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2011年12月21日
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大河原克行のクラウド・エクスプレス

クラウドでストレスなく利用できるネット通販を実現、千趣会(前編)

文・大河原克行

写真:千趣会業務本部情報システム部の高田拓治部長拡大千趣会業務本部情報システム部の高田拓治部長

写真:千趣会本社(大阪市北区)提供写真拡大千趣会本社(大阪市北区)提供写真

 株式会社千趣会(大阪市北区)は、同社が運営するインターネットによる総合オンラインショップ「ベルメゾンネット」にクラウド・コンピューティングを採用。2010年8月からクラウドへの完全移行を図っている。

 これにより、同サイトへのアクセス集中時にも安定したサービスを継続的に提供できる仕組みを構築し、大きな成果をあげている。

 アクセス量が大きく変動するインターネット通販サイトならではの的を射たクラウド・コンピューティングの活用事例だといえる。

 千趣会は、1955年にこけし人形の頒布事業を目的に創業。1976年にはカタログ誌「ベルメゾン」を創刊し、カタログ販売事業を開始した。また、2000年には「ベルメゾンネット」を開設。現在、ベルメゾンネットの会員数は約730万人に達し、同サイトを通じた売り上げが、同社の売上高の約半分を占めるという基幹事業に成長している。

 だが、ここ数年、ベルメゾンネットには、事業拡大に伴い、ひとつの課題が生まれていた。

 それは一時期に集中する大量のアクセスに対して、どう対応していくかという点だった。

 ベルメゾンネットで取り扱っているのは、主に、女性向け衣料とインテリア雑貨。同社が掲げている企業ビジョンが「ウーマンスマイルカンパニー」であることからも、女性を対象とした商品が多いことがわかるだろう。

 同社では、シーズン毎にほぼ年4回、カタログ誌を配布。それと連動する形で、ベルメゾンネットでも取り扱い商品を入れ替える。年間で延べ約20万アイテムを取り扱っており、ピーク時で5〜7万アイテムが販売されていることになる。

 とくに、3〜5月には春夏モノ、9〜11月にかけては秋冬モノがそれぞれ登場するシーズンであり、年間でも販売が集中する時期。ベルメゾンネットへのアクセス数もこの時期に集中することになる。

 さらに、事業部門が積極的な販売促進活動を行えば行うほど、そのタイミングでアクセスが集中するという問題も発生。販促メールや送料無料などのキャンペーン、午前11時から午後1時までのランチタイムセールなどの時間限定による販促セールでは、極度にアクセスが集中することになる。

 もちろん、カタログ誌による販売でも集中する傾向はあったが、カタログ誌が到着する日が、全国という規模でみると少しずつ分散していること、個人ごとにハガキやファクス、電話と使用する手法が分散するため、タイミングがずれることになり、極端な集中はなかった。

 しかし、リアルタイムで購入申し込みが可能なインターネットでは、メールの着信やサイトへの商品掲載に連動して一気にアクセスが集中する。とくに早いもの勝ちのセールや時間・数量限定のキャンペーンならばなおさらだ。繁忙期は閑散期の約3倍のアクセス量があるが、瞬間的には約10倍のアクセス量が想定されるほどの集中ぶりだ。

 クラウドに移行する前は、アクセス集中によるシステムダウンを回避するため、一定量を超えた場合にはアクセス制限をかけ、一時的に混雑画面へ誘導していた。

 「アクセス制限をかけた結果、システムは安定的に稼働するが、一部のお客様には、別の時間帯に再度アクセスをしていただくという手間をかけていた。当社からみれば、販売機会の損失につながっていた場合もあったといえる」(千趣会業務本部情報システム部の高田拓治部長)

●「心配の種」だったアクセス集中時のシステム負荷を解決

 千趣会では、2006年から7年契約で、日本IBMとITシステムに関するアウトソーシング契約を結んでいる。その契約のなかで、2008年頃から、従量制によるサーバー使用の提案を進めてきたが、現実化しなかったという経緯があった。

 システム投資を抑えながら、アクセス集中にも柔軟に対応できる解決策を模索していくなかで、日本IBMからクラウドサービス「IBMマネージド・クラウド・コンピューティング・サービス(IBM MCCS)」の提案を受け、検討を開始した。

 MCCSは、日本IBMのデータセンターから、ネットワーク経由でメモリーやCPUなどのIT資源を従量課金制で利用できるもので、処理する業務量に応じて基本使用量を随時設定。さらに、基本使用量の最大4倍にまで自動的にIT資源を増加することができるというものだ。

 検討を行った結果、MCCSがベルメゾンネットが持つ課題を解決する手段になると判断。2010年6月から、これを活用した仕組みへと移行を開始。2010年8月より、本格的な利用を開始した。

 「従来は、ピーグ時にはつながらないというお叱りの声を随分いただいていたが、クラウド環境へと移行してから、そうした声は皆無に近くなった」という。

 すでに、2010年の秋冬商戦、2011年の春夏商戦、2011年の秋冬商戦という3回のピークを経験したが、システムは問題なく安定的に稼働している。

 「試験運用段階では、当初想定したキャパシティーに対し、1.5倍から2倍程度の増強が必要な箇所が発生するなど、やってみなくてはわからないこともあった。まだ事例が少ない段階であったため、日本IBMと共同でクラウドへの移行を行ったこと、データセンターにも余力があったことから、当初はアクセス集中時に無制限にサーバー資源を活用できるという環境であったことも、基本使用量を設定する際に適正な基準値が確認できることにつながった」とする。

 さらに、「情報システム部門としても、リソース確保に対する不安が一掃されたというメリットは大きい。アクセス数にあわせて増強するといったサーバーへの投資も削減でき、事業部門でも積極的な販売促進策を打てるようになった」という。

 インターネットのアクセス数が大きく変化するインターネット通販の場合、そのリソースの確保は情報シテスム部門にとっては常に頭が痛い問題だった。情報システム部門の最大の心配の種がなくなり、その分をほかの業務に回すことができるというメリットは計り知れない。そして消費者にとっては、いつもつながるというストレスのない環境で利用できることは、また利用してみたいという行動に直結することになるといえよう。(つづく)

   ◇

次回掲載は12月28日の予定です。

プロフィール

大河原克行(おおかわら・かつゆき)

1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上にわたって、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウエブ媒体などで活躍。

インプレスのクラウドWatch「大河原克行のキーマンウォッチ」、日経パソコンPCオンラインの「マイクロソフト・ウォッチング」、ASCII.jpの「大河原克行が斬る日本のIT業界」の連載などを担当。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略」(アスキー新書)など。

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