写真・図版2013年度センター試験の生物Ⅰ第2問

写真・図版平林純さん

写真・図版表・2013年度センター試験での科目毎の設問と選択肢の数

写真・図版グラフ1

写真・図版グラフ2

写真・図版グラフ3

写真・図版グラフ4

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■「適当に答えを塗りつぶす」という方程式

 センター試験の時期になると「解けない問題ばかりだ……とりあえずマークシートを塗りつぶしておこう!」と運に任せ、マークシートをデタラメに塗りつぶした記憶がよみがえる。「次のうちから正しいものを選べ」という問題文に並べられた選択肢の数が多いと「あまり当たりそうにない」と憂鬱(ゆううつ)になり、その逆に選択肢の数が少なければ「こりゃ当たる確率が高いぜ!」と喜んだものだ。

 その揚げ句、各教科の過去問題が「何個の選択肢から正答を選ぶ問題なのか?」ということも研究した。つまり、運に任せて答えを選ぶ時、選択肢の数が少ない方が偶然当たり(正答)を引く可能性が高いから、各教科の問題に書かれた「選択肢数」を手掛かりにして、デタラメにマークシートを塗りつぶしても点数が取りやすそうな科目を探そうとしたのだった。

■デタラメでも点を取りやすい世界史B vs. 低点数の生物Ⅰ

 ためしに、2013年度センター試験問題から各学科での「選択肢の数」を調べてみると、教科ごとに試験問題の選択肢数が大きくばらついていることがわかる=表。「これらの教科から1科目を選べ」という、世界史B・日本史B・地理Bを眺めてみても、世界史Bの問題は平均4.1個の選択肢から正答を選ぶという程度だが、地理Bともなると平均4.6個で選択肢数が結構多い。四捨五入してしまえば、世界史Bは4個の選択肢(クジ)から1本のアタリ(正答)を選べば良いのに対して、地理Bは五つの選択肢からただ一つの正答を選び出さなければならない。つまり、デタラメに選択肢を選ぶのであれば、選択肢が多い地理Bは(世界史Bや日本史Bよりも)「当たりづらい=点数が取りにくい科目」ということになる。

 選択肢の数が一番少なくて「クジ4.1本につき1本のアタリ(正答)がある」一番アタリやすい世界史Bで、もしも全問デタラメに答えを選んだとしたら、何点くらい取ることができるだろう?

 この疑問の答えは、「成功する確率がpで成功か失敗が決まるn回の独立な試行を行ったときの成功数」を表す二項分布を使って、「正答が当たる確率が1/4.1の問題100問(各問1点)を、50万人がデタラメに答えるときの点数分布」として(大雑把には)計算することができる=グラフ1

 50万人の受験生たちが、どんな点数分布になるか眺めてみると、「偶然たくさん正解する」運が良い人もいるし、「ほとんど外れてしまった」運が悪い人もいる。50万人の平均的は25点くらいで、ほとんどの人たちが20点以上取ることができていて、(グラフを拡大して眺めてみれば)偶然40点以上の点数をとることができたような人も数十人程度いることがわかる。

 ちなみに、生物Ⅰ、つまり「選択肢数が平均6.5個でアタリ(正答)を当てにくい教科」で同じ計算をしてみると、得点分布は大幅に低下する=グラフ2。50万人の平均点は15点くらいになってしまい、20点以上獲得できた人はかなりの少数派という結果になっている。

■数学の難しさは別格!まるで難攻不落のダイヤル錠

 を眺め、「おやおや? 数学ⅠAの(平均)選択肢数が306というのはどういうことだ?」と疑問を持った人も多いだろう。もちろん、数学の問題用紙に、数千個もの解答選択肢が並んでいるわけじゃない。数学ⅠAの問題では、「数式中に空欄が何個もあり、それらの空欄に入る数字をそれぞれ0~9などの中から選べ」という問題が多いのだ。そして「それらの空欄に対して選んだ選択肢が全て合っている場合だけ正解とする」という採点方式になっている。

 たとえば、空欄が4個あったら、その4カ所に入る0~9の数字を、順番も含めてすべて当てなければならない。つまり、受験生が選びうる候補は10×10×10×10=1万個もの選択肢があるのに、その中に正解はただひとつしかないということになる。その結果、デタラメにマークシートを塗りつぶすと正解する確率が1万分の1しかない!という、まるで何桁かの数字を合わせるタイプの錠前(ダイヤル錠)と同じような難攻不落のシステムになっているのだ。

 実際には、数学ⅠAの問題は「およそ2.5個の空欄に対して、10個の選択肢から答えを選べ」という具合になっていて、各問題が「概算すると306個の選択肢の中から答えを選べ」というものに相当している。その結果、数学ⅠAの問題をデタラメに答えた時の得点分布を計算してみると=グラフ3=ほとんどの人たちは1個も正答することなく撃沈してしまう……のだ。

 正答がわからない問題の答えを選択肢から選ぶ時には、選択肢の数の大小が結果を大きく左右する。選択肢が少なければ正しい答えに辿り着く確率が高くなるし、選択肢が多いと「ただひとつの正解」に辿り着くことができる可能性は低くなる。

■わからない問題でも、知恵を振り絞って選択肢を絞り込む!

 それなら、数学ⅠAの試験では、マークシートをデタラメに塗りつぶす作戦は完全にムダな努力かと言えば、決してそういうわけじゃない。問題がわからなくても、少しは選択肢を絞り込んで、答えが偶然合うための運を呼び込む・確率を高くすることはできる。

 たとえば、√の中に入る1桁の数字なら、0~9のすべての数字が候補にはならない。√0や√1ではそもそも問題にならないし、√4=2だから、4も答えにはならない。というように考えていくと、入りうる数字は2、3、5、6、7の五つしかない。問題文がわからなくても、こういった「答え」が満たすべき数学的条件を踏まえたりすれば、選択肢を0~9の10個から半分の5個まで絞り込むことができたりもする。そうすれば「選択肢が306個もある」数学ⅠAの問題は「選択肢が55個しかない問題」へと姿を変える。もちろん、それでも他科目に比べると難易度は高い。けれど、デタラメ作戦で獲得することができる点数分布を計算してみると、5~10点もの正解を塗りつぶすことができるようになるのだ=グラフ4

■「正攻法で解く方がいい」は正論だ。けれど「解けない問題」にも必ず出会う

 ……なんてことを書くと「正攻法で地道に解いた方がいい」と言われそうだ。それは確かにその通りなのだろう。数学知識を活用して選択肢の絞り込みを行うくらいなら、最初から問題を正攻法で解くことに力を費やした方がいいに違いない。たぶん、それがきっと正しいことなのだろう。

 しかし、センター試験では「どうしても解き方がわからない問題」に必ず出会うものだ。さらに言うならば、センター試験以降の毎日の中でだって「解き方がわからない問題」という壁に何度も出会う。時には「問題が存在していることはわかるけれど、問題の姿もおぼろげで正しい答えなんて皆目見当がつかない」こともあるし、「どう考えても、答えが存在するとは思えない八方ふさがりな問題」に出くわすことだってある。実際のところ、解くことができる問題なんてとても希少な存在で、解けない問題ばかりが行列になって登場するという「やってられない試験」こそ、私たちの毎日なんじゃないかと思う。

 そんな時、わからなくても知恵を振り絞って可能性の高い選択肢を選び出す、そして、後は運に任せ進んでいくテクニックは意外に大切なものかもしれない、とも考える。センター試験で「わからない問題に出くわして、それでもあきらめずに未来の運や可能性の存在を信じつつ、自分の選択肢を鉛筆で選んだ」気持ちは、それから後の全ての瞬間にわたって、ずっと有効だったのじゃないか、と思う。

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 ひらばやし・じゅん 1968年、東京都生まれ。京都大学大学院理学研究科修了。ウェブサイト「hirax.net」主宰。全く役に立ちそうもない雑学的な科学ばかりを日々研究。著書に「論理的にプレゼンする技術―聴き手の記憶に残る話し方の極意」(サイエンス・アイ新書)など。