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子どもと心豊かな関係を築くことのできる教師育成

大谷大学教育・心理学科

2009年9月10日

写真理科室で実験に取り組む

写真多目的ルームで子どもと遊ぶ学生ら

写真新しくできた校舎

写真水島見一学科主任(左)と岩淵信明准教授

 京都にある仏教系の大学としてその存在感を示す大谷大学が今年度、教育・心理学科を新設した。教育現場で相次ぐ子どもの心をめぐる複雑な問題に適切に対応し、子どもとその周辺の人々と心豊かな関係を築くことのできる小学校・幼稚園教諭の育成を目指した同学科に、新入生110人が学び始めている。もうすぐ始まる後期には、模擬授業の実践ができる理科室や図工室などを備えた新しい施設も完成し、さらに充実した教員養成教育が期待される。この新学科の先頭に立ち、1期生と共に新たな大谷大学の歴史づくりに励む学科主任の水島見一教授と、岩淵信明准教授に思いを聞いた。

 ――教育学部や教育学科というのはよく聞きますが、教育・心理学科というはあまり聞きません。その狙いは。

 「一言でいうと時代に対応するためです。というのも、学校現場では問題が起こるたびに、その対応にハウツーばかりを求め、場当たり的に対処してきました。いまやそれでは限界。どうしようもないところにきており、子どもの心を知るのが難しくなっています。どうして、子どもがそんな行動を取るのか、心理学的にきちんと理解し、冷静に対応する必要があります。教師は、経験だけではなく正確な知識を持った知見も求められているのです。こうした根っこの部分を、きちんと学んだ教師を育成していくことが、教室で起こっている様々な問題に冷静に対応することができ、明日の教育を創造していけるのではないか、と考えました。子どもや保護者などの心の問題に対応できる、経験知を大切にしながら、心理学的な知識の裏付けを持った教育を実践できる場として教育・心理学科を新設しました」

 「そうした学びの特徴の一つに『授業心理学』という科目があります。教育学のなかで、児童心理学や青年心理学などの『時期』で児童・生徒の心を分析する科目があります。『授業心理学』では、まさに学校現場の実践の中心である『授業』を心理学の面から学び、子どもにとっておもしろい授業にするために興味・関心をどうもたせるか、どのようにしてやる気を引き出すか、などを考えます。教室のなかで教師が子どもと接する具体的な場面、場面でどう対応していくのか、学生のうちに考えておく必要があります。時期だけで学んでいると、実際に学生が教師になって現場に出た場合、子どもの心を読み解くのに応用がきかないことが多いので、その現実に対応するためにこの科目を設けました」

 「授業は、単なる技術論や方法論だけで成立するものではありません。子どもの心のあり方に光を当てることも必要です。こうしたことを考え、このほかにも『教室の心理学』や『児童の描画分析』などの科目を設け、『場面』での学びを深められるようにしています」

 ――今の先生は子どもとだけの関係を築いていけばいいのではなく、保護者や地域の方々とも付き合っていかなければいけません。

 「そうですね。今の教師は、保護者から何か言われたら対抗してやろうとか、負けてはいけないなどと考えていてはいただけません。まず、相手の話を十分聞くことができないとやっていけません。相手の立場を十分におもんぱかって、仮にむちゃな要求であっても、そうした要求をしてくる背景には何があるのか探る気持ちが大切です。そこから解決の糸口が見つかるのです。子どもの場合も、特に低学年では、自分の心の様子をうまく表現できないケースも多いのです。そうした時に、カウンセラー的な役割もしなければならず、心理学的な学びは十分役に立つと思います。いま学校は、地域や保護者との連携を求められおり、学生時代に実践的な心理学を学ぶことは必須だと思います」

 「こうしたコミュニケーション・スキルは4年間を通じて『教育・心理学1〜4』という科目で実践的に学びます。1クラス十数人という少人数制で、うまく表現できない子どもの言い分を理解したり、非言語的メッセージを読み取ったりする力をつけるほか、教員同士や保護者との良好な関係を構築していく能力を養います」

 「このような授業を組み立てたのも、良い教師の原点を考えたからです。小学校で校長をしていた時、こんなことがありました。若手の先生ですが、頭もいいし、何をやらせてもできる。パソコンなども達者に使いこなしていました。でも、子どもから見れば良い先生ではありませんでした。ある保護者から『何でもできる人が良い先生ではない。子ども心を分かる人が良い先生だ』と指摘されました。なるほど、と思いました。子どもに寄り添うことの大切さを再度、認識させられました」

 「大谷大学全体の共通科目に『人間学』というのがあります。親鸞や釈尊の教えを学ぶのですが、自分自身を知る、良いところも悪いところも見る。人間は不完全なんだ、というところから発想し、相手と向き合う。この考え方がまさに教師と児童・生徒、保護者、地域の方々との関係を考える時に必要で、共に同じ水平に立って寄り添い、向き合うことが原点だと思います」

 ――学校現場での体験を重視しているそうですね。

 「京都府、京都市の教育委員会と提携し、すでに小学校などでボランティア体験をしています。授業の補助や運動会の手伝い、放課後の部活動のコーチはもちろん、登校してくる児童らを、校長先生らと迎える朝立ちや、通学路に地域のボランティアの方々といっしょに立って朝のあいさつ運動をすることもあります。市教委が進める児童の自主学習を支援する『放課後まなび教室』にも助っ人として協力しています」

 「ほとんどの学生がすでに参加しています。しかし、まだ1年生なので、自分自身が受けなくてはいけない授業のコマ数が多く、『週1回しか参加できない』と残念がっている学生もいます。実際の現場にふれることによって、教職への意識を高めたいと思い始めたのですが、関係者の方々の協力のおかげでその狙いは十分果たせていると感じています」

 ――後期から新しい施設で授業が始まるそうですね。

 「グラウンドだった場所に4号館、5号館を建設しました。小学校や幼稚園での実習・実技を想定した授業ができる施設を設けました。模擬授業などの実践的な学びを通して、教師として必要な実践的な指導力と心構えを身につけてもらおうと思っています」

 「建物は双方とも2階建て。4号館には、2台のピアノが置いてある防音設備付きのピアノレッスン室を20室以上設けたほか、本格的な演奏技術を身につけるための音楽室や、子どもとの自由なふれあいの場となる多目的ルームを設置。教職の相談窓口として教職支援センターも設けています。5号館には、小学校で実際に行われている実験や実習を学ぶ理科室や図工室。設計にあたって、京都市内の小学校の実際の理科室を見て回り、参考にしました。また、実際の小学校の教室を再現した模擬授業教室も設けました」

 ――1期生が学び始めていますが、その1期生を含めどんな学生を育てたいですか。

 「テクニックはもちろん大事ですが、技術が達者なだけではなく、児童・生徒から見て『いい先生』になれる学生を育てたい。『いい先生』というのは、尊敬されるという感じではなく、子どもと同じ目の高さに立ち、誠実に向き合い、水平な関係で接することのできる教師、教師も不完全な人間であることも知っている教師ですね。黙っていても、雰囲気を醸し出せる人間になって欲しいでね」

 「全体像の見える先生、子どもだけではなく、保護者や地域など子どもを取り巻く全体を見ることのできる教師になれる学生を育てたい。力量のある教師は、子どもはもちろん保護者や地域の方々にも理解されている。そんな力のある教師になってもらいたい」

大谷大学教育・心理学科(京都市北区小山上総町)
ホームページ http://www.otani-univ.net/guide/kyoikushinri.html

取材してみて一言

上島誠司

若い教師を見守る目、育てる目線必要
 学校の先生は大変だ。文部科学省や教育委員会からの調査依頼などにこたえる書類作りなど事務量が増えているうえ、理不尽な要求をする保護者の対応も増えている。「子どもと向き合い、じっくり教育する時間が本当に取れない」と嘆く現場の声は悲鳴に近い。教師は、児童・生徒や保護者、地域の人たちとの人間関係づくりに疲弊し、もはや単純に「子どもが好きだから」だけでは、やっていけない職業になってしまったかのようだ。職員室では笑顔が減り、疲れた顔をした先生を見かけることも増えているような気がする。

 学校の先生になろうという学生は、当たり前だが「子どもが大好き」という人が多く、優しく親切で好青年だ。しかし、こうした教育現場の実状を知り、教師になるのをあきらめる学生がじわじわ増えているのが気になる。ある教育養成系の教授が嘆く。「学校の授業ボランティアなどで学校の中に入り、厳しい状況を目の当たりにして怖気づき、ひどい場合は大学を辞めてしまう学生もいる」。

 大谷大学で、教員養成に心理学の要素を取り入れるというのは、こうした現状を考えると、興味深い試みだ。「教師はカウンセラーの役割も求められている」という指摘に頷くとともに、カウンセラーの、人の話を聞く技術を知ることは、教師のこうした心理的重圧を和らげる一助になるのかもしれない。

 有望な若手が入ってこない業界はよどむ。教師は子供を育てるすばらしい職業だと素直に思い、そのように取り組める環境づくりが必要だ。頑張る先生を温かい目で見守り、育てようという目線が、我々に今一番必要なのではないか、と学校現場を取材していて強く感じる。(アサヒ・コム教育チーム 上島誠司)

 このコラムは、おもしろい授業やユニークな行事、新しい学部や学科の内容など、各学校が取り組んでいる教育実践の具体的な中身を取り上げ、読者のみなさんに学校選びの参考にしていただけることを目指しています。小学校や中学校、高校、大学をはじめ、専門学校など教育に取り組むすべての学校を対象に、その取り組みの中心人物(学長や学部長、校長、プロジェクトリーダーなど担当の先生)にインタビューし、その学校の一押しの教育内容を紹介してもらいます。
 読者のみなさんのなかで「この学校のこんな取り組みを紹介してみては」というご提案などありましたら、教えてください。よろしくお願いします。

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