GLOBE企画「中東はどこに向かうのか――紛争、イスラム、国際秩序」|2018講演記録|朝日地球会議2018|朝日新聞

GLOBE企画
「中東はどこに向かうのか――紛争、イスラム、国際秩序」
パネリスト ジョージ・ワシントン大学教授 ネイサン・J・ブラウン
東京大学先端科学技術研究センター准教授 池内 恵
コーディネーター 朝日新聞GLOBE編集長 国末 憲人

宗派・民族の対立増、秩序見えにくく

会場全景

2010年からの「アラブの春」による民主化が頓挫し、テロや紛争、弾圧が止まらない中東――。米国の影響力が弱まり、サウジアラビアやイランといった地域大国が対立するなど混迷を深めるなか、どこへ向かおうとしているのか。

米ジョージ・ワシントン大のネイサン・J・ブラウン教授は、グローバルなレベルでは20世紀半ば以降、英国、その後に米国と旧ソ連などが覇権を握ってきたが、03年に米国がイラクに侵攻してからは、大国を中心に動いていた体制が崩壊したと説明。「米国が中東で手を広げすぎた。オバマ前政権とトランプ政権はいろいろ違いがあるが、共通しているのは、米国が中東を以前のようにまとめ上げられない事態に対応しなければいけなかったことだ」と分析した。


ネイサン・J・ブラウンさん

ネイサン・J・ブラウンさん

この間、トルコやイラン、サウジなどが積極的な外交攻勢を展開し、対立と協力の合従連衡を繰り広げた。イスラムや国家といったイデオロギーをめぐる論争から、より身近な宗派や民族の違いによる対立が大きくなったという。「地域や国ごとに様々な力が台頭し、流動的な動きが続く。イスラム国(IS)のような集団が今後も散発的に台頭する」との見方を示した。

東京大先端科学技術研究センターの池内恵准教授は、日本と中東の関係の転機として、15年1月に表面化したシリアでの日本人拘束事件を挙げ、「日本ではISが国際問題から国内問題になった」と述べた。「ISの理念はおそらく今も生きている」とする一方、領域支配がほぼ消滅したことで、中東で「ISという共通の何かがなくなることで、秩序が見えにくくなっている」と説明した。


池内 恵さん

池内 恵さん

ブラウンさんが中東と日本の政策の関わりを尋ねると、池内さんは、中東難民が選挙の争点になっている欧州と比べて「まだ遠い世界だ」と指摘。ただ、日本で今後、アジアからのイスラム教徒の移民受け入れが進めば、中東問題で「欧州が何をしたのか、どこが失敗だったのかを、15年後くらいには議論しているのではないか」と語った。

コーディネーターを務めた国末憲人・朝日新聞GLOBE編集長は「米国の動きは中東にかなり左右されているなど、いろんな形でつながっている時代。見えないところをどう結びつけるか、私たちの想像力にかかっている」と強調した。

会場からは、イランへの経済制裁を再開した米国について「イランを追い詰めて何を得ようとしているのか」との質問が出た。ブラウンさんは「米国内はイランを中東地域に組み込むか、隔離するかの議論に終始している」と指摘。隔離政策に動いたトランプ政権に対し、「国連安全保障理事会は懐疑的な一方、イスラエルやサウジは同調しつつある」とも述べた。

また、「失われた世界秩序をどうやったら取り戻すことができるか」という問いもあった。池内さんは「一つの枠組みで世界を見ることが難しくなっていく時代」との認識を示した上で、「あたかも衝突によって世界が終わるというような危機感は考えすぎ、杞憂(きゆう)と思う」と答えた。

<ネイサン・J・ブラウン> 1958年生まれ。立憲主義、法の支配、アラブ世界の民主主義が専門。カーネギー国際平和財団シニア・アソシエートも務める。

<池内恵> 1973年生まれ。専門はイスラム政治思想。著書に「シーア派とスンニ派」「イスラーム国の衝撃」など多数。

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