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「考えることのできる人」づくり

横浜国際女学院翠陵中学・高等学校

2010年5月6日

写真緑豊かな自然の中にある学校

写真杉田浩司教頭

写真オーストラリアでの研修

写真ネイティブの教員から学ぶ英会話の授業

写真姉妹校との交流事業

 横浜国際女学院翠陵中学・高等学校は、横浜市北西部の緑豊かな広大な敷地に位置する有名校だ。来春から共学化に踏み切り、新たな歴史の扉を開く。海外研修を含む語学教育など多彩な取り組みで国際理解教育に定評のある同校だが、男子を迎え入れ、「考えることのできる人」づくりという教育理念をさらに進化させていこうと意気込んでいる。共学化という新たなスタートの中心的役割を務め、入試広報部長でもある杉田浩司教頭に話を聞いた。

――共学になるそうですね。

 「来年4月から男子を迎え入れ『横浜翠陵中学・高等校』と校名をかえ生まれ変わります。中学と高校で入試を行いますが、募集人員は中学1年で105人、高校1年は120人を予定しています。男女比については、高校は半々を考えていますが、中学は6割程度を男子にしたいと思っています。中学段階ではまだ女子の方が精神的な成長が早く、男子の数を多めにして萎縮させないように配慮したいと思っています」

 「教育内容としては、これまでの実践を踏まえ、中学では英語、数学、国語の基礎の定着を図ります。『C&Lプログラム』という土曜講座を設けて実践力を養い、特別授業『数の科学』では理数の力を深く学んでもらいます。この授業では、原理や定理そのものがなぜそうなるのか、といった生徒の好奇心を引き出すようなやり方で、学びたい、知りたいという意欲を喚起する工夫を凝らそうと思っています。高校では特進・文理・国際の3コース制を導入し、土曜ゼミを充実させ、生徒の進学や将来の生き方の基礎を築いていける学力を育てたいと思っています」

――男子が入学してくるということで戸惑いはありませんか。

 「生徒や父母からのクレームはありません。もともと『考えることのできる女性(ひと)』の育成を教育理念に掲げ、世界を知り、違いを認める、自分を見つめることのできる人間の育成に心血を注いできました。『女子だから』を意識するより、人間そのものを磨く教育を実践してきました。共学に対する在校生らの説明会でも、男子を迎えるのはまさに『違いを認める』という教育実践が試されるわけで、みんながこれまで学んできたことの真価が問われる出来事だと話しました。もちろん我々教師も同じです。生徒もこれからどんな新たな発展があるのか期待に胸を膨らませているという感じですね。『考えることのできる人』の育成は男子にも共通した教育理念だと思うので、これまでの我々の実践をさらに進化させる大きなきっかけになると思っています」

――国際理解教育には定評がありますね。

 「毎年秋に、中学3年生全員がオーストラリアに2週間、研修に行きます。生徒1人が一つの家庭にホームティさせてもらうのが特長です。地元の学校に登校して学ぶ時以外はその家庭に1人でお世話になり、2週間過ごすのです。お世話になる過程で意思の疎通がうまくいかず、いろいろなことが起こります。最初の2、3日は緊張して寂しくて大変らしいですが、徐々に慣れていき、終わってみると精神的に大きく成長し大人になっています」

 「ある生徒の例です。行く前は自己主張があまり得意ではなく、おとなしい性格でした。ホームステイ先で自分の好きな食べ物のことを聞かれたものの、うまく伝わらず嫌いと勘違いされ、食事のたびに自分だけ回ってこず情けない思いをしたそうです。帰国後、彼女は、きちんと自分の意思を伝えることの大切さを身にしみて感じ、授業でも分からないことは積極的に質問するようになり、何事にも積極的になっていきました。オーストラリアの経験を教訓にしたのです。この例のように、我々は英語を学ぶことは単に英語の運用能力が高めるだけではなく、他者を理解した上で自己主張することの大切さを知ることだと考えています。外国語は話したいことがないと上達しません。我々が掲げている『考えることのできる人』を育成するツールとして外国語教育を位置づけています。こうしたことを意識して1年生から英語を中心とした国際理解教育を進めていきます」

 「夏休みには英国、アメリカ、カナダで3週間の研修を受ける制度もあります。学生寮で各国から来た同世代の生徒といっしょに研修したり、職場体験を組み合わせた研修プログラムがあったりするなど多彩なプログラムが用意されています。一方で、中国、メキシコ、アメリカに姉妹校があり、相互に交換留学も行っています」

――英語と他の教科とを組み合わせたユニークな授業を実践していると聞きました。

 「コラボレーション授業ですね。よく勘違いをされるのですが、たとえば生物や世界史の授業を単に英語で行うというものではありません。例えば『生命』をテーマにした英語の授業の時に、生物の教員にも参加してもらい生命について専門の立場で解説してもらいます。そうすることで学びの幅が広がり、生徒の知識も深まります。今年度からリンク授業という試みも始めました。例えば、『イスラム教とキリスト教』というテーマを、英語や世界史、現代社会、国際理解などの各科目の授業で同じ時期に1〜2週間集中的に採り上げ、学びます。こうすることによって、生徒の気付きを促し、興味を引きつけ、理解が深まることをねらっています。生徒も本当の意味での勉強の面白さを実感しているようです。我々教員も盛り上がっており、次はどんなテーマでリンクをやろうか時には職員室で3時間も議論しています」

――共学化を来春に控え、準備も大変だと思いますが、いかがですか。

 「冒頭にも言いましたが、まさに我々がこれまで実践してきた『違いを認める』教育が試される出来事だと思います。ただ、男子が加わることで、思考の仕方や行動様式の違いが日常的に意識され、面白い“化学反応”が起こるのではないかとわくわくしています。生徒はもちろん、我々教員も指導の幅が広がり、新たな可能性が広がると大いに期待しています」                    

横浜国際女学院翠陵中学・高等校(本校・神奈川県横浜市緑区三保町1)
ホームページ http://www.suiryo.ed.jp/

取材してみて一言

上島誠司

共学化で「翠陵メソッド」など多彩な取り組みの進化楽しみ
 英語を話すと身振り手振りが派手になった経験をした人は多いだろう。「I do not know」とか「I know」などのように否定か肯定の結論が先にきて、日本語のように語尾まで聞かないとどちらか分からないといったあいまいさがなく、自己主張がはっきりしているせいだろう。主張がはっきりしていると相手に分かってもらおうと、自然とボディアクションが米国人のように大きくなるようだ。翠陵中学・高等校の外国語教育の目指すところは、こうした文化的背景を知り、意識的して自分の考えを論理的に組み立てていけるようにしていくことを目指しているように思う。

 単に大学受験に役に立つといったレベルにとどまっているわけではなく、杉田教頭は「あくまでコミュニケーションの道具として英語を使いこなせるようになることで、自分で物事を考えることができる人間になるための手段として外国語を学んで欲しいと思っている」と強調する。すなわち、英語「を」学ぶのではなく、英語「で」学ぶということだ。 

 従って、全国の教室でよく行われている英語の一文を読んで逐一翻訳していったり、日本文を一字一句英訳していったりといったレベルの授業だけではない、6年間で「英語で英語を解釈していく学習」にまで引き上げる「翠陵メソッド」を確立したそうだ。中学1年から「本当に使える英語力」を意識した授業展開をネイティブの教員を交えて実践。英文の大意を把握するためにキーワードを抜き出しお互いの関係を図式化して理解していく「マッピング」や、英文を英語で要約したり、自分でテーマを選び英語で研究発表したりといった「翠陵メソッド」を通じて、社会に出てからも通用する英語力を育む実践を続けている。

 「外国語以外の教科でも生徒には、自分で学んでいける力をつけて欲しいと思い、教員みんなで日々工夫しています」という杉田教頭の言葉を聞いていると、来春から男子を迎えることで同校がどんな進化を遂げていくのか、非常に楽しみな気がするのは私だけではないだろう。(社長室教育事業センタープロデューサー・上島誠司)

 このコラムは、おもしろい授業やユニークな行事、新しい学部や学科の内容など、各学校が取り組んでいる教育実践の具体的な中身を取り上げ、読者のみなさんに学校選びの参考にしていただけることを目指しています。小学校や中学校、高校、大学をはじめ、専門学校など教育に取り組むすべての学校を対象に、その取り組みの中心人物(学長や学部長、校長、プロジェクトリーダーなど担当の先生)にインタビューし、その学校の一押しの教育内容を紹介してもらいます。
 読者のみなさんのなかで「この学校のこんな取り組みを紹介してみては」というご提案などありましたら、教えてください。よろしくお願いします。

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