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視覚障害、ITで変わる 音声で技術者続々

2010年4月27日

 ホームページ(HP)作成の仕事を請け負う視覚障害者がいる。頭の中で完成図を描き、パソコンの音声を頼りに画面を組み立てていく。視覚障害者のインターネット利用率は一般より高いという調査結果もあり、ネットのバリアフリー化は急速に進む。「失われた感覚」を補うパソコンが、視覚障害者の働く場も生み出している。(鈴木洋和)

 神戸市灘区の熊沢明さん(24)は、視覚障害者を支援するNPO法人神戸アイライト協会(同市中央区)でパソコンを学びながら、HP作成の仕事を請け負っている。

 「スタート」「メニュー」「インターネット」――。

 マウスの代わりにキーボードの矢印キーを押して画面上のカーソルを動かすと、音声ソフトを組み込んだパソコンが画面上の文字を読み上げる。1秒間に10文字以上。目で追うのと大差はない。

 HP作成では、まず頭の中で完成図を描いてみる。配色は健常者にしてもらうが、デザインのひな型や枠の中へ文章を流し込むソフトは自分で開発した。昨秋、兵庫県視覚障害者福祉協会のHPを初めて手がけた。文字と背景の明暗を際立たせるなど、「弱視の人への配慮もなされ、こちらの提案以上のものができた」(同協会の惣田憲司事務局長)と評価された。

 体重900グラムの未熟児で生まれ、生後3週間で視力を失った。小学生の頃から母親らにテレビ画面を読み上げてもらい、キャラクターの行動を自分で選択しながら進むロールプレイングゲームに夢中になった。神戸市立盲学校を卒業後、視覚障害者に情報工学を教える筑波技術短大(現・筑波技術大)でソフト開発を学んだ。実際に見たことのないパソコン画面は「左上に写真」などと周囲の人に説明してもらいながら学んだ。

 HP作成後も新規情報を更新したり、不具合を修正したりして顧客の要望に応える。依頼はまだ1件だが、熊沢さんは意欲的だ。「自分が障害者なので、障害者にとって使いやすいHPづくりには自信がある」

 ●ネット利用は一般以上

 視覚障害者が情報技術の仕事に就いた先駆けが、昨年6月に米IBMが技術者の最高職位「フェロー」に任命した浅川智恵子さん(51)だ。中学生の時に事故で視力を失った浅川さんは1985年に日本IBMに入社。「点字技術や音声ソフトの開発などをリードしてきた実績が高く評価された」(同社広報)という。

 浅川さんによると、視覚障害者がコンピューターの仕事をする例は米国でも広がる。「私たちにとってパソコンは失われた感覚を補うもの。今後も利用が拡大する可能性を秘めている」と話す。

 筑波技術大では87年の設立以来、今年3月までに133人の視覚障害者が情報工学を学んだ。卒業生の6割は企業の事務職、3割はコンピューターのプログラマーなど技術職だ。日立情報システムズ(本社・東京)では、7人の視覚障害者がシステムエンジニアとして働く。

 総務省行政評価局によると、視覚障害者のインターネット利用率は2002年の時点ですでに69・7%と、全体平均の57・8%を上回っていた。担当者は「現在はさらに増えているだろう」と見る。NPO法人ハーモニー・アイ(東京都江東区)の馬塲寿実(ばばひさみ)理事長は、視覚障害者にとってのネットを「自立した生活に欠かせない」と強調する。総務省は昨年から中央省庁の34サイトを対象に「キーボードだけで操作できるか」など39項目について調査。今年度中に結果を公表する予定だ。

 ■総務省のHP調査の主な項目

 ・言葉の間に空白を入れない(「日 時」とすると音声ソフトは「ひ・とき」と読み上げてしまう)

 ・「ここをクリック」のような漠然とした表現をしない。リンク先がどのようなページか分かるように書く

 ・色に意味を持たせた書き方をしない(「商品名が赤で表示されているものは在庫切れ」などの表現はしない)

 ・画像には文字情報を入れ、音声ソフトでも何の画像か分かるようにする

 ・入力に制限時間を設けない

 ・30秒、60秒など一定時間ごとにページが更新されるようにしない(音声ソフトの読み上げ途中にページが変わる恐れがある)

検索フォーム

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