2009年10月9日
地球温暖化対策では、どこか、排出量削減に議論が集中しがち。だが実は、二酸化炭素の吸収源(カーボン・シンク)である森林を増やすこと、あるいは減らさないことも大事なポイントだ。その有望な方法のひとつが、REDD(森林の減少・劣化による温室効果ガス排出の抑制:Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation)である。
途上国では、現金収入に困った人々や企業が、熱帯雨林などを伐採して木材を売り出したり、大規模な牧畜、農業をしたりするケースが少なくない。その結果、地球のカーボン・シンクが大幅に減り、それが温暖化を加速しかねない。せっかく省エネなどで排出量を減らしても、その裏でどんどんカーボン・シンクを失っていくようでは、元も子もない。
そこで、REDDが注目されるようになった。2007年12月にインドネシアのバリで開催された気候変動枠組み条約の第13回締約国会議(COP13)で採択された決議に、途上国での気候変動緩和策のひとつに位置づけられた。
2012年で期限が切れる京都議定書の後継議定書を詰めるために、今年12月にコペンハーゲンで開催されるCOP15では、重要な検討課題にひとつになるだろう。COP15に向けてバンコクで開かれた特別作業部会でも、米国などがREDDの導入を促がした。
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想定されるREDDの基本的な仕組みは、次のようなものだ。
途上国が森林伐採を減らすことによって、大気中の二酸化炭素量を抑えたとする。森林伐採をした場合に増えるとされる二酸化炭素に相当する量の排出権が途上国の当事者に与えられ、それを炭素市場で売買できるようにする。途上国は森林を守りながら資金を獲得できるし、排出量抑制義務のある先進諸国はREDDで生まれる排出権を購入することで、帳尻合わせに役立てることができる。うまく設計・運用できれば、先進国、途上国の双方に利益がある「プラスサムゲーム」が成り立つという期待がある。ブラジルやインドネシア、パプアニューギニアなどの森林大国が、REDDを強く推している。
森林と言っても多種多様。どのような森林をどれくらいの規模で保護すれば、どれだけの排出権と認定されるのか。森林由来の排出権をどのような国際市場で取引するのか。仮にCOP15で、次期議定書に盛り込むことが決まったとしても、細部の交渉は続くだろう。それでも、市場メカニズムを活用してカーボン・シンクを守れるのではとの期待は強く、世界銀行は、そうした市場メカニズムを下支えするための基金「森林炭素パートナーシップファシリティー(FCPF)」を提唱している。
アヒム・シュタイナー国連環境計画(UNEP)事務局長も「温室効果ガスの排出量の約20%は、森林が姿を消し、あるいは焼き払われることによって生じたもの」「熱帯雨林を持つ国々が、森林を伐採するよりも維持管理で資金が得られるようにすれば、この流れは逆転できるのではないか」と指摘している。
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2010年には、生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開催される。生物多様性を守る上でも、森林、とくに熱帯雨林の保護は喫緊の課題だ。コペンハーゲンのCOP15でREDDの導入が決まれば、名古屋でのCOP10にも朗報となるだろう。
米国議会下院を通過したワックスマン・マーキー法案(2009年米クリーンエネルギー・安全保障法案)は、米国全体の目標として温室効果ガス排出量を2020年までに2005年比で20%、2050年に同83%削減をめざすと明記している。排出権取引制度の導入に加えて、REDDの活用も盛り込まれている。上院での審議は難航しているが、REDDが市民権を拡大しつつあるのは間違いないだろう。
排出量抑制から生まれる排出権については、中国やインドが大きな供給国になるかも知れない。だが、カーボン・シンク保全が生み出す排出権については、ブラジルやインドネシア、パプアニューギニアなどの森林大国が重要な供給国となるだろう。日本も、「ポスト京都」時代を見据えて、こうした森林大国との結びつきを強めておくのが得策だろう。
コペンハーゲンのCOP15だけでなく、名古屋でのCOP10に向けてこれらの諸国と連携していくことが、鳩山政権が目指す「25%削減」にとっても、重要な鍵となるかも知れない。

朝日新聞論説委員。外報部・科学部・経済部記者、ワシントン特派員、ブリュッセル支局長などをへて、2000年より現職。
1980年に東京大学文学部英米文学科卒。1984−85年に米ジョージタウン大学MSFSフェロー。2007年に大阪大学より博士号(国際公共政策)取得。
主な著書は、『核解体』(岩波新書、1995年)、『証言 核抑止の世紀』(朝日選書、2000年)、『「人間の安全保障」戦略』(岩波書店、2004年)、『核のアメリカ―トルーマンからオバマまで』(岩波書店、2009年)。編書は、『核を追う』(朝日新聞社、2005年)。