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日本語能力向上させ、専門教育の土台築く

大阪体育大学

2009年11月19日

写真懸命に課題に取り組む学生ら

写真授業中に個別指導を受ける学生

写真添削に威力を発揮するスタンプ

写真長尾准教授(中央着席)ら

 アスリートたちが集まる大阪体育大学が、学生の文章読解・作成能力を高める授業を実施して効果を上げている。いま大学では、高校までの学習が十分身についておらず、学生の基本的な日本語能力の欠如が悩みの種になっている。そんななか、大阪体育大学のこの取り組みは、大学の専門分野へ移行する土台をつくる教育実践として注目されている。1年生の必修として実施されているこの科目は、習熟度別クラスに分けていることがポイントだ。授業のなかで学生に徹底して作文を書かせる演習型の授業を実施し、教員がその作文を添削して返すという地道な繰り返しのなかで、リポートの書き方など大学で学ぶスキルも身につけさせている。こうした授業実践の中心的役割を務める長尾佳代子准教授、工藤俊郎准教授、堤裕之准教授に話を聞いた。

 ――どんな内容の授業ですか。

 「2006年度から『日本語技法I』として1年生の前期に実施しています。入学後すぐに実施される国語のプレースメントテストの結果で今年度は成績順に6クラスに分けました。6人の担当教員が1クラス30人程度の学生を受け持ちました。初級、中級、上級の3段階に設定し、学力レベルはそれぞれ『中学校』『高校1、2年生』『高校3年生』にあたります。習熟度別にしたほうが、授業を効率的に進めやすく、学生にも理解しやすいと評判です」

 「授業は基本的には独自で作った『教養基礎テキスト』を基に行いますが、進め具合は各担当教員に任せています。ただ、運動部に所属している学生が大半なので、部活動に日々多くの時間を割かれているため、資料の読解や課題作文などについては授業時間内に徹底して行うようにしています。中・上級クラスでは、前回の課題作文で多かった間違いやテキストの内容を30分程度で解説し、残り60分間で課題に取り組ませるパターンが多いですね」

 「初級クラスでは、資料の音読や筆写を徹底してやらせます。漢字の筆順から学び直すという感じで本当に基礎・基本からやります。新聞の社説を中心に原稿用紙50枚分を筆写させたこともあります。これは効果があります。きちんと読みやすい字を書くことを徹底させているうちに、1字1字、資料の文章を見ながら書いていた学生が、徐々に一かたまりの文章を理解して漢字も間違えずに筆写できるようになっていきます」

 ――習熟度別クラスにすると、学生のプライドを傷つけると実施をためらう学校が多いと聞きますが、どうでしょうか。

 「学会などでその質問をよくされますが、うちの学生には高い評価を得ています。他の科目でもやって欲しいと言ってくる学生がいるぐらいです。むしろ、成績の良くない学生のほうがその要求が強いように思います。学生にとって成績順に分けられることより、自分のレベルに合わず、理解できない授業を受けさせられることのほうが不満なのではないでしょうか」

 ――書かせる指導のポイントは添削にあると思いますが。

 「課題作文にしろ、筆写させたものにしろ、必ず添削して次回の授業の時に学生に返します。添削には、だいたい学生1人分に6分程度かかりますね。教員というのは添削で真っ赤にして返すのが良いと思っているところがありますが、あまり直し過ぎたり、注意点を書き過ぎるたりすると、かえって学生に伝わりません。ポイントを絞って添削する必要があります。もっとも真っ赤にしてばかりいては時間がかかり過ぎて、教員も続きません。添削は根気よく長く面倒をみることが大事です」

 「添削指導をしていて気づいたのですが、文章を通じて学生と1対1の関係ができ、学生との関係が密になります。その結果、指導している新入生は教室での居場所を見出し、自分が受容されているという安心感が生まれるようです。授業も大半が課題に取り組む演習方式なので、机の間を回りながら一人ひとりの学生に語りかけることが多く、信頼関係が醸成され、その傾向が強まる効果があると思います」

 ――添削を長く続けるために何か工夫していますか。

 「たいしたことではないのですが、実践を発表した際に、『目からうろこ』といわれるのは、添削指導の時に用いるスタンプです。『段落のはじめは1マスあける』『句読点は行頭に書かない』『誤字と脱字に注意』『9割以上書く』『一文が長すぎる』など、添削する際によく指摘する文言をスタンプにしてあり、これを押します。これで添削の時間をかなり合理化できました。当初13種類でしたが、担当教員みんなで相談して増やし、いまでは32種類の文言をスタンプにしています」

 ――授業の演習の中で資料として、よく新聞記事を使っているそうですね。

 「いまの学生は読書量が全く足りません。従って、一般的な知識量、情報量も足りません。新聞というのは、短く簡潔で水準の高い文章の中に一般に必要な知識、情報もちりばめられているので、教材としてとても有効です。読解力や書く能力を高めることと、知識・情報量を増やすこととをいっぺんに指導できる非常に効率的な教材です。学生が興味を持つ話題に関する記事が1週間のうちに必ず探せるのもありがたいですね。この日は音楽を聴きながら運動することの是非を二つの見方が違った記事を使い、授業をしましたが、うちの学生が食いつきやすい話題でした」

 ――この授業での評価はどうしていますか。

 「初級クラスは8割以上の出席と授業時間内の課題提出を求めています。出席などで60点、課題などで10点。中・上級は出席で60点、課題とテストで各20点が加算される形にして評価基準を明確にしています。毎回の課題も5点満点で評価し、返却します。基準をはっきりさせているので、学生からの苦情はあまりありません。また、毎回の課題を含めて、提出させたものは、スキャナーですべてパソコンにデータ保存しています。このデータを分析することによってより良い評価や学習効果を測定することにつながっています」

 ――「日本語技法I」の授業も必修になって4年目を終え、今後の課題も見えてきた時期だと思うのですが、いかがですか。

 「それなりに学生の文章読解・作成能力を向上させられることは分かってきました。これを2年次以降の教育とどのように有機的につなげていくか。専門のスポーツ科学を理解して卒業させるには、専門教育とどのように連携させていくかが課題だと思います。これは教育内容の改善とともに組織連携や事務システムの合理化を含めて考えていかなければいけないと思っています」

大阪体育大学(大阪府泉南郡熊取町朝代台1−1)
ホームページ http://www.ouhs.ac.jp/

取材してみて一言

上島誠司

日本語能力の向上は急務
 「日本語技法I」の後継授業である「日本語技法II」の授業を、学生に交じって受けた。音楽を聴きながら運動をすることの是非を、新聞記事を使い「引用する」というテーマに沿って勉強していた。

 800字の作文を書くのだが、すでに原稿用紙に書き出しの文章が書いてあり、記事から引用する部分のカッコ内は空欄にしてある。この部分を埋めたうえで、文章をつないで自分の意見を書いていくのだ。真っ白の原稿用紙だと手の出ない学生もいると思うが、穴埋めにしておくと取り組みやすいようで、真剣にペンを走らせていた。

 長尾准教授らはこうした工夫を繰り返してきた。授業後に受け持つ教員が集まり、アイデアを共有する努力も続けている。聞くと、高校の国語の先生だった講師以外、担当の教員の専門は、工藤准教授が心理学、堤准教授が数学といった具合に、文章作成を教える専門家はいない。長尾准教授もサンスクリット文学が専門だが、赴任当初、基本的な学力に欠ける学生が多く、講義型授業は成立せず、書かせたリポートの大半は小論文としての体をなしていなかったことから、この授業を編み出したそうだ。

 同じ悩みを抱える大学は多いが、教員が自分の専門ではないと手を出せていないのが実情だ。「中学や高校の先生の分野なのでは」という声も出そうだが、真剣に取り組まねばならない課題であることは明白だ。

 今回取材した実践は、中学、高校はおろか小学校でも十分、日本語の能力を向上させる授業を創造するヒントが数多く隠されていると感じた。(アサヒ・コム教育チーム 上島誠司)

 このコラムは、おもしろい授業やユニークな行事、新しい学部や学科の内容など、各学校が取り組んでいる教育実践の具体的な中身を取り上げ、読者のみなさんに学校選びの参考にしていただけることを目指しています。小学校や中学校、高校、大学をはじめ、専門学校など教育に取り組むすべての学校を対象に、その取り組みの中心人物(学長や学部長、校長、プロジェクトリーダーなど担当の先生)にインタビューし、その学校の一押しの教育内容を紹介してもらいます。
 読者のみなさんのなかで「この学校のこんな取り組みを紹介してみては」というご提案などありましたら、教えてください。よろしくお願いします。

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