息子をいつもよりちょっと早めに学校に迎えに行くと、ひとり、私より早く来ていたアメリカ人のお母さんがいた。お互い顔見知りではあるが、私がまだあまり英語が話せない頃だったので(って、今もってたいしたことはないが)、話しかけても、きっと玉砕するに違いないと、私はあいまいな笑顔を彼女に向けたまま、教室の前の廊下に立った。私たちの間には、しばらくぎこちない沈黙が続いた。
と、「ねえ、日本では子どもが教室の掃除をするって聞いたことがあるけど、ほんと?」そんなぎこちない雰囲気をかき消すように、彼女は人なつっこい笑顔で、私にそう聞いてきた。
ほとんどのアメリカの子どもたちは、授業が終わった後、自分たちが使った教室やトイレなどの掃除をしないという。
息子が通うニューヨークの学校もご多分に漏れずで、授業が全部終わった後、子どもたちは自分の使った椅子(いす)を机の上にのせるだけで、掃除はしない。その後、学校の清掃担当者か、外部から清掃業者がやって来て掃除をするのである。
「そうですよ、日本の子どもは、みんなちゃんと自分たちでやるんですよ、トイレだってやるんですよ」
私は彼女の質問に、なんだかとても誇らしげに答えてしまった。
自分が子どもの頃は、「掃除当番かよ、チッ、面倒くさいなあ。早く家に帰りたいのになあ」などと、しょっちゅう思っていたくせに、いい気なものである。
「偉いわよねえ。自分たちが使ったんだし、汚したんだから、日本のように、子どもたちが掃除する方が私もいいと思うな。共同で使う物を大切にする意識も育つと思うし、アメリカの学校もそうしたらいいのにねえ。ほら見て、廊下に紙くずが落ちていたって、みんな全然気にしないんだから。日本の学校じゃあ、こんなことないんでしょ?」
彼女は、廊下の紙くずを拾い上げながらそう続けた。
「まあねえ、そういう指導はこっちの学校より日本の学校の方が行き届いているかもしれないわねえ」
またまたいい気な私は、いい気に答えた。
ほかの父母もいつの間にか集まってきていて、その後しばらくその話に花が咲いた。
『自分の身の回りをいつも整理整頓し、きれいにしておける人は、頭の中も整理されていて頭がいい。子どもの頭をよくする第一歩は、まずは家の中の整理整頓』
結局、話はそこに落ち着いた。
ほんの10分足らずの間だったが、ここでもアメリカ人の父母たちは本当によくしゃべった。それも実に論理的にテキパキとしゃべった。
これも子どものころから“ Show and Tell ”で訓練されてきたたまものか、と思わせるに十分なできだった。
さて、私にとっては思いもよらぬこの話の着地に、単純な私はその日、家に帰って念入りに部屋の掃除をし、念入りに整理整頓したのは言うまでもない。
(次週に続く)