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朝日地球環境フォーラム2009

「農学が生態系守る先頭に」伊藤論説委員 あすの農学を考える座談会

2009年10月16日

写真親鳥に見守られてすくすく育っているコウノトリのヒナ(左)=兵庫県豊岡市

 今年は日本でも生物多様性の危機が一般に知られた画期的な年として記憶されるかもしれない。授粉用のミツバチ不足でナスやイチゴ、スイカといった農作物の生産に影響が出ていることが、各紙で大きく報道された。

 いくら文明がすすんでも我々の暮らしは自然の恵みに頼っていること、しかもそれがかなり危うい状況であることが、この一件でも広く知られただろう。農業や農学への関心が高まるゆえんだ。

 生物多様性とは、地球の多種多様な生き物のつながりのことだ。農作物を育てる健全な土壌にはミミズや微生物が不可欠であり、授粉を助けるミツバチ、さらには害虫もおり、それを捕食する鳥や虫もいる。そのバランスのうえで農業生産が行われる。

 ところが、いまでは特定のミツバチの種を大量に増やし、ときには薬で病害虫から守り、授粉に酷使する。

 牛海綿状脳症(BSE)も肉骨粉を食べさせた牛から広がったとされる。

 人間の知恵で生き物をうまく活用しているつもりが、ときに逆に働き、戸惑っている。それが今日の我々だ。

 生態系の危機をめぐり、来年10月には国連の生物多様性条約締約国会議(COP10)が名古屋市で開かれる。

 生物多様性という言葉は80年代、欧米で使われ出した造語である。パンダや熱帯雨林といった個別の種や地域の保護運動から、包括的に生態系を守る対策へと広がった。

 気候変動枠組み条約と同じ92年、ブラジル・リオデジャネイロの国連地球サミットで条約が結ばれた。「地球を守る双子の条約」といわれ、保護とともに、持続可能な利用をめざす、とうたう。

 この点で注目されるのが東アジアの水田だ。食糧生産の場であり、同時にカエルやサギ、ドジョウといった生き物が生息する場でもある。洪水を防ぎ、地下水を涵養(かんよう)する機能もある。湿地保護のラムサール条約締約国会議も昨年、水田保全を決議した。

 日本は現在、「里山イニシアチブ」を唱えている。薪やキノコ採り、植林など人がかかわることで里山の生態系が維持されてきた、とする。

 世界では、むしろ農業による生態系破壊が憂慮されている。バイオ燃料などの生産のため、熱帯雨林を伐採してサトウキビ畑にしている南米、小麦生産のため過剰に地下水をくみ上げ、枯渇が問題になっている米国中西部、綿花栽培のため水を使いすぎ、面積が大幅に縮小したアラル海といった具合だ。

 日本もかつては「緑の革命」ばりに、農薬を大量投入して増産をはかった。田んぼの水路のコンクリート化を進め、メダカが姿を消した。

 ではどうするか。生態系への配慮が売り物になるような農業生産が可能かどうか。地域で生産されたモノを地域で消費する地産地消、あるいはコウノトリの舞う自然を残した地域で育てた米なら少し高くても買う、という試みが始まっている。

 市場の圧力で国内の米の4割がコシヒカリに占められているが、その市場を通じ別の価値も評価されるようにしたいものだ。

 昨年、来日したジョグラフ・生物多様性条約事務局長は、トヨタの環境車を例に、「あすの市場はグリーンな市場です。利潤追求と環境を両立させた日本の経験を世界に紹介してほしい」と話した。

 生態系の危機に関心が集まっているときだからこそ、農業とそれを支える農学には新たな取り組みへの大きな期待がかけられている。(論説委員・伊藤智章)

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