2010年7月28日
インターネット検索=キーワード=で世界最大手の米グーグルが、同じく日本最大手のヤフーに、検索技術を提供することになった。今やネット検索は、日本人の暮らしや経済活動を支えるインフラだ。この技術を事実上、グーグル1社が握ることで、ネットから得られる情報の多様性が損なわれる恐れも指摘されている。(山川一基=米サンノゼ、橋田正城、五十嵐大介、編集委員・平和博)
●ヤフー、先端技術狙い
「将来的にはグーグルの検索エンジンをもとに、ヤフーの付加価値をつけた方が成長に寄与すると考えた」。27日午後、ヤフー・ジャパンの運営会社「ヤフー」の井上雅博社長が記者会見し、グーグルとの提携を発表した。
内容はこうだ。グーグルは最新の検索エンジンと、「検索連動型広告配信システム」をヤフーに提供する。逆にヤフーは、自社サイトで展開する買い物やオークションなどの情報を、グーグルに提供する。
グーグル側は情報を検索エンジンに即座に反映させ、利用者が値段などの最新の情報を得られるようにする。つまり、検索の精度を高めるわけだ。検索エンジンの切り替えは、年内にも実施する。
提携の背後には、米国の事情があった。
日本のヤフーは米ヤフーの検索エンジンを採用するが、米ヤフーは昨年、米マイクロソフト(MS)との提携を発表。エンジンの自社開発の中止と、MSのエンジン「ビング」への切り替えを決めた。このため、日本のヤフーも対応を迫られた。
それにしてもなぜ、ライバルであるグーグルを選んだのか。
日本のヤフーにとって、選択肢は二つあった。米ヤフーにならい、MSの「ビング」を使うか。グーグルのエンジンを採用するか。
ヤフー関係者によると、ビングは「実績が浅く、日本語の環境の中でどう使われるかわからない」。そこで目をつけたのが「連動型広告」など、世界最先端の技術を持つグーグルのエンジンだった。実は2001年から04年までグーグルのエンジンを採用していたこともある。井上社長は会見で「日本語で提供するサービスがグーグルの方が一歩先んじている」と説明した。
今後、グーグルのエンジンを土台に、ヤフーの日本語技術も加えて改良する。米ヤフーと異なる経営判断だが、同意は得ているという。
●グーグル、増す存在感
今回の提携で、検索技術で世界を席巻するグーグルの存在感はますます高まる。
検索はネットの中心的なサービスのため、IT企業は激しい争いを続けてきた。最近は開発に巨額の資金と優秀な技術者が必要になり、世界的には米グーグルとMSの2社に、ほぼ絞られている。
グーグルの強みは、検索精度の高さと、それを土台とする収益力の強さだ。「連動型広告」で集まった巨額の広告収入を元手に、さらなる技術開発につなげる好循環を生み出している。世界各地の空撮写真を無料で見られる「グーグル・アース」など、検索と連動したサービスも手がけ、シェアを伸ばしてきた。
一方、基本ソフト「ウィンドウズ」で圧倒的なシェアを持つMSも、検索と広告サービスの連動に早くから目をつけてきたが、「ビング」のシェアはまだ低い。
また、検索サービスの先駆けとも言える米ヤフーは08年、グーグルとの提携を模索したこともある。ところが、米司法省が独占禁止法に抵触するとして承認せず、結局、MSとの提携でグーグルを追い上げる姿勢に転じた。
今回の日本での提携では、グーグルと日本のヤフーを合わせたシェアは約8割に達し、米国と同様の問題が生じる可能性もあるが、ヤフーによると、公正取引委員会に事前相談して「問題ない」との答えを得たという。
利用者から見て、両社のポータルサイトは今と変わらず、広告の営業活動も完全に別々に行うため、容認したとみられる。両社とも「競合状況には何ら変わりはない」と強調するが、関係者の間には「グーグルは、日本で覇権を握る大きなチャンスを得た」との見方もある。
日本市場では、ヤフーとグーグルの後を、楽天が運営するインフォシークやNECビッグローブなどが追う。国内勢の大半はグーグルか米ヤフーのエンジンを使っており、今後はグーグルに一本化される可能性が高い。
●選択肢狭まる恐れも
グーグルの寡占は、利用者に何をもたらすのだろうか。
検索エンジンに詳しい早稲田大学の山名早人教授は、「各社が競争することで、検索技術の発展もある。検索エンジン開発には膨大なコストがかかり、やむを得ない面もあるのかもしれないが、利用者にとっては、選択肢が狭まることになる」と話す。
ヤフーの検索エンジンがグーグルになるということは、ネットの情報に重要度のランクをつけ、仕分けする「物差し」が、ほぼグーグル一本になるという危うさも抱える。
このため、業界や他社からも懸念の声があがる。「日本で独占に近い状態になれば、競争が阻害される。広告価格の引き上げなどの不利益ももたらす」。ネットコンテンツ提供者などで作る民間団体「ICOMP」(本部・英国)は27日、今回の提携に批判的な声明を公表した。
この団体にはMSが支援している。
ネット調査会社、コムスコア・ジャパンの西谷大蔵社長は、別の面で競争は確保されるとみる。「ネットの競争は、パソコンとウェブばかりでなく、iPad(アイパッド)のような端末やアプリケーションのサービスなど、新しい広がりも出ている。こういった分野での競争に資源が振り向けられていく可能性もある」と話す。
◆キーワード
<インターネット検索> ネット上には、時々刻々、膨大なデータが発信されている。それらを「検索エンジン」と呼ばれる自動プログラムで、ほぼ丸ごと収集、蓄積し、索引をつけて引き出しやすいようにデータベース化したものが、ネット検索のサービスだ。
利用者が、検索語を入力すると、関連情報を順位付けして表示する。ネットの情報への入り口の役割を果たす。
検索結果の表示ページには、企業などの広告も掲載される。この広告は、あらかじめ登録しておいた特定の検索語が入力された場合にのみ、表示されるため、「検索連動型広告」と呼ばれる。これによって、新たなネット広告市場の拡大を主導してきたのがグーグルだ。
そのサービスの中核技術が「ページランク」。外部から張られたリンクを「投票」と見なして、検索結果の順位付けに生かす。世界中に持つ工場のような巨大データセンターが、これを支える。無数の高性能コンピューターを高速ネットで結び、分散処理することで、瞬時の検索結果表示を可能にしている。