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2012年8月1日12時22分
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山崎亮 シアワセをデザインする

(9)鹿児島で「百貨店」の再生を

写真:マルヤガーデンズを生んだ玉川恵社長(左から2人目)、ナガオカケンメイ(中央)、山崎亮(右から2人目)ら。拡大マルヤガーデンズを生んだ玉川恵社長(左から2人目)、ナガオカケンメイ(中央)、山崎亮(右から2人目)ら。

写真:ガーデンで開かれたコンサートに、人々は足を止めた。拡大ガーデンで開かれたコンサートに、人々は足を止めた。

写真::マルヤガーデンズ。外観もこれまでの「百貨店」から一変させた拡大マルヤガーデンズ。外観もこれまでの「百貨店」から一変させた

 「鹿児島で再出発する百貨店の立ち上げにかかわりませんか」

 2年前、山崎亮のもとに新たな依頼が舞い込んだ。

 そのデパートは鹿児島市最大の繁華街・天文館にある。明治時代(1892年)に呉服屋として開業、高度経済成長時代へと向かう1961年に「丸屋デパート」となり、83年からは三越に経営権を譲り渡した。21世紀に入り、九州新幹線の終着駅となる鹿児島中央駅の周辺に大型ショッピングセンターやホテルができるなどして客足が遠のき始め、08年に三越の撤退が決まった。

 このままでは、中心街に幽霊ビルが生まれてしまう。そうならないために、どうするか。社長に就任してまもない玉川恵は決断を迫られた。

 鹿児島のオアシスとしてよみがえらせるか、それとも売却してしまうか。そもそも、この場所ではデパートという業態は成り立たないのではないか。だとすれば、どんな道があるのか――。

「天文館という鹿児島の一等地で長年、商売させてもらってきただけに、この地域の価値を高めることが第一だと考えていました。なんとか商売の灯をともし続けたい。そうすることが社会への責任を果たすことになる、と考えたのです」

 玉川はテナント探しに奔走する。半年ほどして、有名なセレクトショップ「D&DEPARTMENT」に打診したものの、代表のナガオカケンメイから断られてしまう。ならば、どういう店だったら入りたいと考えるのか。玉川が逆に問いかけると、ナガオカはこう答えたという。

「いままでと同じような百貨店をやるとしたら、きっと失敗する。地方の商業施設として生き残るには、百貨店の中に文化を発信する場が必要じゃないでしょうか」

 ユニクロをはじめとする低価格高品質商品の台頭、趣向の個別化、ネット・ショッピングの広まりなどから、これまでと同じような百貨店では集客は望めない。そのかわり、地域で活動するNPOが自由に活動できる「ガーデン(空間)」を、地上9階から地下1階までの各階、計10カ所に設けることで、これまで足を運ぶことのなかった新しい客層を引き込もう、というのだ。

 たとえば、地下で開かれている料理教室に来た人が、帰り際にセレクトショップの横を通って「あ、こんなにかわいい洋服を売ってるんだ」と気づくかもしれない。買い物をするつもりはなくても、行ってみようかと思う。ガーデンでのプログラムに惹かれれば、興味のないフロアに足を踏み入れるかもしれない。そうやって、にぎわいが生まれればいい。

 玉川はその提案を受け入れ、ナガオカもテナントに加わることになった。

「すべてのガーデンから収益が期待できるわけではないけれど、ガーデンでの活動に参加するために、これまでの客層とは違う人たちが来てくれればいい。とにかく、やってみようと思ったんです」

 1階入口正面の一等地に陣取ったり、テナントが埋まりそうもない「うなぎの寝床」のような空きスペースを使ってたり。このとき、ガーデンを活用するコミュニティづくりの専門家として紹介されたのが山崎だった。このときはまだ、コミュニティデザイナーという肩書もない。開店4カ月前のことだった。

 デパートの再生、そのためのコミュニティづくり。そう聞いて、山崎はまっさきにパークマネジメントの手法を使ってみようと考えた。かつて、有馬富士公園(兵庫県)で、「キャスト」役の地元NPOがさまざまなプログラムを展開することでにぎわいをもたらした実績があった。

 こうして2010年春、「ガーデン」を備えた、前例のない商業施設「マルヤガーデンズ」がオープンする。約30年ぶりに、鹿児島のど真ん中に「マルヤ」が復活したのだ。開店直後、なだれ込むように客足が戻ってきた。しかし、長くは続かない。新鮮味が薄れてくれると、危機はまもなく訪れた。=敬称略 (諸永裕司)

プロフィール

山崎 亮(やまざき りょう)

 1973年生まれ。studio−L代表、京都造形芸術大学教授。地域が抱える課題を、地域に住む人々が解決するコミュニティデザインの第一人者。「海士町総合振興計画」「マルヤガーデンズ」でグッドデザイン賞を受賞。

 著書に『コミュニティデザイン――人がつながるしくみをつくる』『つくること、つくらないこと』(以上、学芸出版社)、『コミュニティデザインの仕事』(BIOCITY50号記念増刊号)、『幸せに向かうデザイン』(日経BP社)、『まちの幸福論』(NHK出版)、『地域を変えるデザイン』『海士人』(英治出版)など。

ホームページ 「studio−L」

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