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「歩く」遠足で心身鍛錬、運動会でも学年超え競い合い

甲南小学校

2009年8月13日

写真耐寒遠足で黙々と歩く児童ら

写真異なる学年が一緒に走る学年対抗リレー

写真創立者の碑

写真(左から)菊本弘一PTA会長、大谷彰良校長、藤田准一教頭

 2011年に創立100周年を迎える甲南小学校。都会にありながら自然豊かな神戸・東灘の地から創立以来離れることなく、「徳・体・知」を教育方針に、日本有数の歴史を積み重ねてきた。「体」を2番目に掲げるように、児童らを肉体的にも鍛錬する。今回の「イチ押し」の取り組みは、まさに鍛えることに重点を置いた遠足や運動会を紹介すると同時に、大谷彰良校長、藤田准一教頭がそれぞれ今の役職に就いた5年前から始めた、自尊感情を高め、他人に対する思いやりを養う「みんなのよいところみつけ」を取り上げる。100周年に向け、新校舎建設の槌音が心地よく響く同小で、大谷校長と藤田教頭、幼稚園から大学まで甲南育ちだった菊本弘一PTA会長に話を聞いた。

 ――遠足はかなりハードなようですね。

 「年に8回あります。夏休みや冬休みなどを考えると、学期中はほぼ毎月あることになるので、『月例遠足』と読んでいます。『歩く』ことを念頭に、4月下旬に実施する1年生歓迎遠足に始まり、3月上旬の6年生送別遠足まで全学年で実施します。教職員を含め児童らの結束が強まると同時に、たくましくなります」

 「9月中旬の『早起き遠足』は午前5時40分に集合し、6時に出発します。6年生が1年生の手を引き、そのほかは学年ごとに神戸・岡本地区、甲南大学の近くにある保久良神社までの4キロの道のりを歩きます。もちろん校長、教頭含め教職員も全員参加します」

 ――早朝の集合時間に間にあわない子もいるのでは。

 「私学ですので電車通学の児童も多いです。東は大阪府高槻市、西は兵庫県明石市から通う児童もいます。もちろん、始発に乗っても間に合いませんので、学校近くに住む友だちの家に泊めてもらったり、この日だけ特別に車で送ってもらったりしています」

 「早朝のさわやかな空気のなか、自然を体感する絶好の機会になる一方、早朝出勤する方々や、新聞や牛乳を配達される方々の姿を見かけます。朝早くから働く方々の様子は児童にも新鮮なようで、実社会を知る機会にもなっています」

 ――まさに「鍛錬」というにふさわしい月例遠足もあるようですね。

 「11月下旬の『鍛錬遠足』と、1月下旬に行う『耐寒遠足』です。鍛錬遠足はまさに肉体を鍛えると同時に心、精神を鍛えることをねらい、2学年ごとにそれぞれの目的地を目指します。5、6年生は学校から六甲山頂まで片道15キロを超える道程を歩きます。1、2年生でも一部ケーブルカーを使いますが、麻耶山を目指し10キロは歩きます。耐寒遠足では、5、6年生は芦屋市奥池地区まで往復します。1年生から4年生もそれぞれの目的地を目指し、最初は震えながら、終盤は体から湯気があがるほど頑張って歩きます」

 ――運営を児童らに任せる工夫もしているそうですね。

 「6月上旬に開く『縦割り遠足』と3月の『6年生送別遠足』では、児童に任せられるところは児童に決めさせています。集団下校をする児童を地区別に8つに分けており、縦割り遠足では、この地区ごとに実施する10日ほど前に地区別集会を開き、6年生が中心になってその地区の中で行き先を決め、遊ぶ内容を考えます。実施日には、いったん学校に集まり、児童らが8地区ごとに集まり、集会で決めたそれぞれの地区の行き先、例えば、公園などに行き遊びます。もちろん安全面のことがありますので、教員が分担してついて行きます」

 「6年生送別遠足では、5年生の児童会の議長団が中心になって内容を考えて西宮市の甲山森林公園に行き、野外で6年生を送別します」

 ――こういった遠足にならい、運動会もおもしろそうですね。

 「一時期、競争を否定し、手をつないでゴールするとか、危ないからと騎馬戦を中止するといった風潮が他校にはあったようですが、わが校では競争を前面に出して運動会をしています。実社会には厳然と競争があるのですから、否定するのはナンセンスです。要は、学習ができる子、運動ができる子、芸術に優れた子などさまざまな才能を持った児童を、それぞれの能力できちんと評価することが大切だと思います」

 「10月に実施する運動会には、騎馬戦はもちろん棒倒しもありますが、特徴的なのは、学年ごとに対抗するだけでなく、1年生から6年生が同じ種目で競争することです」

 ――それでは、体の発達した6年生など上級生が有利なのでは。

 「ハンディをつけます。例えば、各学年で選ばれた男女5人ずつが競走する種目では、140メートルのトラックを1年生は一周しますが、2年生はさらに7メートルを足し、3年生はさらに5メートルを足すといった具合にハンディをつけて走ります。こうすると、結構団子レースになり拮抗します。最終種目の学年対抗リレーでも同じような仕組みで実施しています。全児童が参加しますが、ハンディがありますから必ずしも上級生が勝つとは限りません。記録を見ると、各学年ですべて勝ち、6連覇した回が1例だけあります。いま1年生が98回生ですが、66回生の方々です。いまでも語り草になっています」

 ――このような遠足や運動会を実施していて、保護者からクレームがくるということはありませんか。

 「結論から言うとはありません。むしろこうした鍛錬を評価して、お子さんを入学させたい、という保護者がいらっしゃいます。都会でありながら、六甲山系の緑と大阪湾に抱かれた、恵まれた自然のなかで学んでいるということを、知識だけで学習するのではなく、体感させたい、というわが校の方針は支持していただいていると思います」

 ――校長、教頭になられてすぐ始められた「みんなのよいところみつけ」とは何ですか。

 「これは私たち教師自身の反省もあって始めました。教師は児童をすぐしかったり、注意したりしてしまいます。否定から入ったのでは良くないな、という猛省もあって始めました」

 「学期ごとに『みんなのよいとこみつけ』週間という期間を設け、専用のシートに、例えば、2年生の上島誠司君が、廊下のゴミを率先して拾っていました、と記入して担任に出します。担任はそのなかからいくつかを取り上げた印刷物を作って各家庭に届けます。保護者から寄せられた感想をまた、児童らに返します」

 「今年で5年目になりましたが、保護者からも子供をほめやすくなった、などと好評を得られるようになり定着してきたようです。友だちをほめようとすると、その人をよく見ないといけません。他人を尊重する心は、よく見る、関心を持つことから始まると思います。我々教師も自戒の意味をこめて、児童をよく見ていきたいと考えています」

甲南小学校(神戸市東灘区住吉本町12−1)
ホームページ http://www.konan-es.ed.jp/

取材してみて一言

上島誠司

「競争」回避せず、実社会見据えた教育を
 以前とりあげた甲南高校・中学校と同じで、関西出身の私のイメージは甲南といえば「おぼっちゃん、お嬢さんの学校」。でも、今回の取材でも、そのイメージが変わった。実社会で通じる大人になる基礎を築くため、心身ともに児童を鍛えようという先生方の意気込みが感じられた。

 各地の学校で危険が予想される行事はなくなる傾向だ。親からのクレームが背景にあるようだ。競争を否定する風潮も残っているように見える。一歩、社会に出れば、世の中のグローバル化も加わって激しい競争社会になっている。格差社会が問題になっても久しい。こんななか、学校現場と実社会との乖離が目立ち、事なかれ主義が横行する職員室に不安を感じることもままある。甲南小学校の取り組みは、一昔前なら当たり前の行事だったはずだが、今改めて見ると、そんな現状に対する挑戦に見えてしまう。

 今回は甲南小の「体」の部分を中心に取り上げたが、もちろん、「徳」や「知」についても、怠りなく取り組んでいる。一例が、秋に開く作文発表会だ。各学年の代表の書いた作文の朗読を聴く会だが、それまでに、作文教育にしっかり取り組んだ証しの行事だ。自己を書いて表現することは訓練が必要で、自分の思い通りに書くことは意外に難しい。物書きの端くれである筆者自身が日々痛感していることだ。しかし、書く作業は、人に内省する大切さを教えてくれる。甲南小の取り組みは、いま教育現場が忘れている原点を思い出させてくれる。(アサヒ・コム教育チーム 上島誠司)

 このコラムは、おもしろい授業やユニークな行事、新しい学部や学科の内容など、各学校が取り組んでいる教育実践の具体的な中身を取り上げ、読者のみなさんに学校選びの参考にしていただけることを目指しています。小学校や中学校、高校、大学をはじめ、専門学校など教育に取り組むすべての学校を対象に、その取り組みの中心人物(学長や学部長、校長、プロジェクトリーダーなど担当の先生)にインタビューし、その学校の一押しの教育内容を紹介してもらいます。
 読者のみなさんのなかで「この学校のこんな取り組みを紹介してみては」というご提案などありましたら、教えてください。よろしくお願いします。

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