メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

05月20日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

子どもの心、いつから成長? 京大・子安教授が講演

写真:「『三つ子の魂百まで』ということわざには、幼児期に言葉を学び、我慢することも覚え、人間の基本をつくり始めることの大事さが、込められていると思います」と話す子安増生教授拡大「『三つ子の魂百まで』ということわざには、幼児期に言葉を学び、我慢することも覚え、人間の基本をつくり始めることの大事さが、込められていると思います」と話す子安増生教授

写真:会場からは、道徳教育についても質問が出た。子安教授は「一番大切なのは、人の心を知るということ。小説や絵本やアニメなど、いろんな物語を通じて、人にはさまざまな感情があると知っていくことです」と答えた拡大会場からは、道徳教育についても質問が出た。子安教授は「一番大切なのは、人の心を知るということ。小説や絵本やアニメなど、いろんな物語を通じて、人にはさまざまな感情があると知っていくことです」と答えた

写真:子安教授が描いた頭足人の絵。世界中の子どもがこんなふうに描くという=子安増生教授提供拡大子安教授が描いた頭足人の絵。世界中の子どもがこんなふうに描くという=子安増生教授提供

 京都大学が東京・品川の「京大東京オフィス」で開く連続講座「東京で学ぶ 京大の知」(朝日新聞社後援)のシリーズ10「教育を考える」。2月27日に第3回の講演があり、「三つ子の魂、どんな魂?――幼児期の心の発達を探る」と題して、子安増生・教育学研究科教授が、主に3歳から6歳までの子どものこころの内側を、さまざまな研究結果を使ってのぞいてみせた

■「ワンワン・こわい」は大きな一歩

 「チョウチョが、かつて青虫だったことを忘れたかのように飛んでいるのと同じで、自分の子どもの時のことって、あまりよく覚えていないですよね」

 そんなたとえから、子安増生教授は話し始めた。

 「子どもの時に楽しかったことや、嫌だったこと。そうした気持ちを思い出すことが、子どもと接する時には非常に大切です。今日は、私たちの過去の姿に迫ってお話ししたい」

 子安教授の専門である発達心理学では、幼児は1歳半から小学校入学前の6歳くらいまでを指す。この時期、子どもは身の回りのことを自分で出来るようになり、体、言葉、心の面で急激な成長をみせる。

 例えば、言葉。

 1、2歳で、犬を「ワンワン」と呼ぶなど一語文(一つの単語で構成される文)を話し始め、やがて「ワンワン・いる」「ワンワン・こわい」と二語文が出てくる。一語文から二語文までは数カ月かかる場合もあるが、この「大きな一歩」を踏むと、三語文、四語文は簡単に出てくる。

 4、5歳にもなれば、高度な話し手だ。例えば、「さっきの・おいしい・おかし・ちょうだい」という文。文節ごとに、記憶、好き嫌いという感情、物の認識、要求の伝達、という、「心理学の研究テーマのかなりをカバーする」ほどの認知機能が含まれる。「何でもないような言葉でも、実は子どもの大きな発達が潜んでいるんです」

■ママ、パパ、そしてダメ

 ここで質問。「子どもが発語しやすく最初に口にし始め、お母さんもよく使う言葉は?」――答えは「ママ」、「パパ」、そして「ダメ」。

 会場から笑いが漏れた。「子どもが『ダメ』と言い出したら、親がよく言っているんだなと思った方がいいでしょうね」と子安教授。

 逆に苦手なのは、ラ行音やサスセソ、ツの発音だ。ダイオン(ライオン)、シャンカイ(三回)、チュメ(爪)、などと言ってしまう。こういう「赤ちゃん的なしゃべり方」を気にする親がいるが、子安教授は心配無用だという。「7歳くらいまで、子どもは幼児期の片鱗(へんりん)を残している。普通と思っていいんですよ」

■「頭足人」が語るもの

 子どもの絵も興味深い。

 「頭足人」という、幼児独特の絵がある。頭から手足が伸び、胴体がない。顔に目や口はあるけれど鼻と耳はない。「世界中の子どもたちが、ある段階で描く」そうだが、なぜ手足、目口だけ?

 結論から言えば、それは「動くものだから。子どもなりに人間の動くところに注目しているんですね。でも、胴体がないと決めつけてよいでしょうか?」。

 ここで、3歳の女の子が描いた絵がスクリーンに映し出された。頭足人の自分。しかし、そばに立つ母親にはおなかが描かれ、赤ちゃんが透けて見える。

 女の子は、母親の妊娠を聞かされている。「それを表現するために、ここでは母親の胴体を描いた。子どもは実は、とてもうまく使い分けている」

 子安教授は「子どもは省略の天才だ」という。「要らないことは後から覚える。大事なことは先に覚える。そうやって子どもは世界を認識しているのです」

■クマの思い込みを理解できるか

 「この人は怒っている」「苦しそうだ」。そうした相手の心を読みとって、私たちは自分の出方を決める。人の心は、物理的法則や特性に従って動く物とは違う。そう考えることを「心の理論」を持つという。

 ここで、実験で子どもたちに見せるアニメがスクリーンに流された。

 クマが部屋に入ってくる。ボールを棚にしまうと退室。代わりにサルが入り、棚のボールで遊んでから、カゴにしまって出て行く。再びクマが部屋に登場。「クマさんはボールがどこにあると思っているでしょう?」と尋ねるアナウンスが流れる。

 3歳までは「カゴ」と答える。4歳から6歳になると「棚」と言う率が高くなり、健常な小学1年生なら必ず正解するそうだ。

 自分は、ボールはカゴの中にあると知っている。でも、クマはボールが棚にあると思っている。このクマの誤った思い込みを理解できるか。自分の考えと他人の考えは違う、ということが理解できるか。

 実験結果などから、子どもは4歳から6歳までの間に、心の理論を持つようになり、心の面で大きな発達を遂げているのだそうだ。

 「3歳の子どもと話していると、文脈のない、唐突なことを言い出したりしますよね。それは、自分が知っていることと、相手が知っていることをまだ区別できないから。そう理解してあげてください」と子安教授は話した。

 こうした心の発達をみようと、子安教授は、京都市内の幼稚園で3年間、週1回、子どもたちを観察した。

 3歳のうちは、近くで友だちが物を落として大きな音をたてても無関心。4歳になると、友だちの言動にフォローを入れる姿も見られた。

 「心に一番残った出来事」と子安教授が紹介したのが、5、6歳の男子4人の場面だ。1から100の数字が書かれた駒が配られ、数の順にゲーム盤に置いていく。持ち駒の数が不均等だったため、なかなか出番が来ない子がいた。すると、駒を多く持っていた一人が「これおもしろくないから、やり直そう」と言い出した。

 駒の不平等な分配を直そうとした男の子の提案。1930年代の米国で所得の再分配を図った政策にならい、子安教授は「ニュー・ディール政策」と名付けた。

 一方で、心の理論が分かってくると、子どもは意地悪をしたり、うそをついたりすることもある。

 それもまた発達だ、と子安教授は言う。例えば「あのおじちゃん、変な格好をしている」とは、思っていても言わない。「社会のルールを学び、場面に応じて、本心とは違うものを表現できるようになるのです」

■お菓子を待てる子どもの20年後

 最後に、講演のタイトルでも触れている「三つ子の魂、百まで」について語った。英語の同様のことわざは、「ゆりかごで習ったことは墓場まで持っていく」というそうだ。では、幼児期に習うこととは? それを示唆する実験が紹介された。

 目の前に置かれたお菓子をじっと我慢して待てた子どもたちを約20年後に追跡したところ、待てなかった子どもたちより社会的に成功し、学業面でも高い結果を残している傾向にあった、というデータだ。

 「子どもの気質は大人になってもあまり変わらない。その中で、さまざまな経験を積みながら学び、感情というエネルギーを知性でいかにコントロールするかが大事です」

 3歳で言葉を操りはじめ、そこから6歳までは、まさに人間のかたちが出来ていく大事な時期。一方、子どもの発達で不安に感じることもあるかもしれない。「それを和らげるために、発達心理学の知識が少しでもお役に立てたらいいな、と思います」。終始穏やかな笑顔で子安教授は話し、そう締めくくった。

検索フォーム

注目コンテンツ

学校最新情報