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2012年12月19日10時8分
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山崎亮 シアワセをデザインする

(28)だれからも雇われない

写真:昨年5月には、山崎亮(奥)以下、スタッフ全員による合宿を開いた。拡大昨年5月には、山崎亮(奥)以下、スタッフ全員による合宿を開いた。

写真:大阪にある事務所では、スタッフと食卓を囲むことが多い。拡大大阪にある事務所では、スタッフと食卓を囲むことが多い。

 山崎亮が主宰する「studio−L」では、給与は出来高制だ。事務所を立ち上げた6年前から変わらない。結果をだせば上がり、だせなければ下がる。きわめてシンプルなのには理由がある。

 かつて建築設計事務所で働いていたとき、山崎はプロジェクトを六つ取ってきても、十以上かかえこんでも、給料にそう大きな違いはなかった。よく働いたとしても、昇給は年に1万円ぐらい。仕事を取ってきてもこなくても評価がほぼ変わらないと、モチベーションを高く保ち続けるのは簡単ではない。

 そうなると、「俺は趣味に生きる」などという社員がでてきたり、仕事をサボる社員が増えてきたりしても不思議ではない。独立してまもない小さな事務所でそんなスタッフが1人でもいたら、たちまち経営が立ちゆかなくなってしまう。限られた人数で最大のパフォーマンスをださなければならない。そのためにも、仕事を取ってきただけカネが入るような仕組みを選んだのだった。

 「studio−L」では、プロジェクトが決まると、自治体などから支払われる事業収入は、事務所運営のための必要経費を除いた全額がプロジェクト・リーダーに任される。リーダーは事務所スタッフのだれにどんな仕事を「発注」するかを考える。

 コミュニティデザインの手法をとるとワークショップを重ねていくことが多い。その進行役となるファシリテーターにだれを起用し、どう進めていくか。1回目のワークショップは重要だから山崎に頼むとすると当然、単価はあがる。その分、2回目以降は別のスタッフに頼んでまかなう。あるいは、グラフィックデザインを重視すれば、デザイナーでもあるスタッフを巻き込むことになる。

 逆に言えば、「studio−L」のスタッフは、同僚たちから仕事をまかせられないと稼ぎがあがらない。そのため自然と知識を蓄え、スキルを身につけなければ、まともな給料はもらえない。ひとつのプロジェクトで、机の上に数十センチも積み上がった本を読みこなすのは当然という。

「あれさー、あったよね」

「そうだね。あれを真似したら、うまくいくかもしれないね」

 指示代名詞が飛びかうディスカッションについていくにも、勉強が不可欠なのだ。そのうえ、まちの課題を解決に導くアイディアを出せないようなら、担当をはずされてしまう。そのため、自分のできることを増やして、仕事を頼まれる存在になろうというインセンティブが自然とわいてくる。

「やらされるのではなく、自分から動かなければならない状況があれば、ダラダラした組織にはならないだろう、と考えました」

 そう、山崎は語る。

 一般企業のように月給で社員をしばったほうが会社にカネは残るだろう。ただ、会社を大事にするより、プロジェクトを大事にしたいという思いのほうが山崎には強い。自社ビルを建てる必要はないし、巨大な組織をつくるつもりもない。会社として必要な経費を除けば、入ってきたカネはプロジェクトに貢献したスタッフがとればいい。

「どうせ法人税をたくさん払わなければならないことを考えれば、こっちのほうが、働きがいがあるのではないか、と」

 それはコミュニティデザインという仕事の本質と関係するところもある。現場となる地域では、会社員や行政マン、漁師や農家、商店主をはじめ、さまざまな職業の人たちと出会う。個人事業主が少なくない。そんなときに、

「あんたらは、給料もらってんのやろ」

 と言われてしまうと、対等な立場に立ちにくくなるという事情もある。

 同じ個人事業主として、このプロジェクトを成功させる気概と責任を負っているということを示すことができれば、語る言葉に説得力が増す。引け目を感じたりすることもなくなるだろう。

 こうして独り立ちしたら、裁量を与える。「人を育てずにまかせるのはよくない。人を育ててまかせないのもよくない」。それが、山崎の考えだ。

 そのため、studio−Lのスタッフはだれもが個人事業主だという。(敬称略)=諸永裕司

プロフィール

山崎 亮(やまざき りょう)

 1973年生まれ。studio−L代表、京都造形芸術大学教授。地域が抱える課題を、地域に住む人々が解決するコミュニティデザインの第一人者。「海士町総合振興計画」「マルヤガーデンズ」でグッドデザイン賞を受賞。

 著書に『コミュニティデザインの時代』(中央公論新社)、『ソーシャルデザイン・アトラス 社会が輝くプロジェクトとヒント』(鹿島出版会)、『コミュニティデザイン――人がつながるしくみをつくる』『つくること、つくらないこと』(以上、学芸出版社)、『コミュニティデザインの仕事』(BIOCITY50号記念増刊号)、『まちの幸福論』(NHK出版)、『地域を変えるデザイン』『海士人』(英治出版)など。

ホームページ 「studio−L」

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