グローバリズムの危機 フランスの人類学・歴史学者 エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド さん

グローバル化の終焉(しゅうえん)が近づいている。貿易が活発化し、人や資本の自由な移動を通じて各国が収斂(しゅうれん)されていく。そんな米国的な視点が出発点にあった。経済で世界を一つにする、というイデオロギーだ。私は何十年も前から批判してきたが、そんな夢が終わりつつある。グローバル化を発展させてきた米国と英国の危機によって。

英国は、欧州連合(EU)離脱で、移民の流入を制限することにした。国家への回帰だ。

米大統領選に目を向けよう。現在、デタラメな共和党のトランプ氏と、嫌われ者の民主党のクリントン氏が、愚かしいキャンペーンを続けている。トランプ氏は移民制御と自由貿易の拒否を打ち出した。こうした反グローバルな問題設定に支持者が熱狂している。

米国自体が、グローバル化、新自由主義に耐えられなくなっている。昨年、米メディアが報じた人口動態のデータによると、45~54歳の白人の死亡率の上昇が明らかになった。自殺や麻薬、肥満によるものだ。一部の人たちが不安にさいなまれ、生きていくことに耐えられなくなっているのだ。

民主主義の基盤であるはずの教育によって、社会の階層化が進んでいる。高等教育の修了者の死亡率は下がっているのにもかかわらず、中間層の死亡率は停滞している。高等教育を修了し、ハイパー個人主義的な人口の3分の1の人々と、他の人々が分裂していく。

大統領選を報じるメディアを見ると、トランプ氏の支持層は学歴が低く、読み書きもできないとみなされている。だが、それはエリートの見方だ。彼の支持層は中間層なのだ。社会の分断や個人主義に対する反乱が起きている。私はよく「予言者だ」と言われるが、これは予測していなかった。

メディアはトランプ氏を「ウソつきだ」とこきおろす。だが社会学的に見れば、クリントン氏こそウソつきだ。彼女は、候補者指名受諾の際、「世界が米国を必要としている」と演説した。だがそんな現実はない。むしろトランプ氏の「米国は世界に尊敬されていない、米国は苦しんでいる」という言葉の方が真実だ。

断っておくが、私はトランプ支持者ではない。米国に滞在した時には、ラスベガスのトランプホテルにも泊まってみたが、いいとは思わなかった(笑い)。だが、クリントン氏はじんましんが出るほど嫌いだ。帝国主義的で新自由主義的なリーダーだ。

トランプ氏が勝てば、苦しむ中間層の支持によるものだといえる。いずれにせよ、この大統領選でグローバル化の神話は終わり、国家回帰に拍車がかかるだろう。

だがグローバル化の崩壊は悪いことばかりではない。人間について、経済という狭いビジョンだけにとらわれず、より政治的、知的な面に光が当たることにもなる。

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