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〈3〉低炭素 迫るマネー

2008年12月3日17時17分

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写真「金融危機をくぐりぬけても、気候変動問題がなくなるわけではない」。SRI関連の投資家らによる会議で、参加者は口々に「今こそSRI」の思いを語った=カナダ・ウィスラー、小森写す

グラフ

○企業に排出情報開示促す

 毎年9月の第1週を、世界中の「企業の社会的責任」(CSR)担当者は複雑な思いで迎える。米メディアのダウ・ジョーンズとスイスの調査会社がつくる株価指標「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティー・ワールド・インデックス(DJSI World)」の構成銘柄の見直し結果が発表されるからだ。

 環境への取り組みや社会的活動などを調査分析し、業種ごとに優れた企業を選ぶ。CSRに関心を持つ投資家らにとっては重要な投資先選びの基準で、こうした指標をもとに大量の資金が動くようになっている。

 「インデックスの構成企業に選ばれました」。日本時間9月4日13時13分、花王のCSR推進部・吉岡隆士さんに一通の英文メールが届いた。嶋田実名子部長は、にっこりする吉岡さんに気付いた。「これで世界の投資家に花王の名前を知ってもらえる」。オフィスには喜びが広がった。

 今回の見直しで構成企業数は全部で320社になり、うち日本企業は36社。4社が加わり、3社がはじかれた。企業には評価結果を詳細に示した「通信簿」も届く。

 花王は、環境とコンプライアンス(法令順守)への取り組みが高得点だった。日本企業の一部には、「欧米流の価値観の押し付け」との不満もあるが、嶋田部長は「世界軸で何が求められているかがわかる」と話す。

 投資の際に環境や人権などを考慮する「社会的責任投資」(SRI)の世界で、DJSIと並ぶ2大指標とされる「FTSE4Good」の常連、ソニーの冨田秀実CSR部統括部長は「こちらの選定基準には昨年、『気候変動』が入ったが、来るべき時が来たと思った」と語る。

 より直接的に、温室効果ガスの排出量などを開示せよ、という動きも強まっている。排出量の「2050年半減」が叫ばれ、排出量取引市場も世界に広がろうという時代、企業の排出量の多寡とその削減努力は競争力に直結する。

 あまた送られて来るアンケートで、世界企業ソニーも「影響力は大きい」(冨田部長)と構えて答えるのが、機関投資家の連携で始められた「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)」だ。企業に温室効果ガスの排出量や削減目標を尋ねるもので、今秋、6回目の結果がまとまった。ホームページを見ると、どの企業が回答を拒んだかがわかる。

 米国では、気候変動とその規制対策に伴うリスク情報の開示も充実されようとしている。金融危機のさなかの10月下旬、ニューヨーク州司法当局は、電力大手ダイナジーが気候変動リスクを投資家に開示することに合意したと発表した。火力発電所を持ち、二酸化炭素(CO2>)を多く排出するため、CO2>排出量やその削減戦略は欠かせない情報というわけだ。まだ2社目だが、これが米企業の開示モデルになるとされている。

 日本公認会計士協会も6月にまとめた研究報告で、こうしたリスク情報を法律に基づく書類に記載する「制度開示」の必要性を強調した。とりまとめの中心になった高崎経済大学の水口剛教授は、こう近未来を予測する。「決算発表の場で、企業はCO2>排出量あたりの利益や生産性が問われます」

 こんな持続可能な企業を塗り分けたり、CO2>排出量などを開示させようとしたりする動きは、何より機関投資家など「マネー」がそれを欲しているからだ。CDPを支援するのは、全世界385の投資家で、その資金規模は57兆ドル(5千兆円強)にもなる。世界金融危機にもかかわらず、いや、だからこそ、動きが速まるのかもしれない。

○「社会的責任」投資に熱気

 「もし、すべての投資家が『社会的責任』の手法で投資したら、こんな金融危機は起きないはず」。米ボストンの資産運用アドバイス会社ウィンスロー・マネジメントのジャック・ロビンソン社長がほえた。「今がグリーン・ソリューション(環境対応)企業の買い時。生涯で二度とないチャンスだ」

 世界有数のスキーリゾート地、カナダ・ウィスラー。SRI関連の投資家やアナリストらによる北米最大の会議が今年も10月下旬に開かれた。おりしも世界金融危機の真っ最中。SRIも大打撃を被ったが、会場には「この混乱から抜け出す先頭にいるのは我々だ」(SRIファンド大手カルバート)といった熱気に満ちていた。

 今回の金融危機は短期の利益を求めるあまり、安易な投融資に走った結果だ。今こそ、環境や社会的責任に配慮したビジネスに資金を回すSRIの出番というのだ。

 会議でやり玉に挙がったのが「受託者責任」との言葉だった。運用者は加入者のために最大限効率的に運用するべきで、環境への配慮などはそれに反するという根強い見解だ。これに参加者らは「それこそ『何も考えない』理論だ」などと反発した。

 その溝を埋めようとしているのが、国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEPFI)が主導する「責任投資原則」。06年、当時のアナン国連事務総長が提唱した。投資先を選ぶ際に「環境・社会・ガバナンス(企業統治)」に配慮することを求める内容だ。すでに400を超す年金基金や運用機関が署名している。

 UNEPFI主席のポール・クレメンツ・ハント氏は11月下旬、東京都内で開かれたいくつかの金融セミナーを駆け足で回って訴えた。「資本市場の転換点に来ている。危機後は、低炭素社会に向かう企業や技術、製品に高い価値を置くシステムになります」

 売上高や利益、株価が企業の評価基準だった「マネー文明」に、環境負荷を極小にするというかせがはめられる。「低炭素資本主義」が、すぐそこに待ち構えている。(編集委員・小森敦司)

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