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西田宗千佳のクラウド入門

第12回:クラウドの弱点を考える<下>

2009年12月21日

 クラウドには、もちろん「弱点」がある。それはむしろ、既存のITシステムからは考えつきにくい、独自の点にある。

 そんな、クラウド独自の弱点とはなんだろうか? それを知っておくことで、クラウドは「本当に使える」ITシステムになっていくのだ。

■「遠いところ」にサーバーがあると「リアルタイム」には弱い?

 クラウドの弱点は、「サーバーが物理的に遠くにあること」に起因する。

 例えば、サーバーがアメリカと日本にあり、それぞれを利用する場合、どんな違いが生まれるだろうか? 理論的に言えば、アメリカにサーバーがあるシステムの方が、距離がある分だけ「操作からの反応速度」が遅くなる、と予想される。ただし、経路中の回線速度が違ったり、経路そのものの複雑さが異なっていた場合、「日本のサーバーにアクセスするよりアメリカのサーバーの方が速い」ということが起きやすいのが、難しいところなのだが。

 技術の進歩により、クラウドの反応速度はかなり速くなっている。とはいえ、ローカルアプリケーションに比べると若干遅くなる可能性は否めない。「なによりも速度」を重視する場合、クラウドであることがマイナスとなる可能性はある。

 これはなにも、操作性だけの話ではない。銀行の決済系のように、一瞬一瞬、リアルタイムで処理を積み上げていくシステムでは、「読めない処理遅延」を前提にシステムを作るのが難しいため、クラウドは向かない、と言われる。それに対し、一般的な業務システムで使われている「ある量・ある時間分のデータを集め、一括処理する」方式(俗にバッチ処理と呼ばれる)は、容易にクラウドに展開ができる、と言われている。

 ただしこの点については、技術の進歩やシステムの開発手法によりカバーできる部分が多いと言われており、専門家の間でも意見が分かれるところである。個人レベルでは大きな問題とはならないが、企業内にシステムを導入する場合などは、構築を担当する企業や専門家のアドバイスを受けた方が良い。

■法制度対応には「クラウド・サーバーの設置国」にも注意を

 もう一つの問題は「法制度」だ。「プライベート・クラウド」の項で述べたように、各国で法制度は違うものの、国をまたいでサービスが提供される以上、法の違いが問題になる可能性は否定できない。中には、アメリカの愛国者法(テロ対策などを目的に、アメリカ国内にあるすべての情報を、米国政府が令状なく閲覧可能とする法律)のように、「最終的にはプライバシー侵害につながるのでは」と懸念されるものもある。

 多くの場合、大きな問題とはならないだろう。違法な活動をしなければ、ほとんどの企業にとって、法的なリスクは起きない。しかし、国際的な大企業の場合、各国での法制度の違いを認識し、データの蓄積場所などをコントロールする必要も出てくる。すなわち、プライベート・クラウドの利用や、自国内や特定の国の中にあるサーバーの利用を検討するわけだ。

 現在、主力のクラウド・サービスの多くは、米国系の企業によって運営されている。アメリカ国内にいくつかの「巨大クラウドサーバー群」を構築し、そこに利用者を集積させる形で運営されている。中には、日本国内やアジア、ヨーロッパなどに拠点をもち、そこにクラウドを構築している例もあるが、その状況は企業やサービスによってまちまちだ。 多くのクラウド・サービスでは、そのサービスがどの国に置かれたサーバーを利用しているかを開示している。法制度などが気になるならば、そう言った点も配慮する必要が出てくるだろう。

プロフィール

西田宗千佳(にしだ・むねちか)

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。朝日新聞、アエラ(朝日新聞出版)、AV Watch(インプレス)などに寄稿。近著に「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」(朝日新書)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)がある。

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