[評者]中嶋真美・玉川大学准教授
2009年12月25日
今日も家の前の道路にはひっきりなしに車が通っている。生まれてこのかた、車を目にしない日はなかったのではと思うほど、車は私たちの暮らしに不可欠なツールとして組み込まれている。最近は、トヨタのプリウスだけではなく、ホンダのインサイトもよく見かけるようになった。エコカー減税の効果だろうか。そんな時、ふと「エコカーって何?」という疑問がわいた。
そんな疑問を解決してくれるのが、この一冊。そもそも電気自動車(Electric Vehicle:EV)ってどういうもの? 電動自動車とは違うの? 燃料電池車(Fuel Cell Vehicle:FCV)って何を指すの? 燃料電池の仕組みって? どうして環境に優しいって言えるの?――電気自動車や次世代車の先端技術にまつわる疑問を、生活者の視点から分かりやすく解説している。車や機械に明るくなくても、工学的知識がまったくなくても、理解できるように身近な例をひいて平易な言葉で説明されている。
電気自動車については、「子どもの頃、電池で動く模型のラジコンカーで遊んだ経験があるのではないだろうか。電気自動車(EV)は、その電動ラジコンカーが大きくなったものと言ってもいい」と説明する。燃料電池の仕組みでは、「燃料電池とは、発電装置である。中学の理科の授業で、水の電気分解の実験をやったはずだ。水に2本の電極を入れて電気を流すと、それぞれの電極から水素と酸素がぶくぶくと泡立ちながら発生する。その逆反応を利用し、水素と酸素が反応するとき、工夫して電子だけ別の道に通してやれば電気を取り出せる。これが燃料電池の原理だ。発電のあとにできるのは水だけである」という。
EVの利点や弱点、バッテリー開発の現状、走行距離や性能、燃費やコスト、充電スタンドの設置など、市販に向けた様々な課題も詳細に解説している。燃料電池のコストダウンには、白金などのレアメタル(希少金属)が少なからず使われており、FCVの量産とともに使用量も増え、白金価格が高騰する恐れがある。白金の供給量は金の22分の1。EVとFCVの普及に不可欠な素材だけに、いかに使用量を減らすかが鍵を握る。現在は白金の使用量を減らす工夫が進み、白金を使わない燃料電池の開発などに積極的に取り組んでいるメーカーもあるという。
とはいえ、様々な問題を考えるとEVやFCVの実用化には、しばらく時間がかかりそうである。せっかく良いものがあると知っても、手に入れられないとはもどかしい限りである。私たち消費者は今、何をすればいいのか。
その一つとして情報発信を挙げる。「現実問題として、EVやFCVの開発をしている人たちは、まだ社内で孤軍奮闘といった立場であることが多い」「なにしろ、先行投資ばかりかかって、売り上げにつながるクルマに、EVやFCVはまだなっていない。しかも、『本当に売れるのか?』という疑問を、メーカーはぬぐい切れないでいる」と指摘。「EVやFCVの発売への期待や購入の希望が、消費者の間に高まっている事実を、自動車メーカーや行政、政治家などに伝えることが大切だ」と強調する。「早くEVやFCVをという消費者の声が、何よりも時代を動かすのである」という。
先日、ある講演会で電気自動車に関する話を聴いた。充電式電池を7000個直結してカートリッジ化し、車載バッテリーにすれば技術的には約200キロ走るという。輸送は現代社会を支える血液のようなものであり、途切れさせることはできない。しかし、環境に関する点では負荷が大きい。CO2排出量は輸送部門全体の中の74%を占める。そう考えると、本書で紹介される様々な技術は、車の利用の仕方を通じて現実の世界を変えていく有効な手段となりそうだ。ついつい悪者にされがちな自動車に対する見方を少し変えてくれる一冊である。
■その他の推薦図書(2冊)
「モノの越境と地球環境問題―グローバル化時代の“知産知消”(地球研叢書)」窪田順平(昭和堂)
「キリマンジャロの雪が消えていく―アフリカ環境報告(岩波新書)」石弘之(岩波書店)
COP15も閉幕し、今年も本当に残りわずか。米大統領選からオバマ大統領就任まで、様々な場面で「Change!」「Yes, we can!」との言葉を耳にした。そして今年の世相を表す漢字は「新」の一文字。果たして環境面では、そうしたセリフや漢字の通りになったと胸を張って言えるだろうか。
1992年にリオデジャネイロで開かれた地球サミットでは、「持続可能な発展」をテーマに様々な議題が話し合われた。当時12歳のセヴァン・カリス・スズキさんの「どうやって直せばいいのかわからないものを、壊し続けるのはもうやめて下さい」という、いまや伝説となったスピーチ。あれから17年。人類は、電気自動車の開発のように、着実に進歩を遂げているのだろうか。
エコカーの購入も、エコ家電への買い替えも、環境のために私たちができる一つの意思表示であり、具体的なアクションだ。「日常生活にエコ要素を組み込む」という姿勢は決して無駄にはならない。もちろん「買い替えるエコ」などという言葉に乗せられて、無駄に新しいものに飛びつく必要はない。しかし、一人ひとりの意識変革と新しいライフスタイルの選択という行動こそが、世界の環境問題という山を動かすのである。国家レベルの話は各分野の専門家の方々に「信頼」して任せるとして、私たちは手の届くところから「Change!」せねばならないのだろう。
我が身を振り返り、いま一度、自分の暮らしぶりから考えてみたい。私たちに今できること、私たちの暮らしの「進化形」のあるべき姿を――。それこそ、この惑星で暮らす「地球市民」としての責任の果たし方だと言えるのではないだろうか。

玉川大学文学部比較文化学科准教授。東京大学大学院農学生命科学研究科修了。農学博士。専門は、開発社会学、観光学。
著書(共著)に「躍動するフィールドワーク」(世界思想社)、「アジア環境白書」(東洋経済新報社)、「環境本100冊」(平凡社)などがある。