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初年次と専門の橋渡し 学生の自立促す「2年次教育」

玉川大学

2009年10月22日

写真グループに分かれ課題に取り組む学生ら

写真各グループで議論が盛り上がる

写真発表する学生ら

写真菊池重雄教授

 リポートの書き方など大学での学び方を学ぶ初年次教育では日本の大学の草分け的存在として知られ、先進的な取り組みを続けている玉川大学。その玉川大学が、今年度から本格的に2年次教育に取り組み始めた。初年次教育を採り入れる大学は年々増え、学生の学ぶ意欲を高めているものの、3年次以降の就職を目指したキャリア教育や本来のゼミを中心とする専門教育につなげるまでの2年次の教育に課題を感じている大学が多い。どうしても学生の学ぶ意欲が2年次に下がってしまうのだ。エアポケットのような2年次に、玉川大学は「学生と大学」(前期)、「学生と社会生活」(後期)という科目を設け、さらに大学での学びを深め、学ぶ意欲の高さを維持し、専門教育やキャリア教育に結び付けようと試みている。こうした教育実践のけん引役を務める学士課程教育センターの菊池重雄副センター長(経営学部教授)に話を聞いた。

――大学の間で、初年次教育はもちろん2年次教育にも関心が集まっていますね。

 「大半の大学で何らかの形で初年次教育を導入しているようです。私自身も導入を考える大学から講演など協力を求められることが増えました。つまるところその大学の方針にかかわる話なので、理事長や学長の意識がポイントになります。2年次教育については、初年次で高まった学生の意欲をいかに持続させるか、ということから始まっています」

 「玉川大学では学園創立80周年を機に、昨年度、学生や父母、卒業生など幅広い層を対象に調査をしました。その結果を見ると、2年次には、勉強しなくなっているし、クラブ活動への意欲も下がっている。そもそも大学そのものへの関心が下がっているということが分かりました。これはおそらくどの大学でも調査をすれば同じ結果が出ると予想されます。原因は、と考えるといろいろあると思いますが、私が分析するには教員の問題だと思います」

――教える教員に問題がある、というのは自らが教員である立場からすると思い切った分析ですね。

 「入学したばかりの1年生にしっかりした教育をしなければいけないと、大学は考えます。このこと自体はいいのですが、そのために1年生にはガッツのある面倒見の良い先生をあてます。その結果、教員の数にも限界がありますので、2年生を普通の教員に受け持たせることになるケースが多いですね。1年生はケアするのに、2年生は学生任せになってしまう状態です。その結果、1年生の時にさまざまな能力やスキルを身につけレベルが上がったのに、その高みからさらに上の段階に上がりたい学生の悩みに、教員が手を離してしまっているので対応できず、意欲が下がる結果になっていると思います」

 「ここで注意したいのは、それなら1年生を担当した面倒見の良い先生を2年生にあてればいいのでは、という風に短絡的に結び付けてはいけないということです。肝心なのは、学生を社会人として、大人として自立、自律させていくことです。この観点からすると、2年生になったら、1年生の時のようにあまり面倒を見過ぎることはよくありません。面倒見の良い先生は得てして学生に手をかけ過ぎるきらいがあります。見守りながら、学生の自立を促す、段階にあわせた指導が大切です」

――指導の仕方がポイントになるのですね。

 「教員が、教育のパラダイムシフトを理解しているか、という点です。すなわち、学生中心の授業にシフトできているか、ということだと思います。よく陥る例が、学生にテーマを与えて議論させ、さまざまな意見が出ても、結局は教員自身が考える結論に導いてしまう。また逆に、学生の意見を建設的な批判をしないですべて受け入れてしまう。こうした授業というのは、学生中心とはいえないですね。教員自身が考えもつかなかった学生の意見には謙虚に耳を傾け、違うと思う意見にはきちんと論理立てて批判するという過程を大切にすることが必要だと思います。私自身は、答えを出す問題解決能力より、問題を発見することを重視して授業を進めています。要するに、教員が問題を解決できると思ってはいけない、限界があることを知ることが大事だと思います。激しく変わる社会のなかで、これからどういう時代になるか、などということはなかなか予測が難しい。私たち教える側に答えがあるのではなく、学生といっしょに考え、学んでいく姿勢が問われると思っています」

――初年次教育は必修でもよいが、2年次教育は選択科目で実施すべきだと主張されていますね。

 「学生を自立、自律させていくことが肝要ですから、初年次と違い、選択科目にすべきです。2年次でやるようなことは自分でやれる、その分をほかの勉強に使いたい、という学生はむしろ歓迎すべきだと思います。もっといえば、初年次や2年次などという科目はなくなり、学生が主体的に学びたい科目が増えることが理想です。単位が容易に取得できるいわゆる楽勝科目ばかりに目がいくのではなく、学びたいことを自分で導き出せる学生を育てることが、我々の本来の役割だと思います」

 「ベトナム難民の方々とお付き合いする機会がありましたが、彼らは米国に渡り良い暮らしをしたいという明確な目標がありました。当初はABCもおぼつかない状態だったのが、わずかな時間で、TOEICで700点、800点取れるほど上達する人を何人も見ました。明確な目標があれば、意欲も高まり自分で学ぶやり方も見つかります。この例から、英語の不得手な学生には、教員のいいなりのやり方で不得手にさせられてきただけだから、自分の学習法を探し出す努力をすることを促しています。50人の学生には本来50通りの指導法があるのが理想ですが、現実には難しい。従って、学生中心の授業を行い、自分で学んでいける力をつけさせることが現実的だと考えています」

――玉川大学での2年次教育の具体的な内容について教えてください。

 「科目は『学生と大学』(前期)、『学生と社会生活』(後期)。今年度から開講したこともあって、2年生以上の学部共通の選択科目にしています。学部混成の40人クラスで、『学生と大学』では、初年次セミナーで身につけたリポートの書き方などのアカデミックスキルを基に『なぜそうしたスキルが必要なのか』を自分の専門領域と関連させて学ばせます。2年生になると、自分の選んだ学部に疑問を持つ学生がいるので、自分の専門領域の可能性と限界を15コマのなかで、ある時は歴史的に、ある時は海外からの目線で、といった形で多角的に考えてもらいます」

 「秋から始まる『学生と社会生活』では、自分のキャリア形成を考えるために世界観や価値観を探る根本的な学びを深めてもらおうと思っています。身近だが、語られることの少ない結婚や親子関係、性差の問題を、テレビ番組や文学作品などをテキストに考えてもらいます。2科目とも共通しているのは、リポート提出を課すなど徹底的に書いてもらうことに重点を置いています。書くことを通じて、論理的にかつ客観的に物事をとらえる力を養ってもらいたいと考えています」

 「キャリアセンターがしっかりしていますので、就職を目指した企業研究などの具体的な指導は2年次セミナーでする必要はありません。もっと根本的な学生一人ひとりが自分の人生を生きていく指針になる考え方、哲学を深めていってもらいたいと考えています。大学で学ぶ意味を自分でつかみ取って卒業していってほしいと願っています」

玉川大学(東京都町田市玉川学園6−1−1)
ホームページ http://www.tamagawa.jp/

取材してみて一言

上島誠司

ゼミで育てられる自立した学生の姿
 菊池教授に取材させてもらった後、4年生の菊池ゼミをのぞかせてもらった。自己紹介を聞いていると、ほぼ全員が就職の内定をもらっていた。せっかく出席したのだから、と社会人の心得めいた話をさせてもらった。話し終えて、お決まり通り、何か質問は、という段取りになった。

 仕事柄、大学で講義を頼まれたりするケースがあり、質問を受けることも多いが、今回は突然、ゼミに参加した。こうした場合、質問などは出ず、先生が気遣っていくつか質問して終わることが多いのだが、菊池ゼミは違った。学生からさまざまな質問が出ただけでなく、私のつたない話に懸命にメモを取る姿も見られ、面はゆいと同時に感心させられた。おまけに、授業が終わり、教室から出て行く時にも、貴重なゼミの時間を私のむだ話でつぶしてしまったにもかかわらず、「大変、貴重な話を聞かせていただきありがとうございました。大変参考になりました」とあいさつしてくれた男子学生もいた。

 この学生は熱心に質問してくれ、メモを取っていた学生だ。むしろ彼らの的確な質問のおかげで、少しは「貴重な話」ができたのだと思う。学生が私からメモを取るだけの話を引き出してくれたのだ。

 きちんとした学生たちの言動や振る舞いにすがすがしさを感じると同時に、自立した学生を育てることを目指し学生中心の授業を実践してきた、菊池教授の指導力を垣間見た気がした。(アサヒ・コム教育チーム 上島誠司)

 このコラムは、おもしろい授業やユニークな行事、新しい学部や学科の内容など、各学校が取り組んでいる教育実践の具体的な中身を取り上げ、読者のみなさんに学校選びの参考にしていただけることを目指しています。小学校や中学校、高校、大学をはじめ、専門学校など教育に取り組むすべての学校を対象に、その取り組みの中心人物(学長や学部長、校長、プロジェクトリーダーなど担当の先生)にインタビューし、その学校の一押しの教育内容を紹介してもらいます。
 読者のみなさんのなかで「この学校のこんな取り組みを紹介してみては」というご提案などありましたら、教えてください。よろしくお願いします。

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