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〈5〉対応迫られる日本

2008年1月6日

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 夏の北海道洞爺湖サミットは、地球温暖化問題が主要議題となる。12月にインドネシア・バリで開かれた気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)では、日本のあいまいな態度が手厳しい批判を受けた。年頭の会見で年金改革と並んで環境問題の重視を打ち出した福田首相。バリでの汚名を返上できるか。

○福田首相も「美しい星」

 鴨下環境相は4日、「温暖化で沈む島」として有名となった南太平洋の島国ツバルにいた。海面上昇による陸地の浸食の様子を視察したほか、イエレミア首相とも会談。支援をあらためて約束した。

 年頭から「環境外交」で積極姿勢をアピールする福田政権。その地球温暖化対策の土台となっているのは、安倍前政権が打ち出した長期ビジョン「美しい星50」だ。

 ――昨年2月14日、官邸の首相執務室。あるじだった安倍晋三氏は塩崎官房長官から1枚の紙を差し出された。「美しい星」の原型だった。

 「(温暖化を)政権の重要課題と位置づけ、内閣一丸となって取り組みを強化、加速する」。経済界が猛反発する国内排出量取引についても、「早急に戦略的検討を進めなければ、大きな経済的損失を被るおそれがある」と警告していた。

 安倍氏は、年初の訪欧で温暖化が首脳級の政治課題となっているのを肌で感じていた。塩崎氏も、環境政策は省益を超え、官邸主導で進めるべきだと考えた。

 安倍氏の指示で3月、素早い政策決定を促すために官房長官、環境、経済産業、外相でつくる4大臣会合が設置された。

 「美しい星」が発表されたのは、ハイリゲンダム・サミット2週間前の5月24日。温室効果ガスの排出量を「世界全体で2050年までに半減」するという長期目標が盛り込まれた。当時は参院選を控え、年金記録問題や松岡農水相の「政治とカネ」問題で、政権への逆風が強まっていた時期でもあった。

 夏の参議院選挙で自民党は大敗。9月、福田内閣に代わる。

 政権発足直後、ニューヨークで開かれた国連総会。急きょ現地入りした高村外相の演説は、長期目標に触れたものの「美しい星」の言葉はなかった。福田氏が前政権のスローガンを嫌うとみて、事務方が配慮したとされる。その後、もともと環境問題に関心があった首相が所信表明演説で「美しい星」を引用し、命を永らえた。

○衝突避け、あいまい提案

 「美しい星」の旗印のもとで進むかに見えた温暖化政策は、インド洋での自衛隊補給活動の問題や防衛利権疑惑などの陰で、漂流してゆく。

 国内では、企業活動に厳しい枠をはめるような強力な対策に、経済界や経済産業省が反対している。巻き返しは11月末、国内排出量取引制度と環境税を議題に採り上げた環境省と経産省の合同審議会を舞台に起きた。

 議論のあと、どちらの審議会の代表が総括の言葉を発するか。意見が分かれるだけに、引き取り方によって方向性が決まりかねない。持ち回りで環境省側の代表が仕切る番だったが、経産省側が順番の入れ替えを強く要望。結局、双方が総括コメントをする異例の仕方で収めた。出席した東北大学の明日香壽川(じゅせん)教授は「いきさつを事前に聞いた時点で、結論先送りが決まったなと思った」と打ち明ける。

 対立は外交戦略にも影を落とす。

 12月のバリでのCOP13に向け、関係省庁が「ポスト京都」への対処方針をまとめた。

 条約事務局に出した提案は、主要排出国がすべて参加する新たな作業部会の設置を最優先。経済界の抵抗が特に強い国別の二酸化炭素(CO2)総量削減を日本としてどう考えるかは、あいまいにした。「バリでは交渉の行程表が主議題で、ほかは何を書き込んでも話題にならない」(環境省幹部)、「数値を嫌う米中を交渉に引き込むのに、日本が触れるのは得策でない」(外務省幹部)。様々な妥協や思惑から、正面衝突を棚上げした結果だった。この間、首相官邸が省益を乗り越えた提案をするよう動いた形跡はなかった。

 経済界も口を出す。12月初旬、日本経団連の御手洗冨士夫会長はバリに出発する鴨下環境相らと会談し、「京都議定書のような不合理な(国別)総量規制が設定されれば、国際競争力の弱体化は避けられない」とくぎを刺した。

 そして迎えたバリ。態度をあいまいにした日本提案は、予想以上の反発に遭った。「国別の総量削減が特徴の京都議定書を生んだ日本が、議定書を捨て去ろうとしている」。環境NGOは敏感に反応した。

 環境省の幹部として長年温暖化交渉にかかわった浜中裕徳・地球環境戦略研究機関理事長は「日本のイメージ回復は相当難しい」と、現地の空気を感じた。

○「バリ・ショック」、数値設定が急務に

 しかし、「バリ・ショック」を受けて12月末、事態は急展開する。

 27日、温暖化対策の国際戦略を練る4大臣会合が開かれた。福田首相は1月下旬、スイス・ダボスで開かれる世界経済フォーラム年次総会に出席し、洞爺湖サミットの基本方針を演説する考えだ。何を打ち出すべきかが議題だった。

 席上、鴨下環境相はバリ会議当時のインドネシアの英字紙を掲げた。福田首相、ブッシュ米大統領、カナダのハーパー首相の大きな顔写真が並ぶ。下に「目標なし。世界の災害はまもなくやってくる――だが世界は屈しない」の文字。日本に対する現地の厳しい雰囲気を伝える、環境NGOの全面広告だった。

 「日本は世界から抵抗勢力だと思われている。このままでいいのか」

 鴨下氏を引き取る形で町村官房長官は「日本の削減目標を掲げてはどうか」と踏み込んだ。傍らにいた高村外相も加勢。数値の設定に消極的な甘利経済産業相は、賛否の立場を明らかにしないまま、部屋を後にした。

 首相官邸は日本の中期目標を打ち出す方向に傾いた。福田首相は前後して、経済界の翻意を迫る役割を期待して前経団連会長の奥田碩・トヨタ自動車相談役を内閣特別顧問に任命。環境相のツバル訪問を指示した。

 一方、民主党も小沢代表がダボスに乗り込み、独自の温暖化対策を世界の要人に披露する準備を始めた。近く脱地球温暖化対策本部を立ち上げ、国内排出量取引制度の創設を進める法案を提出する構えだ。福山哲郎・政調会長代理は「次期総選挙の争点とする好機到来だ」。民主党の攻勢も、政府・与党を刺激している。

 4日、福田首相の年頭会見。首相は温暖化問題を「待ったなしの課題」と訴えた。

 急な「環境シフト」に、ある政府高官は戸惑いを隠さない。「温暖化、温暖化と言い過ぎて実現できない目標を掲げてしまうと、サミットは逆に『政権リスク』になりかねない」

【日本政府の温暖化政策の推進態勢】

 02年6月、首相を本部長とする地球温暖化対策推進本部が内閣に発足。そのもとに07年、外交問題を話し合う4大臣会合、国内対策を協議する7大臣会合が設けられた。関係省庁とそれぞれの審議会が政策の素案づくりにかかわる

【日本の主な温暖化政策】

 <「美しい星50」(07年5月公表)>

 世界全体のCO2排出量を現状から50年までに半減する長期戦略を提案。13年以降の国際枠組みに全主要排出国が参加することや、環境と経済の両立など3原則を提唱

 <京都議定書目標達成計画(05年4月閣議決定)>

 温室効果ガス90年度比マイナス6%達成のための国内対策。業種ごとに自ら削減目標を立てる「自主行動計画」に依存しているのが特徴。環境省・経産省の合同審議会が計画を見直し中

 <地球温暖化対策推進法(99年施行)>

 国、自治体、事業所、国民の義務を定め、温室効果ガス排出の多い事業所に排出量の国への報告などを求める。環境省は対象企業拡大や家電製品の排出量表示制度などを盛り込んで改正する方針

 <省エネルギー法(79年施行)>

 車や家電製品の省エネ基準を最も優れた製品以上にする「トップランナー制度」、工場・事業者への省エネ計画提出義務づけなどが特徴。経産省は通常国会に改正案を提出し、規制を広げる考え

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