というわけにはいかない。

 この特徴を生かしてビジネスを展開することが多いのが、「ネットビジネスを始めようとするベンチャー企業」だ。手元のパソコンに「仮想環境」を作った上でテストを行い、クラウド上に仮想コンピューターを借りて、できあがったものをコピーしてやるだけで、すぐにネットサービスが始められる。クラウドから仮想コンピューターを借りるのも、また、借りる「演算能力の量」を変えるのも、ネット経由で、ワンクリックで行える。

 余力の小さなベンチャー企業にとって、「自分たちのサービスに必要なソフトを開発する」こと以外は、大きな手間である。自分でサーバーを用意し、その上でサービスを展開するための環境を用意するのは、コストの面でもスピードの面でも厳しい。仮想化技術を生かしたクラウドの存在は、彼らにとって大きな福音である。短時間で柔軟にソフト開発が行えるため、ネットを生かした、クラウド的なウェブサービスがどんどん生まれてくることになるのだ。

プロフィール

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」(朝日新書)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)がある。

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