現在位置:
  1. asahi.com
  2. 地球環境
  3. 世界の動き
  4. 記事

極北の民、激変45年 イヌイット再訪

2008年6月23日1時28分

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

図写真太陽が沈まない5月下旬、夜中にスノーモービルで獲物を探すイヌイットの猟師。犬ぞりは姿を消した=カナダ北部のホールビーチ沖

 あの極北の民は、今――。朝日新聞が1963年にルポしたカナダ北極圏の先住民たちを再訪した。世界で最も過酷な環境の下、独自の文化を紡いできたイヌイットを、近代化だけでなく、地球温暖化の風波が襲っていた。45年前のルポと比べることで、暮らしぶりの変化はくっきりと浮かび上がる。

 北緯68度46分。カナダ北極圏で、一軒の家を訪ねた。

 緑のシャツにジーンズ姿の老人が、42型の薄型テレビをじっと見つめていた。放映されているのは、米国のドラマ。部屋に入った私たちに気づくと、ニヤリと笑った。

 それが45年前、記者たちが1カ月半の間、泊まり込んで世話になったカヤグナ(自称70歳)との「再会」だった。

 彼らは、この半世紀で、もっとも急激に生活様式を変えた民族のひとつだろう。動物を狩って衣食をまかなう狩猟社会から、賃金労働をしてスーパーマーケットで買い物をする貨幣経済へ。だが、それ以上に予想を上回る変化が、待ちかまえていた。

 「出発して2日目の最低気温は零下21度」「二重の毛皮手袋をぬぐと、3分間で手が痛くなり、5分間でがまんができなくなり、10分間もたつと、しびれて無感覚になる」(本「カナダエスキモー」から)

 ホールビーチを訪問したのは、45年前と同じ5月中旬。すでに夜のない季節に入っていたが、太陽が高い時間帯に気温は0度を上回った。気の早い子どもたちは、半袖で外を走り回っている。

 カナダ環境省によると、同地区の63年5月の平均気温は零下11.2度だった。これに対し、今年は零下3.4度。年ごとに変動していることから単純には比較できないが、1カ月以上早く夏が訪れていることになる。

 海氷が張る季節は年々短くなり、波と流氷で海岸線が浸食され始めた。海沿いの家が傾いて崩壊する危険があり、町は移転を計画している。

 「海の氷は薄くなり、軟らかくなった。風の向きも強さも、昔とはまるで違う」。カヤグナは窓の外を見つめ、イヌイット語で語り始めた。「すべてのものは変化する。だが、たった1世代で、何もかも変わってしまうとはな。45年前には想像もつかなかったよ」(敬称略)

(ホールビーチ〈カナダ・ヌナブト準州〉=文・真鍋弘樹、写真・編集委員武田剛)

     ◇

 カナダのイヌイット 朝日新聞の記者とカメラマンだった本多勝一氏と藤木高嶺氏が63年5月中旬から1カ月半、カナダ北極圏で先住民と共に暮らし、狩猟生活をルポした。「カナダ・エスキモー」と題して夕刊1面で51回連載、本にもなり大きな反響を呼んだ。その後、カナダでは「エスキモー」の呼び名が差別的だという認識が広がり、民族の名称に「イヌイット」を使うようになった。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内