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水俣経験、水銀規制で存在感示したい日本 実は輸出国

2011年1月15日15時0分

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写真リサイクル工場に集められた蛍光灯は、水銀を取り除いて破砕。ガラスなどの原料になる=北海道北見市の野村興産イトムカ鉱業所、平井写す

写真蛍光灯などから回収し、精製された水銀。09年末に34.5キロ当たり550ドルだった世界市場での取引価格は、10年末には1850ドルに=北海道北見市の野村興産イトムカ鉱業所、平井写す

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 途上国を中心に汚染の広がりが懸念される水銀。その工業利用や、大気への排出を規制する新条約の交渉委員会が24日から千葉県で始まる。水俣病問題をきっかけに脱水銀が進んだ日本は、条約を「水俣条約」と名付けたいと意気込む。だが、日本は水銀の輸出国。NGOは「輸出された水銀が違法ルートに流れ、汚染につながっている恐れがある」と批判、政府の対応が問われている。

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 束になった蛍光灯を1本ずつ手に取り、従業員が破砕機に入れていく。北海道北見市、標高700メートルの山中にある野村興産イトムカ鉱業所。自治体で分別回収された使用済み蛍光灯や古い乾電池が、全国からここに集められる。

 水銀を取り除いた蛍光灯や乾電池はガラスや鉄に生まれ変わり、除いた年間約15トンの水銀も再利用される。安藤直樹所長は「条約ができれば、水銀をどううまく使い、管理するかが問われる。日本のリサイクル技術は重要性を増す」と胸を張る。

 かつて、ここは東洋一と言われた水銀鉱山だった。高度成長期、水銀は塩化ビニール工業などで大きな需要があった。閉山し、リサイクル工場になったのは、水俣病問題がきっかけだ。

 水銀は有害な物質で、大量に取り込むと中毒性の神経症状などを引き起こす。水俣病の原因は工場の排水中のメチル水銀で、汚染された魚を食べた住民が発症した。

 1968年に水俣病を公害病認定した政府は、73年、企業に水銀利用からの転換を通達。企業は代替技術の開発を進めた。64年に約2500トンあった国内需要は、05年には約10トンに激減。日本は今や世界に類を見ない「脱水銀国」だ。

 水俣病の経験から生まれた技術を世界に発信し、削減に貢献したい――。政府は途上国への技術協力を前面に掲げて交渉をリードし、「水俣条約」を実現したい考えだ。

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 しかし、一方で日本は、数少ない水銀の輸出国だ。

 水銀は多くの鉱石に含まれ、石炭や亜鉛をつくる過程で残りかすとして排出される。国内で毎年、数十トンの余剰水銀が出るため、05年以降、アジアの途上国などに年100トン以上の水銀を輸出してきた。

 国内54、海外60のNGOは09年、日本政府に輸出禁止を求める共同声明を発表。「水俣の悲劇を経験しているにもかかわらず、回収した水銀を世界に再循環させている」と訴える。

 NGOが輸出を批判するのは、途上国に水銀の闇市場があるためだ。

 フィリピンやブラジルなどの金鉱山では、安価で金を抽出するために、むき出しの水銀を手作業で扱う違法行為が広まっており、環境汚染や健康被害が社会問題になっている。フィリピンでは、貧困層の約30万人がこうした危険な方法で生計を立てる。

 日本からの輸出量が多い国・地域には、大きな需要がないはずの香港やシンガポールが含まれる。フィリピンのNGOバン・トクシックスのリチャード・グティエレスさんは「輸出した水銀が転売され、闇に回る可能性がある。供給を止めない限り、問題は解決しない」と指摘する。

 08年には欧州連合が域外への禁輸を、米国が最終的な利用先が特定できない輸出の禁止を打ち出した。日本はまだ、対応を検討中だ。輸出国が日本やキルギスなどに限られてきており、市場での取引価格は10年の1年間で3倍以上にはね上がった。

 違法利用への対処や貿易規制は、新条約でも大きなテーマ。政府関係者は「輸出規制の前に、まず規制で行き場を失う余剰水銀を国内で長期保管する方法や、保管の場所にめどをつける必要がある。議論には時間がかかる」と話している。

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