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〈3〉バイオ燃料、攻防戦

2008年5月20日

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 東京・新宿御苑の緑に隠れるように、無人の石油スタンドがある。東日本で唯一というバイオ燃料「E3」の施設だ。環境省が昨年つくったが、たまに公用車が来るだけ。「石油連盟が協力せず、普通のスタンドで扱ってもらえない」と担当者は嘆く。

 E3は、バイオエタノールをガソリンに3%直接混ぜた燃料だ。御苑内スタンドのE3は「バイオエタノール・ジャパン・関西」(堺市)が、廃木材などからつくったエタノールを使う。大阪府と環境省の後押しで、府内5カ所と兵庫県尼崎市1カ所のスタンドが市民に供給している。

 大阪市都島区にある大丸油業都島SSもその一つだ。能登英男所長(61)は「大阪府に勧められ、環境のことを考えたら、バイオ燃料を成功させたいと思った」と話す。系列店のままだと扱えないので、系列を離れた。一方、他のスタンドでは、元売りから「E3を扱うなら、看板を下ろしてくれ」「うちが業界で孤立する」などと言われ、やむなく従った例がある。

 ○直接混合、目の敵 参入阻む石油業界

 元売り大手などでつくる石油連盟は、バイオエタノールをETBEという物質に加工してガソリンに混ぜる方式の「バイオガソリン」を販売。E3には自動車部品が腐食するなどの不安があると主張する。だが環境省は「E3は世界で普及しており品質も問題ない」と反論し、経済産業省にも「E3の拒否に正当な根拠はない」との声がある。

 「抵抗にめげず、頑張ってほしい」。2月中旬、サトウキビからつくるバイオエタノールでE3導入を進めている沖縄県宮古島市を小泉元首相が訪問し、農家を励ました。同行した自民党環境部会長の中川雅治参院議員は「E3の芽をつぶしてはならないし、石連がE3を締め出すのは問題だ」と語る。

 それでも石油連盟の渡文明会長(新日本石油会長)はその後の記者会見でE3は「品質」が問題だとし、「無責任な考えでものを提供するのはだめ」。環境省はサミットで世界の目が集まる時期に連盟に文書で協力要請する予定だが、打開のめどは立たない。

 徹底した「E3拒否」の背景には、石油代替エネルギーへの警戒心がある。バイオエタノールの直接混合のように小規模業者でも扱える方式のバイオ燃料が育てば、石油業界が押さえてきた燃料市場を侵食される。「石油連盟は外部からの参入を警戒し、大手にしか造れないETBEで新市場を囲い込もうとしている」とエネルギー関係者らは指摘する。

 バイオ燃料は、大気中にあった二酸化炭素(CO2)を吸収して育った原料をもとにしているので、CO2の増加要因にはならないとされ、各国で開発が進む。

 日本では、甜菜(てんさい)、サトウキビ、生ごみなどからバイオ燃料をつくる事業が政府の支援を受けて始まっている。昨年の推定生産量は計約1万キロリットルだが、政府のバイオ燃料導入目標は「10年度までに原油換算で年間50万キロリットル」。農水省は農業振興策としてバイオ燃料に期待し「2030年ごろ原油換算360万(エタノール換算600万)キロリットル程度の生産が可能」と見込むが、経産省は国産ではそんなに確保できないと反発。石油連盟は経産省の支援を背に、ブラジルで加工したETBEの輸入販売を増やす作戦だ。

 微生物や海藻などを含め、さまざまな原料からバイオ燃料をつくる技術が進めば、ガソリンの年間消費量(約6千万キロリットル)が減り、業界の収益は圧迫される。しかも将来、E10、E20などと混合率が上げられれば、ガソリンはさらに押される。「直接混合だと業界外から参入が急増する可能性もある」(エネルギー専門家)とされ、ETBEに石油連盟がしがみつく理由がそこにあるという。

 ○非食糧系に期待

 ドイツ・フライベルクのコーレン社で4月、最新鋭のバイオ燃料生産施設の完成式があった。メルケル首相が出席し、「政府と産業と科学者が協力して進歩を成し遂げた」とたたえた。

 「第2世代」と呼ばれる新型バイオ燃料への挑戦だ。コーレンは、ディーゼル車用の液体バイオ燃料(BTL)を廃材やわらなどから生産。将来はジェット燃料もつくる構想だ。この技術が期待されるのは、農産物からつくるバイオ燃料が食糧高騰の要因の一つになったことで、世界的に反省機運が広がったからだ。

 コーレンに出資しているのがドイツの大手自動車会社ダイムラー。車の燃費改善とともに、燃料から出るCO2を減らすのがダイムラーの方針だ。バイオ燃料担当のウド・ハルトマン博士は語る。「植物のこれまで捨てていた部分をすべて使う第2世代で収量や効率、持続性が高まる。ブラジル産に依存しすぎると熱帯雨林の破壊が心配だ」

 欧州連合(EU)は、輸送用燃料に占めるバイオ燃料の比率を20年の時点で10%以上とする計画だ。ハルトマン博士は「ドイツでは、政府が言うように20年までにバイオ燃料の比率が20%となる可能性は十分にある」とみて、効率のよいバイオ燃料の開発に力を注いでいる。

 日本でも、ホンダが稲わらなどからエタノールをつくる研究を進めている。トヨタも同様の方向だ。世界の潮流を踏まえ、農水省や経産省も「食糧生産・供給を逼迫(ひっぱく)させないバイオ燃料の開発」を掲げるようになった。効率的で安い非食糧系バイオ燃料の開発が進めば、直接混合派の武器が増え、現在のあいまいなバイオ燃料政策も克服されていくだろう。(編集委員・小此木潔)

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