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8歳の「気候ヒーロー」

2009年5月28日

 チャールズ・スコットと八歳の息子ショーは、日本列島を北から南まで走る4700キロの親子自転車旅行を計画している。その彼らと、アフガンの首都カブールに住む1500家庭が共有するものがある。

 それは、アフリカ系米国人として最初の女性宇宙飛行士になったモエ・ジェミソンにも共通する。あるいはケニアのラムで、砂浜の清掃やマングローブ再生活動に参加している多くの人々や、メキシコの自然シンフォ二―・コンサートにも共通する。

 彼らはみな、「地球はあなた方が団結し、気候変動と戦うことを求めている」とのスローガンのもと、今年6月5日ごろに開催される世界環境デーに貢献しようと誓った人々と地域なのだ。五大大陸に住む実に数百万もの人々が個人的にも地域的にも、ベターでもっと持続可能な地球を求めて声を上げるだろう。

 潘基文・国連事務総長は、2009年を「気候変動年」と呼んでいる。

 今年12月にデンマークのコペンハーゲンで開かれる国連気候変動枠組み条約・締約国会議は極めて重要だ。もしも参加国が合意に失敗すれば、経済や暮らしに対する脅威がますます増大するだろうからだ。

 もしも、断固とした、科学的に立証でき、公正な合意がなされるなら、低炭素社会や資源効率の高い社会の実現に向かって、巨大な潜在的変革が起きることだろう。

 我々のような組織のメンバーについてもいえることだが、政治家は、往々にして国際交渉の細部に迷い込んでしまう。

 山のような文書に囲まれ、コンマや終止符はここにすべきか否かをワイワイ議論しながら深夜まで作業をしていると、なぜこの行動が必要なのかということをいともたやすく忘れがちになる。

 もちろん、もし複雑な文書から目を上げて、我々を分裂させる瑣末な問題を脇に置き、さらに我々全てを結束させるもっと広い関心事に集中するなら、真の前進が可能だろう。

 世界環境デーは、世界の人々の声に耳を傾ける日だ。それは、言葉によると同時に、多くは行動により、60億の人々の健康や繁栄、未来にとって環境の持続可能性がいかに重要であるか、ということを政治家たちに気づかせるためのものだ。

 世界環境デーは、国連環境計画が生まれた1972年、国連総会決議により設けられ、今年は百カ国以上の参加が見込まれている。国連環境計画は、2009年にメキシコに焦点を合わせた祝典の先頭に立つ栄誉が与えられており、これからの数週間、数か月がどれほど重大なのかを示す「気候ヒーロー」キャンペーンを設けた。

 ニューヨーク市にあるインテルキャピタルのディレクター、チャールズ・スコット氏と息子で日系米国人のショー君は、最初に選ばれたヒーローだ。

 二人は自転車で、北海道の北端、宗谷岬から九州の最南端、佐多岬まで旅をし、途中佐渡島、日光山、京都、広島に立ち寄る。計画では11か所の世界遺産を訪ねる予定だ。その中の知床半島は、海に氷が張り、アカキツネ、ヒグマ、ウミワシが生息する場所としては北半球の最南端に位置している。

 スコット氏は、この旅の狙いは「状況を揺り動かし、発想を変えてみる。どんな日常であれ、そこから抜け出してみる」ことにあるという。12月までに先進経済地域と発展途上経済地域をまとめるために苦労している気候変動問題の交渉者に対する素敵なメッセージではないか。

 スコット親子は同時に、国連環境計画の「10億本植樹キャンペーン」の資金集めにも協力している。2006年以来、運動を通じて20億本以上の植樹が行われ、「更に30億本を」と意気込んでいる。

 ギリシャ神話の怪物ゴルゴンのような気候変動に対峙し、世界が非常に困難な仕事に直面している状況で、いったいどうやったら影響力を及ぼせるのかと、多くの人がいぶかるのは無理もない。しかし、この3年間、アフリカの学校や欧州の幼稚園、そして日本の芸者さんたちも、企業や都市と一緒に、その道筋をしめしてきた。メキシコのフェリペ・カルデロン大統領は、「10億本植樹キャンペーン」を支援して、軍隊を動員して数百万本を植樹した。

 12月までに70億本の植樹を計画している。(地球に住む)1人に1本、そして若干のプラスアルファという訳だ。また、6月5日まで毎日、国連環境計画は、サイトに「何かしようヒント」を連日掲載し、ソーシャル・ネットワークのコミュニケーション・サービス「Twitter」ともリンクしている。

 国連の「炭素排出の悪習を止めよう」ガイドによると、小さくても「後悔しない」選択がたくさんある。それらの実践で、先進国の1人1日当たり二酸化炭素排出量を38キロから14キロに減らせるという。

 例えばの話、

(1)目覚ましを電子式から伝統的なゼンマイ式に変えると、1日当たりの二酸化炭素排出を48グラム減らせる。

(2)回転式乾燥機を止めて、物干しロープで着物を乾かす方を選ぶと、1日当たり2.3キロの二酸化炭素削減になる。

(3)ランニングマシーンを使って45分運動する代わりに、近くの公園でジョギングすると、同様に約1キロ削減になる。

(4)ロールパンを15分間オーブンで焼かず、トースターで焼くと、170グラムの削減効果がある。

(5)8キロ以内の通勤距離の場合、自動車でなく電車に乗れば、7キロ削減の可能性がある。

(6)昼食時や勤務終了後、コンピューターと画面の電源を切れば、二酸化炭素排出量の三分の一が削減できる。

(7)節水タイプのシャワーヘッドにお金を使うと、一分当たり10リットル節水できるばかりではなく、三分間熱いシャワーを使うと、同様に半減できる。

 さて、皆さんは、世界環境デーに何をしますか?

 パリだったら、エッフェル塔の周りで上映される映画「Home」の集会に参加しよう。映画は著名なフランス生まれの空中写真家、ヤン・アルチュス=ベトラン氏による新しい感動的な環境映画だ。

 ネブラスカのオマハにいるのなら、宇宙飛行士で環境保護派のジェミソン女史や生徒と一緒に、「Earth We Share」(共に地球と)のワークショップに参加しよう。

 ケニアのラム島にいるのなら、地元の役人や若者と、マングローブ植樹競争や、浜辺清掃活動、ゼロ廃棄物のサッカー試合に参加しよう。

 メキシコだったら、共和国大統領やカンクンの南、シカレの人々と一緒に、交響楽コンサートに行き、自然界を祝福しよう。

 世界環境デーからコペンハーゲン会議まで残された期間は約6か月。人類の運命の日まで200日を切る。市民は、世界の指導者たちに明確なメッセージを送る必要がある。つまるところ、政治家に舵取りの免許を与えるのは市民なのだから。

 気候変動と戦わなければならない理由は色々あるが、世界環境デーは、戦いは楽しみでもあることに気づかせてくれる。

 「気候ヒーロー」のチャールズとショーは6月5日にニューヨークで、2か月の自転車旅行計画を発表すると間もなく日本に到着する。「私の世代が起こした気候変動が、一層破壊的な形でショーの世代や、あるいは彼の子供に、引き継がれないようにするために、何か役に立ちたい。それから、日本にあるたくさんの世界遺産をできる限り見たい」とチャールズはいう。

 ショーも気候変動問題に取り組みたいのだが、旅の副次的恩恵ともいえる特別なたのしみがある。

 「父さんの世界遺産にも付き合う。たぶん、奇妙なやつを見にね。だけど、僕は日本で一番大きなポケモンの店を見つけたいな」

 気候変動との戦いには色々な恩恵がある。ピカチュー、カワリダネ、ミューをもっと手にいれる。今までは、それほど重要とは思っていなかったけれど、でも、それでよいのではないか。

プロフィール

アヒム・シュタイナー

 61年、ブラジル南部の町カラジーニョ出身、国籍はドイツ。ロンドン大学で開発経済学の修士号を取った後、複数の環境保護団体で活動。01年から06年まで絶滅の恐れがある野生生物の一覧表(レッドリスト)をつくっている国際自然保護連合(IUCN、本部・スイス)の事務局長を務め、06年6月から現職。趣味は映画鑑賞やノミの市での買い物。2児の父。

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