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西田宗千佳のクラウド入門

第11回:クラウドの弱点を考える<上>

2009年12月21日

 クラウドは、決して万能の技術ではない。だが、巷で言われている「クラウドの弱点」には、あまり同意できない内容のものも含まれている。世の中で言われる「クラウドの欠点」は、どこが正しく、どこが間違っているのだろうか? その点を考えてみよう。

■セキュリティーは問題にならない?!

 クラウドの話をすると、眉をひそめてこういう人がいる。

「セキュリティーが問題だし、ネットの回線はそんなに太くないよ」と。

 だがこの言葉、どちらも正しくない。なぜなら、それはクラウドの固有の問題ではないからである。

 すでにクラウドを全社的に導入している、ある大企業の担当者は、冗談めかして筆者に、次のように語ったことがある。

「セキュリティーを理由にクラウドを使わない企業は、どんなにすごいセキュリティー対策をしているんですかね? うちよりすごいとは思えないんですが」

 クラウドでのセキュリティーとは、主に2つに分かれる。一つは、クラウドのサービス元に預けたデータが流出する危険性。もう一つは、クラウド・サービスにアクセスするための「経路」、すなわちインターネット経由でデータが流出する危険性だ。

 だがこれは、冷静に考えると大きなリスクとは言い難い。

 第一に、「サービス元からの流出」については、結局「サービス元企業を信頼しうるか」というレベルの話に帰結する。究極的には、「銀行を選ぶ時、その銀行を信頼できるのか」ということと同じレベルの話である。信頼できる企業と組む、ということは、なにもクラウドに限った話ではなく、通常の提携や商取引でも大切なことだ。安価だからと信頼に値しない企業を使うのは論外といえる。

 次に「経路」について。現在、秘匿性を必要とする通信の多くは「暗号化」が行われている。この点はもちろん、クラウドでも同様である。ネットで使われている暗号を解読するのはきわめて困難なことであり、その点を気にするのはナンセンスなことだ。もちろん、システム構築時に適切なセキュリティー対策を行ってない場合には、その限りではない。この点でも「信頼できる企業と組む」必要性が出てくる。

 もっともリスクが大きいのは、クラウド・サービスを利用するために必要な「IDとパスワード」の管理だ。IDとパスワードが流出すれば、すべての情報が筒抜けになる。確かにこれは恐ろしいことだ。

 しかし、そのリスクはクラウドを使っていない場合でも同じだ。メールでも、パソコンでも、IDとパスワードが流出すればすべての情報が流出してしまう。

 すなわちこれも、クラウドのリスクではなく、「ITシステム全体」が抱えているリスクに過ぎないのである。

■適材適所で「クラウド」を使う

 クラウドは「ネットの向こうのサーバー」に依存する。だから、「さぞ高速なネット回線がないと利用できないのでは」と思われがちだ。

 しかし、実際にはそんなことはない。ほとんどのクラウド・サービスは、通常のウェブサイトを見る場合よりも多少データ量が多い程度の情報量しか転送しない。ネットの通信量の多くを占めるのは、情報量のやり取りが多い動画転送や違法ファイルの交換が主で、個人・企業でのクラウド利用は、今のネットならば大きな影響を及ぼさない。

 他方、多くの人が気にするのが「可用性」だ。他社のサービスに依存すると、ビジネスが停止する可能性が否定できない。クラウド・サーバーに不具合があれば動作が止まるし、ネット回線に不具合があっても動作が止まる。すべて自社内にハードウエアがあり、自社の管理下で運用できる場合とでは、少々状況が異なる。そのため、特に企業内でクラウドを利用する場合には、「年にどのくらいの時間、サービスが停止することを許容するのか」を示す「サービス・レベル・アシュアランス(SLA:Service Level Assurance)」を締結し、リスク計算をしやすくして運用するのが一般的である。

 だがもっとも基本的な考え方は、「一瞬でも停止してはいけないサービス」にはクラウドは使わない、というものだ。例えば、銀行の中枢決済システムのような存在は、一瞬たりとも誤動作が許されない。そういうったものは、やはり旧来通りのシステム構築を行うか、せめてプライベート・クラウドに近いシステムにした方がいい。

 他方、メールや営業用の案件データベースのように、「仮に数時間止まっても、ビジネスのすべてがご破算になる」性質のものでないITシステムの場合には、クラウドでも大きな問題が出ることはない。

 すべてに「100%の稼働」を求めるのでなく、ミスやトラブルを計算に入れて「適材適所でITシステムを使い分ける」というのも、クラウド以降の時代に必須とされる考え方といっていいだろう。

プロフィール

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」(朝日新書)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)がある。

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