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外来タニシ、火星人の襲来か

2009年7月9日

 体長10センチほど、茶色や緑色のカタツムリに似た巻貝は、アジアの米作農民にとって、火星人の襲来みたいなものだ。その生き物、ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)は、猛烈な食欲でイネを食い荒らし、水田に大きな損害を与えている。化学薬品を使って繁殖を抑えるにも、結構お金がかかり、環境上にも問題がある。

 この軟体生物は、数万を数える外来侵入種の一つだ。こうした外来生物が、世界経済に与えている損害は毎年1.4兆ドルをくだらないと推定されている。天敵がおらず、抑制と均衡のメカニズムが働かないジャンボタニシのような外来侵入生物は、新天地で爆発的に繁殖する。

 そのために、在来種が駆逐され、下水道や発電所の取水口が塞がれる。また、ウィルスやバクテリアなどによる新型の伝染病がもたらされ、さらには土壌が汚染され、農地に被害を与えることがある。

 ニュージーランド政府などは、外来の動植物への検疫を厳しくすることで、難問に立ち向かっている。

 また、南アフリカでは、世界遺産「ケープ花の王国」や観光資源として経済的に重要な自然を保護するため、資金を十分に投じた外来種駆除プログラムがある。

 しかし、多くの国は、危機の深刻さに気づかないでいるか、あるいは無関心だ。

 日本政府は来年、国連環境計画が関与する生物多様性条約締約国会議を主催する。2010年は、国際社会が生物の多様性を失っていくスピードを抑える上で成果をあげていなければならない年になる。動植物の生息環境保護、生態系保護の経済的奨励策、遺伝子資源の公平な利用と共有に関する措置、気候変動に対する適応などが会議の中心議題だ。

 しかし、経済や暮らし、世界の自然に与える影響が拡大していることを考えれば、外来侵入種の難問に、きちんと関心をはらうべき時期にきている。

 英国の作家、HGウェルズの有名な科学小説「宇宙戦争」では、エイリアンが宇宙船に乗って侵略し、大惨事と荒廃をもたらす。現実の世界で、外来侵入種は、農業から園芸、水族館、ペットにわたる世界的な貿易など通じて、或いは、バラスト・タンクの水や船体にくっついてきたりして、大陸から大陸へと広がっている。

 米を食害するジャンボタニシは、1980年代に南米からアジアに、鑑賞用のペットやグルメの食材として持ち込まれた。

 アジア地域では余り人気がでない食材と分かって、輸入業者はジャンボタニシやその卵をアジアの河や湖に捨てたため、そこから日本など十数カ国に広がった。

 欧州の北海で見られる赤潮。それは、魚の大量死に関係していると思われているが、船のバラスト・タンク水で偶然中国沿岸の海から運ばれてきた藻の異常発生なのだ。

 外来侵入種はまた、国連の貧困削減ミレ二ウム開発目標に難題を突きつけている。

 ホテイアオイを例に取ろう。もともとアマゾン流域原産で、アフリカのような大陸に運ばれ、魅惑的な紫の花を咲かせて観賞用の池を飾る植物だった。しかし、ブルンジやルワンダから流れるキゲラ川を流れて、1990年前後にビクトリア湖に運ばれてきたホテイアオイの、湖に対する影響は、とても魅惑的な話とは言いがたい。

 ホテイアオイは、水に浮かぶ毛布のように爆発的に繁殖し、船の航行を妨げ、漁獲量を減らし、電力発電や人間の健康に害を及ぼすこともある。ウガンダ経済だけでも年間1億1200万ドルの損失に上りかねない。ホテイアオイは今や50カ国以上に侵入している。

 サブサハラ・アフリカでは、侵入種の有害植物が原因で、毎年、トウモロコシの損害が70億ドルに上る。外来種による損害を合計すると、アフリカで栽培される8種類の主要作物で120億ドルに達する可能性がある。

 国際侵入種プログラム(GISP)のデータによると、繁殖させて毛皮を採るために南米から持ち込まれたビーバーに似た小動物、ヌートリアがイタリアの川岸に与える損害は、年間280万ドルと推定されている。

 外来種のクシクラゲ(ツノクラゲの一種)は、黒海のアンチョビ(カタクチイワシ)漁獲量を減らし、黒海経済圏に毎年2000万ドルの損害を与えている。

 外から持ち込まれた疾病による農業や人間の被害が米国では毎年、400億ドルを超えると推定されている。

 オーストラリアでは、6種類の外来種の雑草が、農家に毎年1億ドルを超える被害を与えている。

 フィリピンだけでも、ジャンボタニシの米作に与える被害は4500万ドルに達している。

 先進経済、発展経済、双方にとって直面する難問だ。科学者達はこの問題に取り組めば取り組むほど、ますます懸念を募らせるのだ。

 なぜ、欧州から来た雑草アリアリア(ガーリック・マスタード)が在来の広葉樹に被害をもたらしているのか、米国の研究者は今や分かっていると思っている。この外来雑草は毒素を出し、樹木の生長に必要な在来の菌類を殺してしまうのだ。

 危機の規模が、いまやっと明らかになりつつある。ヨーロッパ外来種情報提供プログラムに関わる科学者達は、欧州には1万1000種類の外来種が侵入しており、そのうち15%が経済的損害を与え、在来の動植物の生存を脅かしているという。

 地域の気温により抑制されている外来侵入種の中には、気候変動による気温の上昇のおかげで繁殖が促進されると考えられるものもある。科学者はこうした生物をスリーパー(冬眠生物)と呼ぶ。まずは在来の群落に根付き、数年経ってから活発になる外来種のことだ。英国に入ってきたニジマスが代表例だ。

 「宇宙戦争」では、火星人は何の抵抗力もなかったために地球の伝染病に打ち負かされた。恐らく、流感の仕業で。現実世界のエイリアンは、もっと恐ろしい連中だ。

 こうした問題に対する国際協力は、もっと改善されることが必要だし、同時にGISPや国際自然保護連合などへの支援と一緒に強化されていくべきだ。

 また、特に発展途上国で早期警報を出す力のある関税、検疫、科学機関の能力をさらに高め、あわせて国連の国際海事機関の下の諸協定を強固にすることも重要だ。

 影響を受けた生息地の管理を改善することも重要だろう。例えば、ジャンボタニシの被害がでた場所に色々な在来の淡水植物を投入することで、米の被害を減らすことができるとの証拠がある。

 ジャンボタニシを手作業で捕殺できる人を訓練で育成し報酬を払うことも、問題解決に役立つはずだ。その上、仕事が必要な地域に雇用の機会を作ることもできるのだ。

 とは言うものの、外来種が侵入するのを防ぐ方が、すでにがっちり定着してしまった生物を根こそぎにする治療方法よりも安く済むことははっきりしている。

 外来侵入種は新しいことではない。数百年もの間、猫やねずみが船舶の航行に伴って島々へ運ばれた。その結果、島々の珍しい動植物、特に鳥類に壊滅的打撃を与えることがしばしばあった。

 米国魚類野生動物庁が最近、遠隔地アリューシャンの島に侵入した外来種のねずみを絶滅した、と発表した。沈没した日本船から泳いでたどり着いてから二世紀も後の話しだ。

 今年生誕200周年を迎え、ビーグル号に乗っての航海が進化論のきっかけになったチャールズ・ダーウィンは、1983年に南米で在来の群生地に対する外来種カルドーン、つまり朝鮮アザミの影響を目撃した後、書物に記した。

 「これほどの規模で、一つの植物が在来種を侵略したことがかつてあっただろうか」とダーウィンを述べている。

 世界経済が最終的に回復した時、海運サービスを含む世界貿易は回復し、それと共に、外来の生命体が拡散する危険も高まる。

 外来侵入種は、余りにも長い間、「ただ乗り」を許されてきた。政策決定者や公衆の意識を高め、生物多様性条約を通して総合的な対応を促進することこそが、来年名古屋で各国政府が取り組む問題として、達成がのびのびになってきた懸案事項なのだ。

プロフィール

アヒム・シュタイナー

 61年、ブラジル南部の町カラジーニョ出身、国籍はドイツ。ロンドン大学で開発経済学の修士号を取った後、複数の環境保護団体で活動。01年から06年まで絶滅の恐れがある野生生物の一覧表(レッドリスト)をつくっている国際自然保護連合(IUCN、本部・スイス)の事務局長を務め、06年6月から現職。趣味は映画鑑賞やノミの市での買い物。2児の父。

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